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117、無限戦隊エタレンジャー3

【N市、人材派遣会社ファイナルと提携!】


【お手柄、ファイナル社員がひったくりを撃退!】


【M町、ファイナルの傘下に入ることを表明!】


「くそっ……何なんだみんなファイナルファイナルって」


最近、街では方針転換したファイナルの話題を聞かない時はない。


「最近までは悪の組織だったじゃないか、みんな騙されてる、だってあいつらはユカリを……」


『皆さんの安全は我らファイナルがお守りします、いつもあなたの隣りにファイナル、ファイナルをよろしくお願いします』


そのユカリはどういうことかファイナルの若きリーダーとしてメディアに出まくっていた。


「おかしいだろ……」


攫われ、敵になり、ファイナルの手から救おうと思った妹はいつの間にか有名企業のCEO。

これが悪の組織なら戦えた、しかしファイナルは今や誰もが認める正義の企業。

レッドは拳の振り降ろし先が分からず、心が彷徨っていた。


「最近はすっかり出動も無くなって実質解散状態だし、俺はこれからどうしたら……む、あれは!」


目の前でファイナルの戦闘員ウェーイが、お年寄りから荷物を奪おうとしていた。


「ははっ、やはりそうだったか!変身!やいウェーイども、ご老人から手を放せ!」


「え?な、なんすか?俺は……」


「問答無用!エタキーーック!」


「ぎゃぁぁあーーー!」


レッドの渾身の蹴りにより、吹き飛ばされるウェーイ。


「ふん他愛もない。大丈夫ですかご老人、もう安心で「なんてことすんだい!」え?」


倒れたウェーイにヨタヨタと駆け寄るご老人。


「大丈夫かい?……この子は足の悪い私の代わりに、親切にしてくれてただけなのに!」


「お、俺はただ……」


「へへ、いいっておばあちゃん、それに俺が昔悪いことしてたのは事実だからさ、報いが来たってだけさ」


「何言ってんだい、今は反省して良いことしてるじゃないか。それを邪魔するなんてそれこそ悪さ」


「あ、悪、俺が?う、うわぁぁーー!」


レッドはもう訳が分からず、逃げ出した。




「ユカリのご飯が食べたいな……」


散らかったコンビニ弁当やカップメンの残骸が敷き詰められた部屋でレッドは呟く。

仕事を失い、ろくに風呂も入らず髪はぼさぼさで不衛生。

目は落ちくぼみ、かつて輝かしいヒーローだった姿はそこにはない。


「へへ、また悪を見つけたぜ、正義の俺が正してやらなきゃな……」


コメント欄に尤もらしいことを口汚く打ち込み、他人を攻撃する。

そこにいたのは正義のヒーローではなく社会の害悪正義マン。

今やレッドはSNSで軽犯罪を見つけては正義棒を振りかざす、悲しき怪人と化していた。


「回転寿司の醤油を舐めるなんて悪質!学校も特定して退学まで追い込んでやる!……ん?メール?」


【あなたには数度にわたる悪質な誹謗中傷の疑いがあり……】


開示請求された。



ウィーン。


「……どうしてこうなった……」


裁判所で罰金を支払い、トボトボと路地裏を歩くレッド。

そんなレッドに小さな人影が声をかける


「情けないわね」


「ユカリ……いや、バイオレット」


それは最愛の妹にしてファイナルのCEO、プリンセス・バイオレットだった。


「かつては正義のヒーローとして立派に戦ったあなたはどこに行ったのかしら?エタレッド」


「はは、お前がそれを言うか……流石だよバイオレット、まったく戦わずして俺たちを解散に追い込むなんて、完敗だよ」


「まあ結果的にそうなったわね」


「正義のヒーローってなんなんだろうな。悪が消えたらヒーローは成り立たない。結局、悪を一番望んでたのは俺だったんだ。そんな奴は、正義のヒーローの資格なんかない」


「まったくくだらないわね、正義だの悪だの。そんなのどうでもいいから働きなさい。魔王を倒したら勇者の人生は終わりなの?平穏な人生を送りたいから魔王を倒すんでしょうが。あなたも悪が消えたなら、一般人としてのんびり平穏に生きればいいのよ」


それを聞いてレッドはハッと思い出した。


(そうだ、俺はユカリと平穏に暮らすために悪と戦っていたんだ。なのに俺はいつのにか悪と戦うことが目的になっていて……)


