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天才子役!天原久遠のオーバーワーク  作者: あすもちゃん
進撃の小学生編

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120/130

120、薬師寺山でキャンプ 後

雪ちゃん焚き火ダイブ事件から一息つき、美味しい川魚の塩焼きを食べた私たちは、焚き火を囲みマッタリしていた。


「塩焼き美味しかったです!」


「自分で釣った魚だと尚更だよね」


お姫様に塩焼きなどどうかと思ったが美味い物は美味い。


調理中は青ざめた顔をしていたせっちゃんだが、覚悟を決めた後は積極的に調理に参加した。

これで命を頂くという意味を知り、皇族としてまた一歩成長したことだろう。


私が未来の王の成長に満足していると、くだんの白うさぎが鼻をピスピス鳴らしながら私に近づいてきた。

まったく馬鹿なことをと言いたいところだが、このうさぎがせっちゃんの為にその身を捧げたという献身、忠義の心は認めざるを得ない。


「まったく大した兎よ」


私があっ晴れじゃと抱きかかえると、額の毛が三日月型に変色していることに気が付いた。


「あれ?焦げ跡が残っちゃったかな?」


やけどは治したはずだが、流石に焦げた毛は治らなかったのだろうか。


「ほんとですね、まるで月の兎さんのようです」


月の兎……。

たしか例の神話では、身を捧げた兎は神の手により月の兎となったのではなかったか。

私は再度雪ちゃんをじーっと見つめる。


(うん、ないない、しーらないっと)


私は何も見なかったことにした。


「さて、ご飯も食べたし、山頂に行ってみよっか」


「そうですね、雪ちゃんもおいでー」


すっかり気に入り、白うさぎを離さないせっちゃん。


「ご一緒します」


斎藤と黒服たちも着いてくる。

大蔵さんと竹丸は三馬鹿の手伝いをしているようだ。


しばらく歩くと山頂の社に着く。

山頂は荒れているが整備された跡があり、かなりの広さの平地が広がっていた。

昔は観光地だった名残でお土産屋らしい建物や神社、寺まであった。

聖山というくらいだしもともと神道で祀られていて、あとから修行僧用に寺が出来たのだろう。


神社の手水舎にはちょろちょろと湧き水が流れ、今でも水回りは生きているようだ。


(綺麗な水にお土産屋、遊歩道もある、なにか名物お菓子を作れば十分客が呼べるな。神社には縁結びの神とか祀って、ここで縁結びアイテムを買うとご利益があるとか噂を流して……)


私は廃墟と化した山頂を見ながら、パチパチとそろばんをはじく。


(神社はいいけど寺はどうしようか、あまり観光には向かないが……、あ、修行体験とかできるかな?そういや蘭子さんがそういうのツアーがあるって言ってたし)


見れば見るほど可能性のある土地だ。

問題はアクセスの悪さ。

車で来れないこともないが、わざわざここまで来るほどのコンテンツを提供できるか否か。


(出来ればもう一つ目玉となるものが欲しいが……)


「くーちゃん?」


ぶつぶつ言い始めた私を心配してせっちゃんが声をかけてくる。


「ああごめん、ちょっとここの活用方法を考えてて」


「ふふ、流石ですね、使えそうですか?」


「うーん、メインとなるコンテンツがちょっと弱いんだよねぇ」


「コンテンツ?」


「斎藤はどう思う?」


「自然公園としては十分だと思いますが、収益は期待出来ませんね……いっそ野外フェス会場とかにします?」


「イベント会場か……」


うーん……と考えてるとせっちゃんの腕の中にいた白うさぎがピョンと飛び出した。


「あっ、雪ちゃん!」


タタタ―っと走り出す兎を追いかけるせっちゃん。


「せっちゃん走ると危ないよー!」


追いかける私たちはやがて、とある建物の前で止まった。


「ここは?」


「うう、中に入っちゃいました」


どうやら崩れた穴から入り込んでしまったようだ。

しかしこの建物の外観は、まるで旅館のようではないか。

そして玄関に燦然と輝く輪っかに3本の縦波線マーク。


「まさか……温泉⁉」


「久遠様!」


斎藤も期待に満ちた声をあげる。


マジかよ、あったらいいなと思ってたけどほんとにあるとは。

私は逸る気持ちをそのままに、玄関を破壊し推定温泉宿に突入する。

朽ち果てた廊下を走り、脱衣所らしき部屋を蹴散らしながら扉を開けるとそこは――


「まあ、そりゃそっか」


温泉跡と思われる枯れ池だった。


「うーん流石にそう上手くはいきませんか」


すっかり温泉好きになった斎藤も残念そうだ。


「ぐぬぬ……」


でも温泉が出る山なのは確かだ。

掘りなおせばまた出るかもしれない。

堀跡とかないかな……。


「あ、雪ちゃん」


私が辺りを見渡すと、白うさぎが現れ、また走り去って行く。

まるでこっちにこいと誘導しているようだ。


ていうかあれは確実に誘導してる。

いい加減認めるべきだろう。

あのうさぎ、絶対只のうさぎではない。



「これは……」


そうして追いかけた先にはボロボロの柵に覆われた深い穴があった。

水路もあるし、明らかにこれが源泉跡だろう。


でも枯れている。

仕方ない、ここを起点にもう一度掘ってみるか。

雪ちゃんもそれを望んでるようだし。


「やれやれ、業者を呼ぶか……あ、歯が抜けた」


温泉探索に一区切り着いたと思ったら、さっきからグラついてた乳歯がポロっと抜けた。


『久遠の歯』


私の霊力を込めたこの歯は万病を癒し、疲れや怪我を取り除く大変ありがたい至宝として高値で取引されている。

初めはオークションで一部のお金持ちが頑張れば入手できたが、今では国が介入し政府が買い上げ、友好国に有償で貸し出したり、裕福な国には天文学的な値段で売ったりしているらしい。


