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116、無限戦隊エタレンジャー2

『それじゃあ兄さん行ってくるね?外食ばっかりしちゃ駄目だよ』


『分かってるよ、爺ちゃんによろしくな』


夏休み、ユカリは仕事のある兄をおいて一人で田舎の祖父母の家へ遊びに行くことになった。

幼い妹を一人行かせるのは心配だったが、しっかりものの妹のことだ、大丈夫だろうと信じて送り出すことにした兄。


しかしユカリは、そのまま帰ってくることはなかった……。



『チッチッチ、遂に手に入れたぞ、なんと素晴らしいヨーキャエネルギーだ』


『だ、誰よあなた……ここはどこ⁉おうちに帰して!』


ユカリはファイナルの戦闘員に囚われ、謎の施設で張り付けにされていた。


『チッチッチ、ここはファイナルのアジト、私は偉大なる科学者ドクターチーギュだ』


『ファイナルのアジトですって⁉』


『しかし助かったぞ、最重要ターゲットのお前が一人ノコノコと歩いているんだからな』


『ターゲット?まさか私がやけにファイナルに襲われるのって……』


『ああそうだ、我々はお前がずっと欲しかったのだ』


ニチャッと笑うチーギュ。


『ひぃ変態!』


『勘違いするな、我々が欲しいのはお前の持つ膨大なヨーキャエネルギーよ。そのエネルギーがあればさぞかし強力な怪人になるだろう』


『わ、私をどうするつもり?』


『お前は我々の仲間になるのだ!洗脳装置起動!』


『キャーー!兄さーーーーーん!!!』


…………


……


3日後。


『目が覚めたかね?』


『私は……』


ぼんやりと周りを見渡す、何も思い出せない。


『お前は我らがファイナルの将として生まれ変わった。これからはパープルレディと名乗るがいい』


ファイナル……ツキリと男性の笑顔が頭に浮かんで、消えた。


『いやよ』


『え?』


『ダサいから嫌、あと顔がキモイから近づかないで』


『チ、チギュ⁉』


『私は、そうね……』


改造されたユカリは紫色へと変わった自身の髪を手に取る。


『バイオレット、プリンセス・バイオレットよ』


…………


……


『はぁ、ユカリ……』


『元気だせよレッド、妹さんは必ず見つかるって、博士も協力してくれてるしさ』


『そうよ、ユカリちゃんが今のあなたを見たら怒ると思うわ、しっかりしなさいって』


『そうだな……む、公園が騒がしいな』


『ファイナルよ!急ぎましょう!』


『ああ!変身!』


変身して駆け付けるエタレンジャーたち。

しかしそれはファイナルの罠だった。

いつもは好き勝手に暴れるだけだったウェーイたち。

しかし今日は秩序だっていて、一人一人が妙に強かった。


『ぐ、こいつら、強い!』


『一体何が⁉』


『ウェーイwwwいつもの俺らと同じと思っちゃった?違うんだなぁw』


『これも姫のおかげっていうか?やっぱ男ならお姫様の為に頑張れちゃうみたいな?』


『姫だと⁉』


するとドン!ドン!ドン!と低音の効いたBGMと共にスモークが焚かれ、公園の奥からド派手な神輿を担いだ集団が現れる。


『お、早速姫のお越しだぜ、俺らもポジションつかなきゃ』


そういってウェーイ達は戦闘を中断し、道を作るように左右に並ぶ。


『お前ら―!姫のお出ましだーー!』


『ウェーイwww』


『ヒーメ!ヒーメ!』


『な、なんだこの盛り上がりは……』


神輿はゆっくりと進み、レッドたちの前で止まった。

スモークの向こうで小さな影が立ち上がる。


『ごきげんようエタレンジャーの皆さん、就任の挨拶に来たわ』


レッドはハッとした、この声は……まさか!


