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天才子役!天原久遠のオーバーワーク  作者: あすもちゃん
進撃の小学生編

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128/131

128、弟子入り志願

あれから例のテンラクはどうなったかというと、なんかバズった。


発端は一人の女子高生。

あの番組のあとすぐに「【テンラクやってみた】女子高の日常」のタイトルでショート動画型SNSに投稿されたところ、可愛らしくもキレのあるネタが大ウケし大バズリ。

すぐに我も我もと後に続いた、主に女子が。


元々仕事でもなければ喋りや一人芝居が上手いのは女子の方だ。

楽器やダンスと違い特別な訓練もいらず、おしゃべりが好きならそれなりに形になるカジュアルさ。

加えて日本の伝統芸能って一周回って逆にクールじゃね?というこの時期のJKにありがちな感性により、上手い具合に流行りに乗ったようだ。


これには私のデモンストレーションの効果もあった。

あの落語三銃士や私の扇子捌きが彼女たちの琴線に触れたようで、若者がやる落語はカッコイイと認識された。

副次効果で扇子も流行り、今やデコられた扇子は女子の必須アイテムになりつつある。


女子高生たちが扇子で口元を隠しウフフ、オホホと語り合う。

まるで異世界転生ものの学園編のようでちょっと面白い。


そんなわけで女子の間で空前の落語、いやテンラクブームが起こり、各地で日陰ものだった落語部が復活、もしくは新しく発足。

寄席(落語演芸場)には古典にも興味を持った女子たちが大挙して押しかけ、古典落語界もついでに潤った。

噺家たちはここで若い客を逃してはなるものかと心機一転、色々若者向けに工夫を凝らして彼女たちを満足させているようだ。


まだ大会が残っているが、事態は順調に推移していると見ていいだろう。



「ふぅ」


「あら、お疲れですわね久遠さん」


「美園先輩、ええ少し慣れないことをしてるので」


ここは御柱学園ソロリティのサロン。

ハイソサエティーな生徒たちが優雅に語らう社交場。

私はこの場を案外気に入っており、時間があれば可能な限りソロリティには顔を出すようにしている。

他のメンバーも家の用事で忙しい子が多く、この日も一年生は私だけだ。


ちなみに三馬鹿達はまともになるまで出禁にしてあるので、しばらくはこのハイソな空気が壊されることはない。


「ふふ、流行ってますわね、テンラク」


「なんとかなりそうそうで良かったです」


この縦ロールの6年生、佐伯美園副会長は如何にもなお嬢様だが、情報通でもあるので下々の流行にも何気に詳しい。


「後輩の仕事が成功して私も誇らしいのですけど、皆が扇子を持ち始めたのだけは困りますわ」


「先輩は前々から扇子使ってますもんね」


先輩は自前の貴族扇子を持ち込み、普段から愛用していた。

西洋貴族の象徴たる扇子と縦ロールこそが彼女のアイデンティティなのだ。

それなのに皆が扇子持ち始め、しかも知らない人から見ればブームに乗っかったミーハーな人間と見なされる。

扇子ガチ勢の先輩には面白くないだろう。

しかも流行りの元はコッテコテの和風文化の落語である。

西洋フリークな先輩には耐えがたいようだ。


「初等部ではそこまで流行ってないのが救いですね」


小学生程度だとそもそも落語を知らなかったりするのでそこまで流行ってはいない。

それでも高学年には徐々に浸透しているようだけど。


「中学に上がるまでには収束して欲しいですわ……あ、でもそうなると扇子は流行遅れと見なされるのかしら、どうすれば……!」


ガビーンとショックを受ける先輩。

それならずっとブームが続いていた方がまだマシだろう。

なんだか悪いことをしてしまったな。


「ところで久遠くん、夏休みのことは聞いてるかい?」


