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106、エターナルメモリア

お嬢様とじい『名づけ編』


ここはお嬢様の暮らすお屋敷。

食卓には美味しそうな料理が並び、豪華なケーキの上には蝋燭の火が揺らめいていた。

壁際には使用人がズラリと並び、主人を優し気な瞳で見守っている。


今日はお嬢様の誕生日だ。


「お嬢様、お誕生日おめでとうございます。こちらは旦那様からのプレゼントでございます」


使用人を代表して爺やがプレゼントを渡す。


「わあ、何かしら!」


「お嬢様ももう小学生ですからな、そろそろスマホを持たせても良いころでしょう」


「スマホ⁉やったぁ!」


お嬢様が喜び、綺麗にラッピングされた箱をゆっくり開ける。

そこには新品のスマホが赤いビロードに包まれ輝きを放っていた。


「我が社で開発した『オモイカネフォン』の最新モデルでございます」


「…………」


「お嬢様?」


「ださい」


「え?」


お嬢様はスマホをガシリと掴み走り出す。


「お嬢様!」


たどり着いた場所は高天原電子のスマホ開発室。

お嬢様はガラリと扉を開け叫ぶ。


「ダサーーーーーーーーーい!!!!」


「お嬢様ぁ!」


爺やが追いつく。

部署の人間がなんだなんだとお嬢様を見る。


「まず名前がダサい!なんなのオモイカネフォンって!名前を呼ぶのも恥ずかしいわ!」


「し、しかしこれはご利益のある神の名前でして……」


「知ってるけど、ダサいものはダサいわ!別の名前にしなさい!」


開発部が困惑するが、お嬢様に従い意見を出す。


「で、ではお嬢様から取って『クーフォン』とかでしょうか」


「可愛いけど、ありきたりね。いい加減スマホだからとフォンを付けるのは止めるべきよ」


「確かに、もう電話だけではないですしね……」


もはや電話機能はスマホの一機能にすぎない。


「では久遠デバイス……は少し物々しいですね」


「そうね……思い出を刻むという意味で、メモリアなんてどうかしら」


お嬢様の意見におお……と声が上がる。


「ならエターナルメモリアとかどうでしょう」


「いいわね!略してエタメモ!カッコよくもあり可愛くもあるわ!」


「「おお!」」


エタメモ!エタメモ!と開発部が手を挙げて唱和する。


「はぁ、わかりましたお嬢様。ではこのシリーズの名前はエタメモということで、帰りましょうか」


爺やが疲れた様子で名前の変更を許可する。


「デザインもダサいから変えるわ!」


「え⁉」


お嬢様とじい『デザイン編』につづく。


『エタメモ!鋭意開発中!』


―――――――――――――



【俺も名前ダサいと思ってました】


【まあオモイカネはな、高性能だけど名前が……】


【新商品デターーー!って予告か、早く買わせろ】


【発売前なのにCM打つとか、余程力が入ってると見える】


【メモリアかぁ、いいじゃん】


【確かに殆ど電話使わなないのにフォンだもんな】


【ゲームのアイテムみたいでカッコイイ】


【略すと可愛い、女向けも狙ってるね】


【でもこれサイボーグOSでしょ?女買うかな?】


【これあれだよな、久遠ちゃんが前々から言ってたやつ】


【Pフォン駆逐したいって言ってたもんなw】


【遂に実行に移す時が来たか……】


【あたし女だけどどんな機種が来ようが今更Pフォンから替える気ないわよ】


【Pフォンじゃないとクラスでハブられるし……】


【男だけど彼女が煩いからPフォンに替えた。女のPフォン信仰は異常だぞ】


【↑自慢か?死ね】


【今回ばかりは流石の久遠ちゃんでも難しいか?】


【お前らデザイン編来たぞ!】


―――――――――――


お嬢様とじい『デザイン編』


「えー、であるからしてー」


ここは都内の有名デザイン校。

将来デザイナーを目指す生徒たちが真剣に授業を聴いている。


そんな中、一人の変わった生徒がいた。


ボサボサの髪に分厚いメガネ、みすぼらしい服装、そして幼女。

およそデザイン校に相応しくないその風貌は、明らかに周りと浮いていた。


そんな幼女は机に向かい一心不乱に何かを描いている。

どうやらスマホのデザインのようだ。


それをいじわるなクラスメイトが取り上げる。


「えーなにこれスマホー?」


「うわだっさ、こんなんじゃ誰も買わないよ」


「か、返して……」


「ぷー返してだってwww」


「ちょっとやめなよwさっさと遊びいこーよ」


デザイン画を捨てて去って行くクラスメイトたち。

幼女は紙を拾い、再び描き始める。


幼女はたびたび嫌がらせを受けながらも必死に勉強を続けた。

授業を真面目に聞き、放課後には先生に話を聞いた。


