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108、くおんちゃんねる つっきーと悪霊退治

「こんばんはー今日は久々の除霊回だよー。ということで郊外の山に来ています」


【キターーー!】


【久々!】


【っぱこれでしょ】


「今日はねーふふふ、メモペットを使った実戦動画を撮ります!」


【おおーーーー?】


【実戦?】


エタメモが発売されて数日、学園入学の少し前。

私はかねてよりやってみたかった本格魔法少女ごっこをするため、いそいそと除霊に赴いていた。

マスコットと共に戦闘とか、誰もが憧れるシチュエーションに私もワクワクが止まらない。


ちなみに勝手に除霊すると心霊系配信者が止めてくれと泣きついてくるので、今は除霊依頼が来た時だけにしている。

今回は都合よく依頼があったので、それに便乗した形だ。


「というわけで早速呼びたいと思います、つっきー」


「ほいほいっと、なんじゃこれ暗!なにしとるんじゃ主様」


【つっきーキターー!】


【かわいいー】


【俺ものじゃロリ型にした】


「今日は除霊配信の日だから、つっきーにも手伝って貰おうと思って」


「除霊配信?あ、あー肝試し的な?主様はそんなこともしとるんじゃのう、小さいのに怖くはないんか?」


「私は全然、でも斎藤はダメ」


後ろに目を向けると、カメラを頭に付けた斎藤が足をガクガクさせていた。


「こここ、こんにちは月姫さん」


「これは斎藤殿。……めっちゃビビっておるが大丈夫か?」


「もう4年近くなるのに一向に慣れないの」


「意外じゃのう……」


【斎藤チィーッス】


【流石俺、今日も頼むぞ俺】


【まあ久遠ちゃんのは『ガチ』だからな】


「早速除霊、とその前にこちら今回の依頼主の幻庵げんあん和尚さん」


私はカメラの外で待機していたお坊さんを呼び寄せる。


「月詠様、依頼を受けてくださり感謝いたします……」


そう言って手を合わせる依頼主。

随分古ぼけた格好で、げっそりと痩せこけた精気の無いお坊さんだ、ちょっと怖い。

顔見せの時、斎藤は坊さんを幽霊だと勘違いしお経を唱えたほどに怖い。

そんな失礼も笑って「良い読経だ」と許してくれるいい人だ。


この人は何故か私を月詠様と呼ぶ。

なんだろう、仏教界ではどんな立ち位置なんだ月詠家。


「今日は山に住みついた悪霊の浄化とのことですが」


「はい、昔は聖山として賑わっていた御山ですが、いつの頃からか強力な悪霊が住み着き山は汚されてしまいました。そもそもの始まりは――」


いくつかの逸話を臨場感たっぷりに語りだす和尚。


「我らでは力が足りず、月詠様、どうかお力をお貸しくださいませ……」


「その依頼、承りました。必ずや悪霊を浄化し、聖山を取り戻してみせましょう」


「おお……ありがたやありがたや……」


流石お坊さん、語りが上手い。

深刻な様子で雰囲気を高めてくるので私もキリっとシリアスに返す。


「なんじゃこのノリ……しかし随分本格的な肝試しじゃのう」


「ひぃ~、止めましょうよ久遠様ぁ」


「行くわよ!」


【坊さん怖えぇ】


【雰囲気あるなぁ】


【強力な悪霊()】


というわけで山道に入ってしばらく。


「そろそろいいかしら」


「なにがじゃ?」


「変身!」


「なんじゃぁ!」


