109、学園案内
「くおんー行くわよー」
エタメモを巡る諸々の回想を終え、今は学園3日目の放課後。
この日は5年生の瑞希ちゃんと一緒に学園見学の予定だ。
とりあえず山は保留である。
「瑞希ちゃんおはー」
「おはー」
芸能人の挨拶はいつでもおはよう、これ常識。
「あ、あれって片瀬瑞希ちゃんじゃない⁉」
「ほんとだ同じ学園だったんだ!」
今を時めくアイドルの登場に教室がざわつく。
教育番組にも結構出てるから一年生と言えどよく知られている。
そんな教室を見て「瑞希ですが何か?」と言った澄まし顔をしているが、あれは相当気分がよくなっている。4年の付き合いの私には分かる。
「瑞希ちゃん、せっちゃんも一緒にいい?」
「せっちゃん?ああ刹那様ね、いいわよ、そんな気がしてたし」
「ありがと。せっちゃんいいってー」
「あのあの、宜しくお願いします……」
せっかくだからとせっちゃんも誘ってみたが、何故かいつも以上に遠慮がちな様子。
「どうしたの?」
「いえあの、わたくしのような者がくーみずの間に軽々しく入ってよいものかどうか……」
「あー」
「せっ、刹那様⁉」
まさか皇族の口からそんな言葉が出るとは思わずうろたえる瑞希ちゃん。
くーみずとはファンの間で議論されるカップリング論の呼称の一つである。
いわゆる久遠×瑞希。
他にも久遠×悠里や久遠×杏奈などの他、久遠×斎藤なんてのもある(何故か私が全部攻め)。
えっちな意味ではなく、この組み合わせ面白いよね、尊いよねと言った健全な(意味もある)オタク用語である。
ちなみにくーみずは最大派閥で王道の組み合わせだと言われている。
「せっちゃんは私のファンだからなー」
「はい……やっぱりわたくしとしてはくーみずが一番尊いと思うのです……」
「そ、そうですか?私は久遠と刹那様もいいと思いますよ?くーせつ、みたいな?」
「それはいけません!ギルティです!ファンとしての立場はわきまえねばなりません」
「そ、それは失礼しました……!」
せっちゃんは割とガチ目なファンなのだ。
オタ相手の対応に慣れているはずの瑞希ちゃんだが、まさか皇族までそうとは思わず珍しくワタワタしている。
仕方ない助け船を出すか。
「そういえば瑞希ちゃんはエタメモ買ったの?」
「ええ、折角だからハイエンドモデルにしたわ」
「わたくしも買ってもらいました!」
エタメモは学校に申請すれば格安で買えるが、この学園の生徒は元から自前のものをもっている子が多い。
「メモペットは?」
「まだ考え中よ。メンバーと一緒に妖精型にしようかって話し合ってるの」
「まあグループの名前がティターニアだもんね」
瑞希ちゃんがリーダーを務めるアイドルグループ「ティターニア」は妖精の女王の名前である。
確かにメンバー全員で妖精型にしたら、パフォーマンスにも使えたり色々便利である。
「わたくしも考え中です。どのくーちゃんモデルにしようかと」
「私の前で久遠モデルを使われるのは流石にイヤかなぁ……」
「そんな……!」
公式ショップで私をデフォルメしたメモペットモデルが販売中である。
「で、どうどう瑞希ちゃん?エタメモの使用感は」
「え?まあ悪くないわね、簡単だし、かわいいし」
「ふっふっふっ、そうかそうか」
「な、なによ……」
元々私がPフォンを駆逐しようと思ったのは、瑞希ちゃんたちがPフォンを使っていて私だけがサイボーグだったことに敗北感を覚えたからだ。
女子だからと脳死でPフォンを選んでいた瑞希ちゃん。そんな彼女がサイボーグOSのエタメモに乗り換えたのだから、これはもう私の勝ちだろう。
「ふっふっふっ」
「また何か変な事考えてるわね……。ほらもう行くわよー」
「おっけー」
「はい、お願いします」
こうして瑞希ちゃんの学園案内が始まった。
とは言え基本的な教室は昨日のオリエンテーションで済んでいるため、学園の先輩として有用な施設の案内だ。
「こっちがクラブ棟ね。どこかのクラブに入るのもいいし、自分で作ってもいいわ」
「おー、意外と広いね。クラブって多いの?」