スモークが晴れ、敵幹部の姿が露わになる。


『私はプリンセス・バイオレット、ファイナルの幹部よ!』


『ユカリーーーーー!!!』


そこにいたのは漆黒のゴシックドレスに身を包み、髪を紫に染めた妹ユカリ。

信じて田舎に送り出した妹は、敵組織の幹部になって帰ってきたのだった。


その日、圧倒的な強さのバイオレットに翻弄され、エタレンジャーは初めてファイナルに敗北した。


―――――――――――


「おっはよーーー!」


月曜日の朝、私はテンション高めに教室に入る。


「あ、天原さん……」


「お、おはよ……」


くっくっく、動揺しとる動揺しとる。

昨日はユカリの悪堕ち回。

ネットでは大反響だったが、純粋なお子様には相当なショックだったようじゃのう。

私はニヨニヨとしながら自分の席に座る。


「くーちゃん、ユカリちゃんが、ユカリちゃんが……!」


「おはよーせっちゃん。大変なことになったね?」


「大変どころではありません!ユカリちゃんどうなっちゃうんですか⁉元に戻りますよね?ね⁉」


「ないしょー」


「むぅーー!」


私がはぐらかすとせっちゃんがぷくーっと膨れる。

いつも穏やかなせっちゃんがここまで取り乱すとは、新鮮でかわいい。

私はせっちゃんの膨らんだほっぺをプニプニして楽しむ(不敬)。


そうしてじゃれていると、気を取り戻したクラスメイトが一斉に囲んできた。


「久遠ちゃん!これからどうなるの⁉」


「すごい展開で面白かった!」


「バイオレットめちゃくちゃ強くね?」


「レッドとショウタくんの三角関係は⁉」


約一名ませたことを言っているが、本気で心配している子と、展開にワクワクしている子とで概ね半分に分かれ、今後の展開を予想しあってワイワイ盛り上がる。

ショックは受けつつも、続きが気になって仕方ないようだ。


私はその様子をニヤニヤと眺める。


(いやーやっぱり純粋な感想を生で聴けるってのは、役者冥利に尽きるねぇ)


特に今回私はシナリオにも結構絡んでいる。

私のシナリオで右往左往する子供たちの姿を見ると、こらえようのない愉悦を感じるものである。


(くくく、悪墜ちはまだ序章に過ぎない、今後の反応が楽しみだ!)


私が演じるキャラが、ただの敵幹部では終わるわけがないのである。

まあちょっと内容が大人向けになるかもだが、なかなか面白くなったと思う。


(ああ放送が楽しみだなー!)


私はネタバレしたい欲求を抑えながら、のらりくらりと質問を躱すのだった。


ちなみに私の体形にあうスタントマンがいなかったので、アクションシーンは私自らやっている。

みんなの前で実演してあげたら盛り上がった、バク宙とか。


――――――――――


『ぐあぁぁぁ!』


戦闘員と怪人を退けたものの、乱入したバイオレットに蹴散らされるエタレンジャーたち。


『姫様サーセンw』


『だらしないわねぇ。ほら、今日もご飯作ったから皆で食べなさい』


『アザーッスw』


『やっぱ姫のご飯サイコー』


バイオレットは部下の生活環境を整えたり、効率的なトレーニングを施したりと非常に面倒見がよく、理想の上司として人気が急上昇、僅か数日でファイナル戦闘員の心を掴んでいた。


(ウェーイたち生活力はないけど根は悪くないのよねぇ。私が彼らを真っ当にしてあげなくちゃ)