一緒の席にいる大鳳麗那会長が話を変える。


「夏休み?」


私は仕事で休みがちなので、色々と聞いていないことが多い。


「ソロリティでは毎年皆で別荘に合宿に行くんだよ。場所は六年生が用意するのが通例でね、今年は美園が提供してくれた」


「ええ、海沿いにある我が家自慢の別荘ですわ、プライベートビーチもありますの」


「別荘⁉」


流石お金持ちが集うソロリティだ。

まるで漫画のキャラのような夏休みを送っている。

私も相当なお金持ちだが両親の方針で庶民暮らしをしているし、私もそれが楽だから文句もない。

でもそうか、お金持ちは夏休みに別荘で過ごすんだ……!


「えーすごい、やっぱりヨットに乗ったりするんですか?」


「ありますわよヨット。皆で乗りましょうか」


「やったぁ!」


お金持ちの海遊びと言えばヨットである。

これは俄然楽しみになってきた!


「でも久遠、仕事は大丈夫なの?」


「ハッ!」


隣りでお茶を飲んでいた瑞希ちゃんから冷静なツッコミが入る。


「……ギリいける?」


2、3日ならなんとかなるか?


「私も数日しかいけないわね」


「用事があるならヘリを出しますわよ?期間中は別荘から通えばいいわ」


「へ、ヘリで現場直行ですか」


「すごく目立ちそうね……」


流石お金持ちは発想のスケールが違う。

私が将来庶民暮らしを辞めたとして、果たしてこのような発想ができるのか甚だ疑問である。

とりあえず夏休み序盤はソロリティメンバーと海だ。

楽しみだなー。



トントン。


「失礼します」


私が先輩たちに過去の合宿について聞いているとサロンに客が訪れる。


「やあお疲れ様、どうしたんだい?」


「こちら生徒会の報告書です」


「ああご苦労様」


どうやら生徒会の人らしい。


生徒会はソロリティの下部組織。

生徒の最高意思決定機関はソロリティにあり、生徒会は命令を実行する組織だ。

とはいえそれほど命令をする機会はなく、大体は例年通りでこと足りる。

細々とした仕事も完全に生徒会に任せているので、実質ソロリティはなんの仕事もしていない。

強いて言えば行事などで挨拶をしたり、学校の代表として矢面にたったりするくらい。

象徴や憧れといった存在なのだ。


とは言え一応上司なので決済と、こうして報告書を確認する義務はある。

私からすればもっと仕事しろよと思うが、ここにいるメンバーの殆どが将来報告者を読むだけの存在になりそうなので、これも将来の練習になってはいるのかもしれない。


書類を読む麗那会長を眺めながら私がそう考えていると、生徒会の男子がこちらを見てくる。

なんだろう。


「あの、天原さん」


「はい」


どうせサインや握手を求められるのだろう。

私が筆箱からペンを取り出そうとすると、彼は突然床に這いつくばり、土下座をした。


「僕を下僕にしてください!」


「はい?」


なんとこの少年、自分から下僕になりにきたぞ。


「えーっと、なんで?」


ソロリティのメンバーが驚いてこちらを見ている。

やめろやめろ誤解されるだろうが。

私はそんな下僕なんて……いや取ってたな。

ていうか既にソロリティメンバーを下僕にしてたわ。


「失礼しました、僕は平塚渉。家は政治家一家で、親は僕に政治家になることを期待し、僕もそれに応えたいと思っています」


そう語りだす平塚先輩。


「その勉強の一環として生徒会に入ったのですが、やってることは雑用ばかり。果たして将来のためになっているのか疑問でした。そんな時同じ学年の金成純一郎くんが下僕になったと聞きまして」


「あーうん」


豚一郎か。


「初めはざまあみろと思ったんです、彼は度々生徒会に無茶な命令を出してきて迷惑していましたから。でも下僕になったハズの彼は毎日イキイキとしてる上に素行も直り成績も急上昇、人間的にも一回り以上の成長を見せているではないですか」


