112、せっちゃんと某ランド1
「せっちゃん、今度の休み遊びに行こーよ」
一年生の初月が終わろうかという頃、私はかねてからの計画を実行に移すことにした。
そう、何かと自由が無さそうなせっちゃんを遊びに連れて行くのだ。
「え、良いんですか?是非とも行きたいです!許可を取らないとダメですが……絶対許して頂きます!」
おおう思ったより激しい反応、そんなに遊びたかったのか。
「そ、それで、何処に行くんですか⁉」
「そうだなぁ、キャ……いや、某ランドに行こうかと」
「某ランド!すごいです!一度行ってみたかったんです!」
「そっかー、喜んでもらえて嬉しいよ」
余りにもキラキラした目で聞いてくるのでキャンプと言う所を、つい某ランドと答えてしまった。
初めて遊びに行く場所にランドを選ぶとか、初デートに舞い上がった彼氏かよ……!
でも始めに誘おうとしたキャンプ場は、私の山の視察も兼ねたものだ。
あんな幽霊も出る未整備の山でキャンプとか、冷静に考えるとやんごとなき方を連れて行く所では絶対にない。
だからこの選択に間違いはないはずだ。
北の某将軍もランドによく行くって聞いたし、皇族が行っても問題無いだろう。
「楽しみです!」
というわけでやってきました某ランド。
「わぁ~これがランドですか~」
「テンション上がるなー」
世界中の人々を魅了して止まない言わずと知れた最強テーマパークである。
入口からファンタジー感があってワクワクが止まらない。
私とせっちゃんに続いて、豪華な黒塗りの車から後続がぞろぞろと降りてくる。
ここで今日のメンバーを紹介しよう。
まず私の子分の小太郎。
「久遠さま、全種類制覇してやりましょう!」
続いてマイペースな幼馴染のスミレちゃん。
「〇ッキーいるかなー」
最後に私の下僕でせっちゃんの護衛竹丸。
「刹那様、はぐれないでくださいよ?」
その他黒服のSPが沢山。
せっちゃんと出かける時点で二人っきりとはいかないので、折角なら私の馴染みのある友人たちと入学記念旅行にしようとなった。
ついでに保護者兼撮影係として斎藤もいる。
グラサンをかけた謎の黒服集団は注目を浴びるが、私達は隠れて見えない。
正直邪魔だが、竹丸除く他の3人は護衛に慣れている様子。
せっちゃんはもちろんのこと、小太郎もスミレちゃんも大企業の子女だから護衛は必須なのだろう。
なのに私は今まで護衛がついたことがない。
どういうことだ。
まあ実際必要ないんだけど。
自分の身は自分で守れが月詠家の家訓である。
「お待たせいたしました、チケットとパンフレットです」
「あ、俺も手伝いますよ」
受け付けを済ませた斎藤がみんなにパンフレットを配る。
このような時でもそつなく仕事をこなすやつである。
ちなみに斎藤は小太郎と竹丸に妙に尊敬されている、多分筆頭家臣的な立ち位置だからだろう。
「じゃ、行こっか」
「ええ!」
手を繋いでわーいとゲートに向かって子供ダッシュ。
だってもう待ちきれないもん。
子供はいつだってテーマパークが大好き。
私だって子供だしこれはもう本能だから仕方がない。
ゲートをくぐり、ショップが並ぶアーケードを通ると可愛い民族衣装を着たキャストたちが手を振ってお出迎えしてくれる。
黒服の集団に一瞬ギョッとしながらも笑顔を崩さないのは流石だ。
私たちも手を振り返しながらアーケードを出るとそこには日本とは思えないわくわくなファンタジー世界が広がっていた。
「「わあ~」」
「ふっ、これのどこがいいんだか」
目を輝かせる小学組に対し、ひねた態度の思春期中学生竹丸。
年頃の男子はこういったものに否定的になるものである。
私はよく分かってるので生暖かい目で見守ることにする。
「な、なんすかその目は」
「ふ、まだまだお子様ね」
大人になるとランドの素晴らしさが逆によくわかるというもの。
実際タケルはランドが大好きでよく通っていた(一人で)。
だから私自身は初めてだが何気に詳しい。
「さーって、じゃあまずは一番混みそうな絶叫系から行こうか」
「絶叫系というと、グランドマウンテンという乗り物ですか⁉」
「そうそう、あ、早いの大丈夫?」
「ちょっと怖いですけど、挑戦してみます!」
両手を胸前でグッと握り、気合を入れるせっちゃん。
「お、素質あるねぇ。じゃあ行こ」
またもやわーいと走り周り、慌ててついていく黒服たち。
開園ダッシュで来たこともあり、殆ど並ばずに大人気アトラクション「グランドマウンテン」に乗り込む。
前に黒服、真ん中に私たち、後ろに黒服という陣形。
ゴトゴトとゆっくり発進し、次第にスピードをあげていく。
ゴールドラッシュ時代の西部を模した山をトロッコで進むというコンセプトのジェットコースターは、雰囲気がまた素晴らしく、ただのジェットコースターではありえないワクワク感を与えてくれる。
私はこれがたまらなく好きだ。
「キャーーーー!!!」
岩肌スレスレを猛スピードで駆けていくトロッコ。
せっちゃんは悲鳴をあげるが楽しそうだ。
後ろも「うおー」とか「わーい」とか声をあげているが、前後の黒服は無言である。