移動中ワザとぶつかられ、スマホを落としたこともあった。

お弁当を開けると、ご飯の上にスマホが乗ってた時もあった。


それでも幼女はデザインを描き続けた、そして――


「ね、見て見てこれ、エタメモ」


「うわーカワイー!めっちゃおしゃれー」


「っしょ、デザインした人天才じゃね?憧れるわー」


街を歩く幼女の横を、前から来た元クラスメイトたちが通り過ぎる。

彼女たちは幼女――お嬢様には気付かない。


「……ふっ」


「お嬢様?どうされました?」


「いえ、なんでもないわ」


「しかしわざわざ正体を隠してデザイン校に通う必要あったんですか?」


「その方がちゃんと評価されるでしょう?」


「やれやれ……」


ふと周りを見ると、町中の人が同じスマホを使っていた。

それは、お嬢様がデザインした最新スマホ、エターナルメモリアだった。


お嬢様とじい『スペック編 』に続く。


『エタメモ!鋭意開発中! 』


―――――――――――

【続きキターーーーー!!!】


【何このCMwww】


【まず幼女が学校いるのおかしいだろwww】


【新デザインいいじゃん】


【これマジで久遠ちゃんがデザインしたの?】


【わからんけど、監修は間違いなくしてると思う】


【イジメ描写にキュッときた】


【まあでもあのお嬢様ならノーダメだろ】


【わざわざ下々の格好していじめられっ子を演じてるからな】


【定番イベントに内心笑ってそう】


【イジメ描写もおかしいけどな】


【マジでいいデザイン】


【デザインだけならPフォン超えてるかも】


【でもうちらデザインだけでPフォン使ってるわけじゃないから】


【↑例えば?】


以下数十レスに続くサイボーグOSVSPフォンの醜い争いが続く。


…………

……


パタン。


CMの感想をチェックしてノートパソコンを閉じる。


これは私と父が考え、一年前から放映してるCMだ。


お嬢様の私が究極のスマホを作るべく色々頑張る長編シリーズ。

ドラマ仕立てで少しずつ開発の様子を見せ、期待感を高めに高めて発売する戦略だ。


元々人気だった「お嬢様とじいシリーズ」なので、即人気が出て大変話題になった。

狙ったわけではないが、シリーズものの強みが発揮された形だ。


このCMのストーリー。

ほとんど史実に基づいていて、実際に私は開発室に乗り込んで名前の変更を訴えたり、学校にこそ通ってないがデザインの勉強をして案を出したりとどっぷり開発に関わっていた。


エタメモ、良い名前だと思うんだよね、思い出を永遠に刻むみたいな感じで。


思い起こせば大変な日々だった。

父のいる部署ということもあり、私は頻繁にお邪魔して社員と熱い議論を交わしたものだ。

その様子は語るも涙、聞くも涙の開発物語で、時には殴り合いの喧嘩をし(圧勝)、時には肩を組み飲みに行き(ファミレス)、時には机の下で寝て夜を明かしたりした(気付いたら家だった)。


スタッフ達は皆優秀で、持てる技術を出しきりエタメモ開発に心臓を捧げた仲間たちだ。


そんな訳で我が子とも言えるこの企画は個人的にかなり力を入れており、私自ら広告塔となり怒涛の宣伝攻勢に出た。

CMや雑誌の広告、SNS、動画サイト、あらゆる広告媒体にエタメモを持った私が現れ、今までとは次元の違う宣伝をして購買意欲を煽ったのだ。


しかも発売1年前から。


一体どんな機種なのか、今までと何が違うのか、様々な予想がされ、発売前から期待がふくらみパンク寸前。早く、早く次のCMを見せてくれ、と消費者は飢えた亡者のように群がった。


「ククク、愚かな民衆どもめ、踊れ、もっと踊れ」


私は掲示板でそんな阿鼻叫喚の感想欄を見て悦に浸る。

私の手のひらの上で右往左往するネット民見るのたーのしーい。


さて、と。


私はスマホ、いやメモリアを取り出す。

背面に掘られた飾り文字の”E”が美しい。

名前、デザイン、スペック、どれも私の理想通りの出来だ。

ちなみにスペックは高天原独自のCPUとチップを使い、どんなゲームもヌルヌル動く化け物スペックだ。

ここはゲーム好きの父が拘りに拘った。


値段も国産の新素材を使っているから驚きの低価格。

更にPフォン含め全てのデバイスと互換性がある。

画像共有を始め、初心者でも直感的な操作が可能だ。


このままでも大半の男は買うだろう。

しかし相手は女だ。

Pフォンなどと言うオサレなだけのブランドスマホを有難がる連中である。

何か決定的な一手が必要だ。


私たち開発陣は必死にあと一つを考えた。

なにがあればユーザーは喜ぶのか。

一体どうすればPフォンの牙城を崩せるのか。

考えに考えて、喧々諤々の議論の末、我々が辿り付いた答えは――


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