「あんまり数は無いわね。初等部だと外で習い事をする子も多いし。趣味が合う子同士が集まって放課後遊ぶ感じでね」
「ふーん……」
まあ小学生だと読書クラブとかパソコンクラブとかその辺だろう。
私的には手芸クラブが気になるかな?色々商売に使えそうであるが、まったり活動してる子供たちを巻き込んでいいものか悩みどころである。
「あんた……まさかクラブを使ってお金儲けとか考えてないでしょうね」
「ま、まっさかー」
「うふふ、何か思いついたんですかくーちゃん?」
「はぁ、まあ将来的に役に立ちそうだし悪いことではないんでしょうけど、程ほどにしときなさいよ」
「分かってるって」
「どうだか、ただでさえギルド関連で引っ掻き回してるのに」
「スクールギルドですか?」
「そういえばギルドはどうなの?ちゃんと機能してる?」
ギルドとは私が2年半前に提唱した学校ギルド(仮)制度である。
世論の勢いに押されスピード可決されたその制度は「スクールギルド」と名を変え、去年から私立を中心に試験導入されている。
この学校もその試験校の一つで、既に稼働して一年が経過している。
今年から全国で正式稼働となった。
「中々盛況よ。私は仕事とレッスンがあるからあんまり活動出来てないけど、活動に熱心な子も何人かいるわね。まあうちはお金に困ってる子があまりいないから、稼ぐというより職場体験感覚が強いけど……あ、ここがギルド受け付けよ、今日も賑わってるわね」
当初心配していた依頼の数だが、地域住民の理解や、目ざとい企業などが大量に依頼を出したりと潤沢な様子。
様々な仕事があり、それも子供に配慮した楽しいと思える仕事が多いため大人気だ。
働きたい時に働き、遊びたい時は遊ぶ。
お小遣いが増えた子供達の活動は随分活発になり、おもちゃ屋やアミューズメント施設等は売り上げが爆増したのだとか。
親御さんからの評判は凄まじく、特にシングルだったり両親共働きで学童保育を必要としている家庭には、退屈な放課後が楽しくなるばかりかお金を稼いでくれるので泣いて喜ばれた。
ギルド活動ばかりしてる子も、ランクアップには学力が必要なので真面目に勉強したりと、おおむね上手く回ってると思う。
「ふむふむ、よくやってるようだね」
「何を偉そうにと言いたいところだけど、発案者で実際偉いから何とも言えないわね……」
この件に関しては、政府からアドバイザーとして色々権限を貰ってる私である。
「スクールギルド楽しそうですよね、わたくしも楽しみです」
「皇族が来たら職場の人驚かないかしら……」
私達一年生は礼儀とか色々学ぶ必要があるため、実際に活動できるのは2学期からだ。
その時を楽しみにしておこう。
さて移動開始。
階段を上がり上級生の教室の前を通るとやはり注目を浴びる。
「瑞希様よ、今日も素敵……」
「隣りにいるのは……まさか久遠ちゃん⁉」
「えまって?くーみず生で見れるとかこの学園天国すぎない…?」
「久遠様の隣りの美少女は誰かしら?不思議なオーラがありますわ」
「刹那様よ!流石瑞希様、もうお友だちになられたのね」
「なんて尊い一行なのでしょうか……課金は?課金はしなくてよろしいの?」
上級生ともなると子供らしさも抜け、お嬢様然とした生徒も増えて上流階級の学園っぽくなってきた。
それにしても……。
「瑞希ちゃんすごい人気だね、それも女子に」
「何故か女の子に好かれるのよねぇ」
まあ美人でアイドルで面倒見がいいからな瑞希ちゃん。
私の前ではツッコミだが、本人曰く委員長キャラらしいから、この学園では頼りにされてるのだろう。
「うふふ、瑞希さんは素敵ですから」
「あ、ありがとうございます」
「照れてる」
「照れてないわよ」
そんな会話を交わしながらたどり着いたのは校舎三階の一番奥。
やけに豪華な両開きの扉の前だ。
「ここは?」
「ソロリティのサロンよ」
「ソロリティ⁉」
なんだそれは。
まさかあれか?一部のお嬢様学校にのみ存在すると言われる伝説の社交場のことか?