霊力で全身をビカっと光らせ、その隙に着ていたコートを脱ぎ捨てると、そこにはいつものゴス巫女姿の私が立っていた。


「美少女退魔師久遠参上!悪霊なんて、月の力で浄化してあげるんだから!」


愛用の木刀を構えてきゃるんとポーズをとる。

ちなみに口上は毎回違う。


「久遠様、コート投げ捨てないでください」


斎藤がコートを拾い折りたたむ。


「お、おお……?」


何が起こったのか分からずうろたえるつっきー。


【変身バンクキターー!】


【このチープ感が好き】


【つっきー困惑www】


「もーつっきー違うでしょ?もうちょっと魔法少女のマスコットらしくしてよ」


「あ、ああーそういうのね!分かったのじゃ、妾そういうの得意じゃから、任せろなのじゃ!」


「じゃあつっきー、悪霊の気配は何処かしら?」


「け、気配?うーん肝試しだし山頂の社に案内すればいいんじゃろか……マップ同期して、とりあえずあっちじゃ」


「わかったわ」


【この先のつっきーの反応が楽しみで仕方ない】


【AIがあれ見たらどうなるんだろうな】


そうしてつっきーと魔法少女っぽい会話をしながら山を登っていくと悪霊の気配がしてきた。


「来たわね」


「なにがじゃ?」


「悪霊よ!」


「あーはいはい、そういう体ね?まったく子供のままごとに付き合うのも楽じゃないのう、AIでも先が読めんわ。よーし、主様気を付けるんじゃぞ、悪霊が……ってはぇぇぇぇ⁉」


目の前に巨大な黒い、狼のようなナニカが現れ襲い掛かってくる。


「ガアアァァァ!」


「危ない!大丈夫つっきー?」


咄嗟に避けて木刀を構える。


「なななななんじゃあれーーー⁉」


「悪霊よ」


「悪霊???????そ、そんなのいるわけないのじゃ!妾のデータには無いのじゃ!」


「でも実際いるし」


「ウソじゃろ?……検索してもどれも信憑性の無い噂ばかり、科学的にも悪霊はいないと結論付けられてるのじゃ!」


「そんなものはどうでもいいわ、今目の前で起こってることが真実よ」


「そ、そんな馬鹿な……どっきり?VFX?ハッキング?」


目の前の超常現象を処理できず、混乱するつっきー。


「もーしょうがないわねぇ、ちょっとタイムね」


「ガ⁉」


私はさっきから元気に襲い掛かってくる悪霊を霊力の結界で縛り上げ動きを止める。


【タイムwww】


【もう倒したれwww】


「いい?つっきーは……(ごにょごにょ)」


「ええ?ていうか今倒してしまえばいいのでは?」


「それじゃコンテンツにならないでしょ!だから……(ごにょごにょ)」


「うーん、わかったのじゃ」


「よし、再開よ」


私は結界を解く。


「主様!妾が弱点を探るから時間稼ぎを頼むのじゃ!」


「了解!こっちよ!」


「ガアアアア!」


私は悪霊の攻撃を木刀で防ぎ、たまに攻撃を弱ーく当てたりして時間を稼ぐ。


【悪霊さんかわいそう】


【これほど酷い舐めプがあっただろうか】


悪霊の猛攻を防ぎつつ機をうかがっているとふいに悪霊の姿が消える。


「!どこに……」


「主様!上じゃ!」


「きゃっ!」


上から落ちてきた悪霊が全力で爪を振り下ろす。

なんとか防いだものの私は耐えきれず吹き飛び、森の木に背を叩きつけられる。


「かはっ!……」


ぐったりとする私に悪霊がゆっくりと近づく。

このままだとマズイ……!

早く起き上がらないと!……でも力が入らない!