「はぁ」


「なので僕も将来の総理大臣と目される久遠さんの下僕になれば、立派な政治家になれるのではないかと思った次第です!」


何か初耳なこと言われたぞ。


「うーん色々ツッコみたいところだけど、まず総理にはならないから」


恐らく私が「総理大臣になって欲しい芸能人ランキング」で3年連続一位だから言ってるのだろうけど、私は総理になる気はまったく無い。

というか絶対なりたくない。

プライベートは無く周囲は足を引っ張る者ばかり、常に邪魔され自由に国政を動かせる訳でもない。

誰があんな罰ゲームのような役職に就きたいと思うのか。


「そんな⁉あなたがならないなら誰がなると言うんですか⁉」


「知らんがな」


それに政界には分家の半月なかつき家がいる。

なにかあればあの家を頼ればいい、わざわざ私自身が政治家になる必要はない。

真のお金持ちは政治家にはならないものなのだ。


「それと豚一郎はアレが特別アホだったから下僕にしただけで、私は別に好き好んで下僕にしてる訳ではないですから」


ぶっちゃけノリで決めている。

なんか下僕になりそうなやつを見るとピンとくるのだ。

その点この先輩は……割と素質がありそうではあるが要らないかな。


「しかし僕は……」


「それに私の下僕だと知られると将来困ると思いますよ?あいつは天原久遠の傀儡だって政敵に叩かれるんじゃないですか?」


まあ半月議員も似たようなもんだが、彼は親族だから半ば公認である。


「それは、確かに……では弟子ではどうですか?」


「弟子ぃ?」


弟子ときたか。

確かにそれなら問題ない。

でも正直めんどくさい。

ただでさえ全方面に面倒を見てるのに、弟子の面倒など見てられない。


「あーじゃあ助言程度ならいいですよ?」


「助言ですか……ではとりあえずはそれでお願いします」


とりあえずってなんだよ、弟子にはしないっての。


「そうですねぇ、じゃあ私が通ってる道場を紹介するので、そこに通ってください」


「道場、ですか?」


「ええ、ちょっと変わった格闘技の道場です」


実際は忍者道場だが。


「しかしそれになんの意味が?」


「いいですか先輩、例えばある善良な生徒が超怖そうな不良に絡まれたとします、あなたはどうしますか?」


「それは……先生を呼びに行くかと」


「その間に生徒は殴られて終わりです。だからと言って助けに行っても2人とも殴られて終わり。でも先輩が強かったら?」


「確かに僕が強ければ不良を倒せるでしょう、でも暴力はいけません」


「なにも直接殴る必要はありません。例えば先輩が剣道で優勝して有名だったらどうですか?先輩が現れた時点で不良は逃げ出すでしょう」


「それは……」


「それに名声がなくてもあなたが強く勝てる自信があるなら、あなたは迷うことなく生徒を庇いにいきますよね?」


「そうですね」


「力というのは直接振るうだけではなく、持っているだけで有利になったり、支えになったりするものです。あなたが将来政治家を目指すなら色んな力を付ける必要があります。人脈と知力はこの学園で付ければいいでしょう、でも武力は……」


「成程、よく分かりました!是非紹介してください!」


「よろしい、そこで力の使い方を学んでください」


あの道場は忍術というチート級の技を教えるだけあって、力とは何かを徹底的に教える。

ここで学べば少なくとも頭お花畑な政治家になることはないだろう。


「ありがとうございました!」


「頑張ってくださいね」


そう言って笑顔で去って行く平塚先輩。

やれやれ、せいぜい頑張って立派な政治家になってくれ。


「あんたってほんと世話焼きよねぇ」


「こうやって借りを作って将来返して貰うんだよ瑞希ちゃん」


「はいはい」


私は優雅に入れ直した紅茶を傾けた。



そしてこの日以降、私のもとに弟子入り、下僕入りしたい者が列を成すのだった。


……全員帰れ!


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