「……そうだな、俺、働くよ」


「ふん、丁度いいから私の会社で雇ってあげるわ」


「え?ファイナルに?い、いやでも流石にファイナルは……」


「ちなみにあなたのお仲間や博士はすでにファイナルで働いているわ」


「あいつら!……分かりました、よろしくお願いします」


「決まりね」


「……あの、なんで俺を?敵だったのに」


「なんでかしら?あなたを見てるとほっとけなくてね」


「ユカリ……」


こうしてレッドはファイナルで働くこととなった。




ドンガラガッッシャーン!


「こらぁ新入りー!なにやってんだー!」


「すみません!すぐかたします!」


「おー次これたのむわー」


「はい!」


…………


「よ、新入り!飯行こうぜ」


「あ、はい、ご一緒させていただきます」


研修の雑用を終え、広い社員食堂へと向かうレッドと指導役の先輩。


「すみませんでした先輩、俺色々と慣れてなくて……」


「いいって新人ならそんなもんさ、今の内に沢山失敗しときな。そうそう俺のことはリュウジでいいぜ」


「はいリュウジさん、俺は」


「はは、知ってるよ、エタレッドだろ?実は俺、お前と戦ったこともあるんだぜ?まあキック一発でやられたけどな」


「あ、そ、その節はすみません……」


「そんな謝んなって!昔は敵でも今は共に働く仲間だ。一緒に頑張ろうぜ」


「ありがとうございますリュウジさん」


「さ、飯食おうぜ、ここの社食はうまいぜー?何せ姫自らが作ってくれるからよ」


「え、姫って……」


「我らがプリンセス・バイオレット様よ。すげえよなぁ、あの幼さでCEOとかさ、俺らのことめっちゃ大事にしてくれるし……」


「ユカリの……」


震える手で社食のオムライスを食べる。


「う、うう……」


懐かしい、ユカリの味だった。


「おいどうした、仕事ツラいんか?」


「違うんです……あの俺、少し前まで荒れてて、正義のヒーローなのに悪いことしてしまって……」


「へっそれがどうした、俺なんて悪の戦闘員ウェーイ様よ?」


「あ……」


「今思えば過去の俺は馬鹿やってたよ、ひと様に迷惑かけてさ。でも今は違う、しっかり働いて人の役にも立って、感謝もされてさ、あのウェーイがだよ?すごくね?そりゃ迷惑かけた人には悪いけどさ、それはそれ。昔悪だったからって今良いことしちゃダメってことはないだろ?だからなんつーか、今が大事っつーか、なんだろ、変なこと言わせんなよw」


「リュウジさん……ありがとうございます、俺、この会社で頑張ります!」


「へっ、頼むぜ新入り!」



こうしてレッドは真面目に働いた。

仕事は順調で、ホワイトな職場はやりがいがあった。

かつての仲間とも(職場で)再会し、週末には同僚や先輩と飲みに行ったり、休日には遊びに出かけたり、ピンクとデートしたりもした。

バイオレットとも上司と部下として会話する機会も増えた。

レッドは形は違うものの、かつて望んだ平穏な暮らしを手に入れたのだ。


こうしてエタレンジャーの戦いは終わった。

敵であるファイナルの構成員は、全員真面目な会社員になったのだから。


……果たしてそうだろうか。

誰か、忘れてやいないだろうか。



そうして一年が経った頃。


ガシャン!


「リュウジさん?どうしたんですか⁉」


「ぐ、あ、頭が……」


うずくまるリュウジ。

よく見ると周りの社員たちも同様に頭を抱えて呻いている。


「リュウジさん!みんな!」


ブゥン――


『チッチッチ』


突然社内モニターが一斉に点灯し、見覚えのある男の姿を映し出す。


「お前は……ドクターチーギュ!」


『チッチッチ、ご苦労だったなファイナル社員どもよ、よくぞここまで組織を大きくしてくれた、これからはこのドクターチーギュがこの会社の支配者となろう!』


「な、なんだと……!」


『チッチッチ、お前たちウェーイを改造したのはこの私だ、お前たちの体には私に絶対服従するチップが埋め込まれているのだよ!バイオレットめ、私を追放だけで済ましたのが失敗だったな!チィーーチッチッチ!』