「つっ、きー……」


「主様!くっ、妾の力が封印されてなければこのような下級霊なぞに負けはせぬのに……!やい悪霊!お主の相手はこの妾じゃ!月の獣じゃぞ!凄いんじゃぞ!」


つっきーがその小さな体をピョンピョンと飛び跳ねアピールするが、悪霊は見向きもせず足を止めない。


【そんな設定だったんだw】


【UR封印されし月の獣月姫】


【お前ら久遠ちゃんがピンチ()なのに気楽だな】


【久遠ちゃんがんばえー】


「だい、じょうぶよ、つっきー……」


「主様!」


私はよろよろと木刀を支えに立ち上がる。


「グルルル……」


悪霊が今にも飛び掛からんと姿勢を低くする。

これで決めるつもりだろう。


私ももって一回。

次の一撃に全てを賭ける。


「それでつっきー、弱点は分かった?」


「ああ。そやつはどこを攻撃してもそれなりにダメージを負っておったつまり……」


「成程ね、それなら……」


私は木刀に強く霊力を込める。


「ガアアァァァ!!!」


「「殴ればいいのよ(のじゃ)!!!」」


飛びかかってくる悪霊に思いっきりフルスイングをかます。


「グギャアアア!」


確かな手応えと共に、聖なる光をもろに浴びた悪霊は断末魔と共に爆散し、綺麗な光となって消え去った。


【殴ればいいのよキターーーー!】


【弱点を探る意味】


【今回は強敵だったな(遠い目)】


「これにて浄化完了よ!」


私はシャキーンと決めポーズをとる。


「なんじゃったんじゃこれは……」


「つっきーもナイスマスコットだったよ」


「魔法少女のマスコットを元にしてるとは言え、まさかリアルに魔法少女のマスコットするとは思っておらんかったわ」


「お疲れ様でした久遠様」


「そういえば斎藤殿は戦闘中は冷静じゃったな、道中は怖がっておったのに」


「悪霊は目に見えるし久遠様が倒してくださるので慣れました」


「おぬしも大変じゃのう……」


「よーし残りもジャンジャン狩るわよー!」


「ええ?まだおるの?っていうか主様は大丈夫なのか?結構強く打ち付けておったが」


「ん?ああバリア張ってたからノーダメノーダメ」


「バリアってなんじゃあ……」


こうして私はつっきーと思う存分魔法少女ごっこして楽しんだ。



「ふー狩った狩った、この山ももう大丈夫ね」


あらかた浄化したので幻庵和尚のもとに報告に戻る。

和尚は憑き物が落ちたような穏やかな顔をしていた。


「月詠様、ありがとうございます。儂にも山が元通りになったのが分かります」


「そう、よかったわ、これからは山の管理をしっかりとね」


「それなのですが、この山は月詠様に差し上げたいと思います」


「へ?」


「儂は待っておりました、この山を、そして儂を解放してくれる方が現れるのを。それが月詠様とあらばまさに天命、どうぞ好きにお使いください……これで心置きなく天へと登ることが出来ます……」


そう言いながら段々姿が透けていく和尚。


「いやちょっとちょっと、こんな山貰っても困るんだけど?」


「ありがとう……ありがとう……」


そしてスッと和尚は消え、後には土地の権利書が残されていた。


「まじかー」


「あわわ」


「あわわ」


本物の幽霊の登場にガクブルと震えるつっきーと斎藤。

私は割と幽霊とか神とか遭遇してるので平気だけど。


しかし山貰ってもなぁ、月詠家もいくつか持ってるし。

キャンプ場でも作るか?温泉とか沸くかも。


私は山の使い道を考えながら、撮影を終え帰宅するのだった。




【あわわ】


【マジもんが出てきおった……】


【いや悪霊もマジもんだけど、あれはなんか違うじゃん!】


【とんだ伝説回になっちまったな】


【つっきーが面白すぎた】


【AIってあんな反応もできるんだな】


【久遠ちゃんのエタメモだけ特別製で、本当に精霊が宿ってるかもしれないぞ】


【マジであり得る】


【久遠ちゃんは、聖山を手に入れた!】


【どうするんだろうね、山】


【きっと楽しい使い道を考えてくれるに違いない】


【だな】

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― 新着の感想 ―
あっ、名乗りが美幼女退魔師から美少女退魔師に替わってる。 幼稚園を卒園したから少女になったってことですかね。 まだまだ幼女だとは思いますが。
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