ガタンゴトン……と終点に着きぞろぞろと降りる私達。
「楽しかったです!」
うんうんよかったよかった。
あと3回は乗ろうね。
それにしても……。
「黒服さんさぁ」
「はっ、なんでしょう久遠様」
「もうちょっと楽しそうに出来ない?」
「そ、そう言われましても……」
「私たちだけわーきゃー言ってても何か虚しいからさ、もうちょっとこう楽しそうにしてよ」
「わ、わかりました……」
分かればよろしい。
「久遠様何言ってんですか……⁉」
「竹丸ももうちょっと、いや、君は思春期だから仕方ないか」
「その目やめてください!」
まったく中学生男子とは難儀なものよ。
さて次の目的地は、と周りを見るとお土産屋さんが目に留まる。
「あ、そうだ、ちょっと待ってて」
「くーちゃん?」
私はダッシュで店まで走り、大量のねず耳カチューシャを買ってくる。
「はいせっちゃん、ランドではこれを着けるのが作法なんだよ」
そういってせっちゃんの頭にカチューシャを着ける。
うひゃーかわいいー。
「そうなんですか?」
「そうそう、私も着けるから」
「くーちゃん可愛いです!」
「みんなも着けてね?」
「う、まあ久遠様の命令なら……」
「久遠ちゃんありがとー」
「え、俺も?まあいいですけど……」
「わ、我々もですか?」
「うん」
グラサンにねず耳を着けた謎の黒服集団を連れ歩き、次なる目的地ビックウェーブマウンテンへ向かう。
ビックウェーブマウンテンのあるエリアはアメリカ南部を模した異国情緒溢れるエリアだ。
ファンタジーと言えばヨーロッパだが、アメリカも悪くない。
日本でアメリカ文化が体験できるのも、ランドの魅力だ。
早朝とは言え人気アトラクションだけあり、既に結構な列が出来ているので並ぶことにする。
その道中も作り込まれたセットのおかげで飽きることがない。
(流石ランドだ、いい仕事をしている)
「あれ久遠ちゃんじゃね?」
「マ?やっば本物じゃん」
私がクリエイター視点でランドを評価していると、隣りのレーンにいたギャルたちが私に気付く。
とりあえず笑顔で小さく手を振っておく。
「か、かわえー、そうだサイン、いや流石に迷惑か、せめて握手でも……!」
「ちょっと止めなって、プライベートの邪魔はNGっしょ」
流石都会のギャルは芸能人とのエンカウント率が高いのか、色々わきまえている。
「あははいいですよ握手くらいなら、はいどうぞ」
「うおー神対応!」
「う、うちもうちも!」
そうしてる内に周りもどんどんと気付き始めてきた。
「え!久遠ちゃん⁉」
「ウソ!あーでも遠い、せめて写真だけでも」
流石に写真はご遠慮頂きたいなーと思ってたら様子がおかしい。
「あ、あれ、一緒にいるのってまさか刹那様?」
「ちょ、ちょっと写真はヤバイって!」
私の隣りにいるのが皇族だと知り、慌ててスマホを下げる。
まあ皇族を写真に撮るのって、なんか本能的にダメな感じするよね。
だからって芸能人ならいいってわけじゃないんだけど。
その後も気付かれはしたが皇族と黒服パワーで大きな騒ぎになることはなく、無事に順番が来たのでビックウェーブマウンテンを楽しんだ。
黒服さんたちも吹っ切れたのか手を上げて楽しそうだった。
それからも私たちは色々な乗り物に乗った。
ファストパスも駆使して人気のも不人気のも楽しんだ。
マスコットとも写真を撮りまくった。
黒服の集団に少しビビってたのが面白かった。
お昼はアメリカンテイストなピザだ。
もぐもぐ、うん、ピザにパインも悪くない。
「次どうするー?」
「食べたばかりだから軽いのにしようぜ」
午前中遊び倒したが子供の体力は無限だ。
スミレちゃんも小太郎もテンションが高い。
「んー、じゃあエーゲの海賊にしようか、近いし」
「行きましょう!」
エーゲの海賊は自動進行する船に乗って、当時エーゲ海を荒し回った海賊の生活を眺める、ゆったりとしたライド型アトラクションだ。
ほどほどの待ち時間で全員船に乗れた、さて出発だ。
薄暗い海の洞窟、ランプに照らされて雰囲気ばっちり。
船が進むと海賊の人形がカクカクと動き、観客を楽しませる。
「ちょっと怖いですね」
「まあリアル海賊だしね」
荒くれものの海賊が人々を襲って財宝を奪ったり、ドクロや幽霊が出たりとお化け屋敷ほどではないが少しだけホラー要素もあるのが特徴だ。
船は進み、炎に包まれた町中を進む。
海賊たちが略奪をするシーンだ。
海賊の人形が銃を構え、発砲する動きをする。
音と煙が出てとてもリアル。
逃げ惑う人々と笑う海賊たち。
思わず眉をひそめる光景。
(ん?)
そんな中、ふと、一つの人形が気になった。
他と同様リアルな海賊の人形だ。
なのに何故か、不穏な空気を纏っている。
その人形は銃を構え、こちらを向いていた。
こんな演出あったっけ?
ていうかあの銃、せっちゃんを狙ってないか?
嫌な予感がする。
ドキドキと心臓が早鐘を打つ。
「せっ――」
私の視線に気付いたのか人形はニヤリと笑って、ゆっくりとその引き金を引いた。