「くそ!」


「レ、レッド……」


「リュウジさん!」


リュウジが立ち上がり、レッドに拳を振り上げる。

しかし、それだけだった。


「レッド、俺を倒せ……」


「な、何言ってんすか!仲間じゃないっすか!」


「レッド、頼む、俺が、また悪になっちまう前に……」


「でも!俺はリュウジさんにまだ何も返せてない!」


レッドの脳裏に楽しかった先輩との記憶が走馬灯のように蘇る。


「そ、それに!受付の子に告白するって言ってたじゃないすか!なのに!」


「へっ、そんなのとっくに振られたさ……だから」


「うそだ!だってあの子もリュウジさんのこと好きって……」


「早くしろぉレッドー!!!お前にも守るべきものがあるんだろ!」


そうだ、ユカリ。

バイオレットもチーギュに改造された怪人の一人だ。

ならばバイオレットも……。


「う、うおおおぉぉぉお!へん、しん!!!」


1年ぶりに纏ったヒーロースーツが、燃えるように輝いた。


「ウ”ェェェェイ!!!」


「すまない……!リュウジさん……!!!」


完全に洗脳され襲い掛かるリュウジを、レッドの炎の蹴りが焼き尽くす。


「へっ……やっぱり、レッドはそうでなくっちゃな……」


リュウジはかつて憧れた赤を見て、誇らしそうに微笑んだ。


「…………」


レッドは後に残ったリュウジの社員証を拾う。

裏には、受付嬢と仲睦まじく写ったリュウジの写真があった。


「告白成功してんじゃん、リュウジさん……グスっ、今行くぞ、ユカリ!」


涙をぬぐい、レッドは振り切るように走り出した。





「レッド!」


「ブルー!みんな!」


レッドが社長室に駆けつけると、同じように戦隊のみんなも変身して合流した。

だが今は懐かしんでいる暇は無い。

扉を蹴破る。


「ユカリ!」


「チッチッチ、遅かったなエタレンジャー」


そこにはバイオレットを横抱きにしたチーギュがいた。


「ドクターチーギュ!ユカリを離せ!」


「ユカリ?ああ、お前はこいつの兄だったな。チチ!記憶を失っても兄の面倒を見るとは、美しい兄妹愛ではないか」


「う、うう……レッ、ド……?」


「ユカリ!」


「違う、痛っ!……そうだ、あなたは兄、さん?」


「ユカリ!!」


「おや?洗脳が解けかかっているな、まったく恐ろしいやつよ。コイツは危険だが、このエネルギーは有用だからな」


「チーギュ……離せ、私は兄さんと……きゃあああ!」


「チッチッチ、無理に考えない方がいいぞバイオレット。チップがある限り、貴様は私に絶対服従だ」


「チーギュ!うおおおおお!」


レッドが蹴りを放つがチーギュはひらりと躱す。


「おっと、そう急かすな、エタレンジャー諸君には私の新たな戦闘員の相手をしてもらおう」


そう言って床の影から現れたのは、ウェーイと似ても似つかない負のオーラを纏った人型戦闘員。

それは猫背に闇色のパーカーを羽織い、絶望と狂気に染まった目をしていた。


「な、なんて濃い負のエネルギーだ!」


「こいつらの名はインキャ、これからこの世界は私とインキャたちがブラックに支配してやる。精々止めてみせよ、エタレンジャーども」


そう言い残し影に潜り始めるチーギュとバイオレット。


「兄さーーーん!」


「ユカリーーー!!!」


追いかけるレッドの前にインキャが立ちふさがる。


「チギュ!」


「くっ!」


「レッド、今は」


「ああ……行くぞ!エタレンジャー再結成だ!」


「ええ!」


「おう!」


「ああ!」


「はい!」


かつて望んでいた悪が再び現れた。

しかし今はそんなことはどうでもよかった。

守りたいものを守り、平穏な日常を取り戻すために、

今再び、この力を振るうのだ!



次回予告


エタレンジャーとドクターチーギュとの新たな戦いが始まった。

ウェーイよりも強力なインキャに対し苦戦するエタレンジャーたち。

しかしファイナルの開発部にいた博士の手により新たな装備がもたらされる。

新たな想いと装備に身を包み、戦えエタレンジャー、負けるなエタレンジャー。


次回に続く。


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