記憶は無くても生来の世話好き、ダメ男キラーは健在のバイオレットだった。


そんなある日、バイオレットは基地の謁見の間に呼び出される。


『よくやっているようだな、プリンセス・バイオレットよ』


『はっ、総帥』


玉座に座るのはファイナルの総帥である宇宙人、終末帝ドキュソ。


『この調子で暴れて、まずは町内から支配していくのだ』


『……あの、総帥』


『どうしたバイオレット』


『こんなことして本当に支配ができるのでしょうか?』


『なんだと?』


『本当に支配したいのなら、民のために真っ当に働き支持を得るべきなのでは?』


『ふん、働いてなんとする。いいか?働いたら負けだ。所詮この世は力が全て、暴力がこの世を支配する唯一の力なのだ、分かったかこのグズめ』


バイオレットとは真逆で、ドキュソはパワハラ上司として部下には徹底的に嫌われている。


『しかしこのやり方では』


『黙れ!お前は余計なことは考えず、余のいうことだけ聞いておけばいいのだ!』


『…………』


『多少は有能だが所詮はお前も愚かな地球人よ、余に意見するなど千年早いわ!いいからさっさとエタレンジャーを倒してこい、いつまでかかっておるのだ、成果を出すまで帰ってくるな!まったく余が現場にいた頃は……』


そのままクドクドと小一時間は説教という名の自慢話を続ける総帥。

バイオレットは顔を伏せ、このまま大人しく従うべきか、別の道を行くべきかをじっくり考える。

何せ時間はたっぷりとあった。

私の人生、慕ってくれるウェーイたちの人生、そして、ライバルのエタレンジャーの人生……。


(よし、決めた)


『分かったか?』


『分かりました』


『ならさっさと『あなたには退場してもらいます』……え?』


バイオレットがパチンと指を鳴らすと基地中から戦闘員や怪人が集まってくる。


『姫様決めたんすね⁉』


『な、なんだお前たち!』


『前からこのパワハラ上司気に入らなかったんスよ!』


『下剋上ウェーイwww』


『俺らの上司姫様だけなんで、よろしくぅw』


『や、やめろー!ぐあぁああ!』


チュドーーン!


バイオレットの身体能力と数の暴力によって、終末帝ドキュソは爆発四散した。


『さようならクソ上司、私は私のやり方で世界を支配してみせるわ』



無数のウェーイが見守る中、主の居なくなった玉座の前に立ち、バイオレットが宣言する。


『これよりファイナルは私ことバイオレットが率いる!』


『ウェーイwww』


『まってましたーwww』


シャンパンを開け、紙吹雪が舞い飛ぶ。


『だがファイナルはこのままではいけない、このままでは我々は世間の嫌われ者のままだ!諸君らはそれでいいのか!』


『まー確かに?俺らもどっちかってーと好かれたいっつーか?』


『ばあちゃんの荷物奪うとか正直キツイよな』


『女にもモテねーし?』


バイオレットは手を振り上げ更に宣言をする。


『よって!ファイナルは人材派遣会社ファイナルとして生まれ変わり、これからは世のため人の為に活動することとする!』


『え?会社?俺ら働くの?』


『まーでもぶっちゃけ将来不安だったしな、母ちゃんにも心配かけっし』


『それに上司が姫なんでしょ?最高じゃん』


『それな!』


終末思想だったウェーイたちが前向きになっていく。

ここしばらくバイオレットの優しさに触れ、姫のため真っ当に生きていこうという気持ちが芽生えつつあったのだ。


『私はファイナルの新総帥、いやCEOとして諸君らを世界一の社員にすると誓おう!皆私に着いてこい!』


『CEOってなんだべ?』


『さあ?俺ら社会経験ないし』


『アメリカで言うところの社長みないなもんじゃね?』


『なーる、アメリカとかカッケーじゃん』


『CEO!CEO!』


『ウェーイwww』


こうして悪の秘密結社ファイナルは消滅し、人材派遣会社ファイナルが誕生したのだった。



次回予告!


社会派企業に転身したファイナル。

社員は明るく真面目でアットホーム、地域の評判も上々、ファイナルは一躍人気を高めていく!

しかしその一方で、需要が低下する正義の戦隊エタレンジャー。

この先どう生きればいいのか、悪の居ない正義とは、彼らは思い悩む。

頑張れエタレンジャー!負けるなエタレンジャー!


次回をお楽しみに!


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