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12、初めての作品

「カーーーーーット」


監督の声でハッと意識を取り戻す。

私は夢中でタブレットをタップしていた。


「おっけぇーやればできるじゃないか。説得力がグンと増したよ」


「私……出来てました?」


「おおバッチリ。見てみるかい?」


「はい」


そういって監督がパソコンを向けてくる。


『ぎやぁぁぁぁぁぁぁ!!!!』


そこには顔をくしゃくしゃに歪め、大声で何かを咆哮し、仰向けに転がり手足を振り回す、小さな怪獣が映っていた。


宥めようとする恵子さんはそんな怪獣に何度も叩かれ、心底困った様子。


そして藁にもすがるような顔をしてタブレットを取り出しアプリを起動。


タブレットの画面を見た怪獣はピタッと泣き止み、手渡されたタブレットを夢中でタップし始める。


そして心の底から神に感謝を捧げる恵子さん。


「はは……私、すっごいブサイク……」


でも……


「いい映像だろう」


「うん……!」


「あはは、よく撮れてるわねー」


「恵子さん!ごめんなさい暴れちゃって……」


「いいのいいの。おかげでグッと良くなったわ。でも子育てって大変なのねぇ。私もうしばらく独身でいいわ」


「え……えっとその、それはなんというか……」


私のせいで婚期が遅れたらどうしよう……


「あははじょーだんじょーだん。早く結婚したいわぁ」


「お、応援してます……」


そして隅でかしこまってる開発の人に声をかける。


「おじさんこのアプリほんとに凄いですね!」


「ハ!恐縮です!」


「もー。もっと普通にしていいのに」


「いえ、それは……我々にとって本家の方は本当に雲の上の存在なので、普通に無理ですハイ……」


「そ、そうなんだ……」


月詠家ってなんなの?


「えーっとじゃあ、此度は素晴らしいアプリの開発大儀であった。これで世の親達の苦労も大幅に軽減されるであろう、 あっぱれである」


「ははぁぁーーー!」


適当に言ったらいきなりひれ伏して泣き始めた。


こわぁ。


「プッ、なにそれあははは!」


「くーちゃん楽しかった?」


「うん!えーっともしかしてママ、こうなること分かってた?」


「ちょっとねー、あー少し鼻が伸びすぎてるかなー危ないかなーって。そしたらビビッと来て今回の仕事もぎ取ってきちゃった」


例の直感かぁ。

私自分のことチートだと思ってるけど、ママも大概チートだよね。


「ありがとママ」


母にぎゅっと抱きつく。

そういえば最近はこうして抱きつくこともなくなっていた。

でも抱きついていいんだ。

私、3歳なんだし。


「うふふ、くーちゃん自分を取り戻したみたいね。じゃあ、帰ろっか」


「うん」


荷物を持って最後の挨拶に回る。


「監督、今日はありがとうございました。お先に失礼します」


「おう、おつかれー」


「久遠ちゃんおつかれー」


「恵子さんありがとうございました」


「うん、また一緒にお仕事出来ると良いね」


「はい!」


「久遠さんお疲れ様でしたー」


「久遠ちゃん良かったよー」


スタッフみんなに声をかけられる。


そうだ、タケルもこの瞬間が好きで、私もそうなりたいって思ったんだ。


「あー久遠ちゃん」


スタッフに小突かれ、

監督が最後にコホンと声をかける。


「さっきはキツイこと言って悪かった。この作品は君じゃなきゃ出来なかった。君で良かったよ」


それはコネを気にしていた私が最も望んでいた言葉で……


「あ、あいがとうございましゅ……」


泣いてしまった。

良かった、望まれた仕事が出来て、認めて貰えて……。


「おいおいここでギャン泣きは勘弁だぞ」


「これはそういうのじゃあいましぇん……」


「ふ、分かってるよ。それじゃ、また一緒に作品を作ろう」


「はい。今度は一発で決めてみせます!」


「じゃあ、お疲れ」


ポンポンと頭を撫でられる。


そうして私、天原久遠の記念すべき最初のお仕事は、私に大きな影響を与え終わるのだった。

思っていたデビューとは違ったけど、これでいい、これがいいと思えた。


子役というのは思ったほど簡単じゃない。

それに私のチート能力もあんまり使えない。

でもだからこそやりがいがある。


「よーし次も頑張るぞー」


今までの少し軽い気持ちとは違う、新たな闘志が私の小さな胸に燃え上がるのだった。



――後日談――


あのCMはツクヨミグループがスポンサーをする多数の番組で流され、

私のギャン泣き姿は日本全国どころか海外にまで流出した。


CMを見た母親たちが半信半疑でアプリをインストール、その後すぐ神に祈る姿が全国で見られ、その効果を実証。

動画サイトを通じて海外でも話題になり「また日本がやりやがった」と話題沸騰。

学会からも注目され、アプリはCMと共に、

世界中に子育ての必須アイテムとして広まるのだった。


ただあの泣き叫ぶ子供は、あまりのガチ泣きっぷりに、子役ではなくその辺のただの子供だと思われ、特に話題になることはなかった。


私としてもそんなに見られたいものでは無いので一安心である。良い作品だとは思うけど。


だだ……


「これいつまでやってるの?」


「くーちゃんの代わりなんてとんでもないって、ツクヨミゲームスが新しいの作りたがらないのよねぇ」


中学に上がるまでこのCMは流れ続け、私は見るたびに顔を赤くするのだった。


せっかくなのでもう少し1日2話更新頑張ります。

だから☆5評価ください!(直球)

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