その際には同盟を結んだり、引き換えに核廃棄を迫ったりと気付けば戦略級の道具に利用されている。

まあ、平和に使われるのなら文句はない、所詮ただの乳歯だし。


ちなみに歯が売れると毎回私の口座に政府から100億円が振り込まれる。


「わーい100億ゲット」


早速霊力を込める。


「無病息災家内安全っと、じゃ、斎藤これ、あっ」


斎藤に保管を頼もうとしたら雪ちゃんに体当たりされ、ポロリと歯を落としてしまう。


大穴の中に。


「ああああああ!!!!私の100億ぅぅぅ!!!!」


音さえしない奈落に落ちる私の100億円。


「雪てめぇ何してくれるんじゃあ……!」


「キューキュー!」


戦犯の白うさぎを掴みギリギリと締め上げる。


「く、くーちゃん!雪ちゃんも悪気があった訳ではないですし!ね⁉」


「離してせっちゃん!やっぱりそいつ鍋にして食って……ん?」


ゴゴゴ……。


穴の中から音が聴こえる。


ゴゴゴゴゴゴゴッ!


「まさか……走って!」


「!雪ちゃんおいで!」


「キュッキュー!」


全力で穴から離れる私たち。


……ドッパァァァァ!!!


後ろを振り返ると穴から大量の熱湯が噴き出していた。


「うそでしょ⁉」


「うわーすごいです!」


たっぷりのお湯は枯れる気配すら見せず、枯れ池は温泉で満たされた。


「はえー……ん?」


キラキラと輝く温泉は、陽の光だけが原因とは思えない不思議な光を放っている。


「ねえ斎藤、これって」


「ええ……」


斎藤はボロボロの柱でワザと手を傷つけ、温泉に手を浸す。

すると傷は跡形もなく消え去った。


「やはり久遠様の歯と同じ効果を持ってますね、しかも丁度良い温度で恐らくアルカリ泉、美肌効果も期待できそうです」


「ええ……?」


こんなトンデモな温泉、逆に困るんだけど。


でもまあ、最近私の握手会も老人や重傷病人ばかりくるようになってなんか宗教じみてきたし、どうにかしたいと思ってたんだよね。

セルフ治療できる場所があるならあの謎の集会ともおさらばできる。


それに何といっても温泉である。


多少おかしな効果が付いてはいるものの、念願の私が好き放題できる温泉。


「ふふふ、勝った……!」


「くーちゃん?」


「キュッキュ?」


「私はここに、究極の温泉&キャンプ施設を建てることを宣言する!」


「やりましたねくーちゃん!」


「キュッキュー」


「私も手伝いますよ久遠様!」


こんな温泉があれば余裕で人が呼べる。

温泉だけじゃない。

老若男女問わず誰もが楽しめる天上の楽園を築き上げ、ガッポガッポと稼いでやろうじゃないの。


私の頭の中では急ピッチで事業計画が練られるのだった




カポーン。


「わ、すごい温泉ですね、トロトロです」


「うわ、疲れが一瞬で消えた、逆に気持ち悪い」


「キュッキュー」


簡単に浴場を掃除したあと、私たちは早速温泉を試してみることにした。

今日は体を拭くだけだと思っていたのに温泉とは、贅沢なキャンプになったものだ。


「せっちゃん今日楽しかった?」


「はい!キャンプがこんなに楽しいとは思いませんでした!」


「まあ普通のキャンプはこんなにイベント満載でもないんだけどね……」


思うに歩くトラブルメーカーの私と、輪をかけてトラブルメーカーのせっちゃんが組むと天変地異さえ起こしかねないトラブルがやってくるのだと、今日は身に染みて思い知った。


ま、こういうのも楽しくていいんだけどね。


「はー良いお湯……おや?」


目の前でプカプカと浮かんでいるのは私の歯だ。


私は歯をつまんで目の前に掲げる。


「ふむ、売れば100億だが……」


まあ、この歯はここの神社に祀っておこう。

それが一番良い気がする。


「お前もそれでいい?」


「キュッキュー」


「そっか」


私は一緒に温泉に入っている雪ちゃんの頭を撫でる。

全てはこの謎の白うさぎのおかげだ。


不思議なウサギに導かれて沸いた温泉、か……。

雪ちゃんの額の三日月をそっとなぞる。


「よし、名前は『月うさぎ温泉』に決めた!」


「いいですねそれ!」


ついでにマスコットも雪ちゃんをモデルにして商品展開だ!

ぬいぐるみ作ってー、饅頭も作ってー。

ああー無限にアイデアが湧いてくるー。


「ふふ、くーちゃん楽しそうですね」


「まあね!完成したらせっちゃんを一番に招待するよ」


「楽しみです!」


こうして私の薬師寺山キャンプ(兼視察)は大成功に終わるのだった。



「そういえば三馬鹿ってどうなったんだっけ?」


「はて?」




次回、三馬鹿の限界サバイバル体験!

豚一郎、再び死す⁉


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