107、メモペット
『くるみちゃん!魔法少女に変身クル!』
『分かったわ!マジカルチェンジ!プリティくるみん!』
「わぁ~がんばえ~ぷぃくる~!」
とある日曜。
私は朝から女児らしく魔法少女もののアニメを見ていた。
こんなものは子供向けだと見下していたが存外面白い。
クラスメイトと話を合わせるために見ていたがすっかりハマってしまい、この時ばかりは私の心も女児に戻っている。
いや「戻っている」はおかしいな。
私は正真正銘女児なのだから、こうして女児アニメを見て魔法少女を応援しても何も問題ないのである。
『ぎやぁぁぁ~~』
『やったぁ倒したよナッツ!』
『よくやったクル!流石くるみちゃんクル~、ボクの目に狂いはなかったクル~』
画面の中では主人公のくるみちゃんが相棒の謎生物ナッツと楽しそうに話している。
やはり魔法少女には淫獣、もといマスコットが不可欠である。
「いいないいなー私の前にもナッツが現れないかなぁ~」
女児アニメを見て心まで女児になっているので、こんなキラキラなお願いも自然に出てくる。
私とていつもお金とか商売とか考えているわけではないのだ。
「マスコットかぁ」
魔法少女のマスコットに限らず、私はこういう小さい相棒キャラが大好きだ。
妖精だったり宇宙人だったり、ロボットのガイドシステムだったり。
人間の友情とは違う、もっと深い絆を感じるのだ。
まあたまに裏切ったりもするけれど。
「私に相応しいマスコットってどんなのかなぁ~、やっぱりライオン?月関係ならウサギ?う~ん」
ほら私ってたまに悪霊と戦ったりするし、半分魔法少女みたいなところあるから、こういう精霊的なものがそろそろ現れてもいいと思うんだよね。
現れたらどんなかぁ……なんてね。
でも女の子なら、いや男でもこういう妄想しちゃうよね。
「まああり得ないんだけどさ。……いやまてよ?」
もしかして、現代の技術なら出来なくもないのでは?
「そうだ、AIを使えば……」
魔法少女のコンパクトっぽいものもある。
そう、スマホだ。
スマホの中ならマスコットを作れるんじゃないか?
スマホアプリで自分好みのモンスターやペットを作るようなものは既にあるだろう。
だが最新のAI技術を使い、大企業のスマホメーカーが本気出して作ればどうだ?
それ以外にもあーしてこーして……。
「パパ、ちょっと」
「ん?予告終わってからね。お、次は黄色回か」
隣りで一緒にプリくる応援していた父に思いついたことを話す。
「それ最高じゃん」
「でしょ?」
ふふふふ……さぁ最後の一手だ!
――――――――――
「と言うわけで完成しましたーエタメモでーす」
【キターーー!】
【初披露ここでいいの?】
【100000000台予約しました】
なんやかんやあって完成したので、私は自分のチャンネルで機能発表することにした。
「いよいよ最後の目玉機能を見せる時が来ました、その名も『メモペット』です!」
【おー】
【メモペット?】
「エタメモの独自機能で、オリジナルのAIキャラクターを作成することができるのです!」
【ほー】
【AIキャラか……】
【チャットAIにアバターが付いた感じ?】
割とあっさりした反応だ。
チャットAIが普及して久しいから特別感が無いのだろう。
「ふふ、これはそんじょそこらのチャットAIではない、魔法少女のマスコットのような相棒キャラに特化したAIなのだ!」
【てことは……自分だけの淫獣が作れる⁉】
【マスコット特化とは思い切ったな】
【あーでも俺も相棒欲しかったわ、ビットとかさ】
「百聞は一見に如かず、早速私のメモペットを作ってみよう。えーまず語尾と性格を設定してください。どうしようかな」
【性格は分かるけど、語尾?】
【語尾重要だろ!】
【スタンダードに一人称はボクで、語尾はキュルとか?】
【意表をついて我とか威厳のある封印の獣タイプもありだな(ダンディ声)】
ふーむ、おどおどしたウサギタイプもありだけど、小動物キャラはせっちゃんと被るからなぁ(不敬)。
「よし決めた!じゃあ次は見た目ね、見た目はかなり自由に作れるよ、それどころかイラストからAIが3Dモデルを起こせるから、自分だけのオリジナルキャラにすることもできるんだ。絵が描けなくても公式ショップから高品質モデルや衣装も沢山出すし、色んな有名絵師に依頼する予定だよ!」
【オリジナルもできるの?】
【好きな漫画家のキャラとか最高じゃん】
【配布もできるのかな?】
「よしっと、こんなもんかな。では召喚、と」
【えー何にしたんだろう】
【やっぱりライオン?行くガオよ、とか】
【妖精とか機械にもできるってことだよね、テンション上がってきた】
【妖精は裏切るから止めとけ】
【自分だけの淫獣考えるの結構楽しいな】
初期設定を決めてキャラクターを作り、召喚ボタンをタップする。
するとスマホから光の粒子が立ち上がり、目の前に美しい九尾の狐が現れる。
なんと高天原の最新ホログラム技術により、スマホから30㎝以内なら立体映像を映すことができるのだ。
そして狐が月に向かって吠えると七色の光の帯に包まれ、ポンという音と共に巫女服を着た狐耳の少女に変身した。
「そなたが妾の主様かえ?妾はメモペットの月姫じゃ、宜しくの、主様」
【おおーーー⁉】
【ええーーどうなってるの⁉ホログラム⁉】
【まさかののじゃロリ】
【かわええ、ていうかホログラムめちゃクッキリでスゴ!】
私は目の前ののじゃロリに話しかける。
うん、やっぱりスマホに向かって話すよりこっちの方が話しやすい。