創作の中だけじゃなかったのか⁉
「や、やっぱり赤薔薇様とか称号で呼ばれたり、ミッシェルとか洗礼名で呼びあったりするの?」
「何それ?そんなのないけど……あ、でも一部の人は大げさな名前で呼ばれたりしてるわね、でもただのあだ名よ」
「そうなんだ、残念。で、ソロリティって?」
「知らないの?」
「私楽しみにしてるゲームとか事前情報見ないタイプだから」
「まったく……ソロリティは選ばれた上流階級の生徒のみが所属できるクラブよ。各学年3人まで、かなりの家柄やお金持ちでないと入会が認められなくて、メンバーの合意を得た招待が必須なの。ソロリティに入ることはこの学園では相当なステータスなのよ?ちなみに私もメンバーよ」
「へー」
「へーって、感想薄いわね、久遠も招待されてるのに」
「え?」
「だってこの学園で一番セレブなの久遠だし」
「まあ確かに」
日本トップクラスの大企業2つの孫だもんね、自身も子役と配信で引くほど稼いでいるし。
「もちろん刹那様も招待されてます」
「そうみたいですね、打診がありました」
お金持ちかはともかく家柄ではぶっちぎりのトップだから当然か。
「じゃあ私もここに入れるんだ、で、何するとこなの?」
「基本的にお茶を飲んでおしゃべりしたりするとこね」
「あれ?イベントを企画したり、学園を運営する組織と聞きましたが」
「ようは優雅な生徒会?」
「でも生徒会は生徒会で別にあるのよね」
「そうなの?」
「雑事やソロリティが考えたことを実行するのが生徒会ね、つまりソロリティの下部組織。基本は生徒会が動くから、私たちはのんびりお茶を飲んでるだけよ」
「ええ……それ生徒会やる人いるの?」
「庶民でもソロリティメンバーと交流が持てるから希望する子は多いわね、生徒会は殆ど庶民よ。まあ働いてるうちに、何故かソロリティが嫌いになっていくんだけど」
「なんだかろくな組織じゃなさそうなんだけど、ソロリティ」
「一部はどうしようもないボンボンだけど、素敵なメンバーもいるからダイジョウブよ」
遠い目をする瑞希ちゃん。
「あまり大丈夫じゃなさそうですね……」
せっちゃんも色々察した様子。
しかしなるほどなぁ、上流階級御用達の学園ではあるが、庶民の生徒も一定数いる。
この学園でも当然のように上流と庶民で格差や軋轢がありそうだ。
察するに生徒会は、上流からの無茶ぶりから生徒を守る、庶民の味方と言った所か。
「ふむ……」
よくある物語の主人公ならここでソロリティ入りを断り、生徒会の味方をするのだろう。
だが私は違う、入ってやろうじゃないのソロリティ。
私は優しくてチートな主人公が力を隠し、小さな村や仲間うちだけを幸せにする話があまり好きではない。
真に善良ならばその力を堂々と使い上に行き、権力を握って全てを幸せにしてやるべきだ。
それこそが力あるものの義務というやつなのだ。
なので私は遠慮なく家の権力や自身の力を使い上へ行く。
まあやりすぎると社会が大混乱するので自重は必要だが。
「ふ、ソロリティ、楽しそうじゃないか」
「くーちゃんが入るならわたくしも入りますね」
「久遠を入れたら確実に大変なことになると思うけど、まあ自業自得よね」
とりあえずボンボンは速攻で叩き潰そうと決めた。