「よろしくね、つっきー」
「つ、つっきー⁉の、のう主様?もうちょっと威厳のある感じにならんかの?妾これでも結構長生きしとる妖狐(設定)なんじゃが……」
「ううんならない、あなたはこれからつっきーね」
「意思が強すぎる⁉」
ガビーンとするつっきー。
【え、このAIめちゃくちゃすごくない?】
【ウソでしょ?ここまで自然な反応返せるの?】
【つっきーのキャラwww】
【えーこんなの一生愛でれるー】
「ふふふ、すごいでしょ。高天原の超最新技術でスムーズかつ自然な受け答え、ホログラム技術と音声認識でまるで友達といるような感覚で会話できるんだよ。日本のアニメを徹底的に学習させたからツッコミもジョークもバッチリよ」
【おおー】
【どんだけ最新技術使ってるのよ】
「更に!つっきー「となりの佐藤さん(超マイナー漫画)」の最終回ってどんなのだった?」
「ごめんなのじゃ、知らないのじゃ」
【今までのAIは適当なウソ並べてたのに!】
【これが高天原の超技術……!】
【ちゃんと謝れてえらい】
続いて性能テスト、数学の問題を教えてもらおう。
「つっきー、この計算問題教えて?」
「これはじゃな、まずこの公式を使ってこうしてこう……ほれ、あとはやってみよ」
「15?」
「正解じゃ!流石主様じゃのぅ」
ちなみに読書感想文を書いてもらうなどのズルは拒否するようになっていて、教育AIとして十分活用できるレベルになっている(手助けはしてくれる)。
【おおーもうこれ学生に必須じゃん】
【すぐ答えを出さずに教えてくれるんだ!】
【俺ものじゃロリに褒められたい】
【ちょ、ちょっとまって?えっちなお姉さん先生も可能ってこと?】
【↑成績落ちそうだな】
「変態じゃのう、でも可能じゃ」
【【おおーーー!】】
【男子さいてー】
【そ、それってえ、えっちな服もかか可能ってこと⁉】
【おい!幼女相手に何言ってんだ!……で、どうなの?】
おいおいこいつら正気か?私は純真無垢な幼女だぞ?
ま、私は男の記憶があるから、その辺の心理はよーく理解してるけどね。
だから――
「公式としては一応ダメと言っておくけど、まあ出来なくもないよ、ただ人に見つかって社会的に死んでもしらないけどね」
【キターーー!いや、俺はそんなことしないけどね?】
【マジで?公式でお許しが?】
【いや、ひっそりやれということだろう】
「私はゲームのMod文化が大好きだからね。ユーザーが自由に作って自由に配布してこそコンテンツが盛り上がるってもんでしょ。好きにモデルや衣装を作ってシェアすればいいよ。ちなみにこれで商売しても公式は何も言わないよ、もちろん犯罪行為は取り締まるけどね」
「非公式ショップとかは流石に困るがのう」
Modとはユーザーが非公式に作った改造パッチだ。
ゲームに便利機能追加したり、キャラの衣装を変更したり顔を変えたりできる。
ファンが持ち寄ってゲームを勝手に進化させ続けるのが楽しいのだ。
得てしてそういう改造の余地があるゲームほど長生きする。
【さっすが久遠ちゃん分かってるぅー!】
【そうかModか!】
【楽しそう!】
まあこの辺は父のアイデアだ。流石ゲーマーの心理をよく分かってる。
「ふふふ~他にもね~、つっきー電気消して、アラーム7時にセットして、スケジュール帖に明後日6時出勤って書いて、電気点けて」
「ほいほいほいっと」
つっきーに命令すると電気が点滅し、アラームがセットされ、スケジュール帳アプリに自動で予定が入力される。
スマートホーム機能の連動のほか、アプリでなくスマホ自体にAIが組み込まれてるので、ある程度スマホを操作してくれるのだ。
【えー完全に近未来じゃん】
【いつのまにここまで来たんだ?】
「将来的には腕時計型とかで出してもいいかもね」
「その頃にはもっと学習して賢くなっておるぞ」
【ヤバすぎ】
【早くほしい!】
【今の内にキャラ考えとこ】
「というわけで、性能披露回でした!発売は来月!予約よろしくねー」
「のじゃー」
―――――――――――――
こうして発売されたエタメモは売れに売れまくった。
今では町なかでメモペットと仲良く会話する姿も当たり前となり、新時代の到来を感じさせる光景だ。
ただ殆どの男性は当然のようにこのワックワクのスマホに乗り換えたが、初動では女性は3割程度に収まった。
まあこれは想定内だ。
女性はいくらスペックが高かろうと、いきなり買い換えたりしない。
周りが換えたら換えるのだ。
なので人気のメモペット特集とか、メモペットが可愛い女子はモテるだとか色々ブームを作り、徐々に広めて女子必須アイテムにする計画を進行中である。
ついでにダメ押しとばかりに全国の小中学校に格安で卸したので、数年後は確実にPフォンのシェアを奪うことだろう。何せ一度自分のメモペットを作れば、愛着が沸いて簡単には手放せないのだから。
学校に卸したのは布教以外にも目的がある。
ギルド活動はスマホアプリを活用するつもりだし、教師にもAI時代に対応してほしいという社会的意義もある。
教師用のマスターエタメモなら、授業中は生徒用のエタメモの機能を制限できたりなど昨今の学校スマホ問題も対応可能。
学用スマホ御用達の地位を狙うつもりだ。
この機会に教育アプリもガンガン開発して、教育庁も巻き込んで色々仕掛けていきたいな。
なんにせよ、これで微妙な売り上げだったオモイカネフォンはエタメモに生まれ変わり、一気に国内シェアを塗り替えた。
私のサイボーグOS愛から始まったこの野望も、一応の決着を迎えたのだった。