105、現在の天原家
「ただいまー」
色々あって精神的に疲れた入学式を終わらせ、フラフラと我が家へと帰宅する。
早く、早くエネルギーを補充せねば……!
私は逸る気持ちを抑え、ガチャリと玄関を開ける。
今までは両親共働きで、誰も迎えに来ない日もザラだったが今は違う。
我が家には今、二人の天使がいるのだ。
「ねえたま~」
「ねーねー」
「ゆーくんトワちゃんただいまー!」
出迎えに現れた天使たちにガバっと抱きつき頬ずりする。
「「きゃわーっ」」
「わははは! うい奴め!うい奴め!」
ああ~可愛い~、疲れが一瞬で飛んで行く~。
この天使たちは私の弟妹。
弟の悠と、妹の永遠。
あれから母は私の要望通り弟を産んだ後、1年後すぐ妹を産んでくれた。
現在2歳の悠と1歳の永遠は流石この私の弟妹だけあってとんでもない美形だ。
それでいて幼児特有の可愛さも相まって全ての人間を魅了してやまない。
その証拠に悠は、産まれた時私のチャンネルで「私の弟でーす」とゲスト?に呼んだ時にご祝儀として1日で5千万円の稼ぎを叩きだした。
その後もたまに動画に出すとお姉さん方の絶叫と投げ銭が派手に飛び交うのだ。
「きゃー」じゃなくて「ぎゃー!!!」だ。
わかるよ、この子将来ヤバいくらいのイケメンになるだろうからね。
超絶イケメン王子様の成長を0歳から見守るというコンテンツにお姉さま方は熱狂し、じゃぶじゃぶと惜しげもなく課金している。
2歳にしてこれである、末恐ろしい弟だ。
こうなったら私が責任を持って、誰もが納得する理想の男子に育てねばなるまい。
妹の永遠も同様だ。
ほぼ同じ流れで今度は男共も参戦し、一日で生涯育児費用を自ら稼いだ。
流石の私もドン引きである。
妹は私とは違うタイプの美少女に育てよう、その方がコンテンツ的に色々美味しい。
そんなことになったので二人はエタプロに登録し、一応子役ということになっている。
演技の道を選ぶとは限らないが、何かしらの芸能活動はしてもらうつもりだ。
ただ赤ちゃん子役としてはあまりにも美しすぎて現実的ではないと言われ、あまり使い勝手はよくないようだ。
本格的に活動するのはもう少し大きくなってからだろう。
なにせ私と違って変な霊に憑依されたり、転生者でもないのだから(確認した)。
ちなみに動画に出す度に大金を稼ぐので、うちの子だけというのも申し訳なく思い、何割かは高天原の子育て支援プログラムにお金を回すことにした(そしたら更に増えた)。
そんなことを思い出しつつ天使たちと戯れていると、メイドが現れ二人を取り上げる。
「ああっ」
「お帰りなさいませお嬢様。愛でるのはいいですが先に手洗いと着替えを済ませてくださいませ」
「へーい」
この不遜な老年メイドは榊原育江。
エタプロの社長秘書にして母のメイド、榊原楓の母である。
代々月詠家に仕える家系で、本家の当主付きとして働いていたが、子供が増え大変な我が家に祖母が寄こしてくれたのだ。
今までも共働きではありつつも、私がまったく手が掛からなかった故なんとかなっていたが流石にもう無理だ。
完全庶民生活を諦め、使用人を雇うことにした。
この育江、先祖代々名家に仕える使用人だけあり実に有能で、我が家の快適度は以前と比べ物にならないくらい上がった。
今までの生活は一体なんだったのか。
もう元の生活には戻れない。
所詮は父も母も坊ちゃん嬢ちゃん、家事のプロフェッショナルには到底敵わないのであった。
「お嬢様、もう少しおしとやかにお願いします」
「ええ分かりましたわ」
こうして私を立派なお嬢様にしようと細かくチェックが入るのは困りものだが、まあこういうお嬢様ムーブは嫌いではない。
ただ母も祖母も全然お嬢様っぽい口調じゃないので、この教育は無駄だと思ってる。
仕草だけ参考にさせてもらおう。
着替えて天使たちと遊んでいたら夕食の時間になった。
今日は入学祝いで豪勢だ。ケーキもある。
「で、初日はどうだった久遠。友達は出来そうかい?」
父が尋ねる。
一応母と一緒に着いてきてはいたが、延々と挨拶攻撃を受け入学式どころではなかった模様。
「うん、刹那様と友達になったよ」
「えーっと、刹那様と言うと内親王殿下の?」
「うん」
「そうか、流石久遠だな」
深くツッコまずに、そういうものだとすぐ受け入れるのが両親の良い所。
「刹那様とっても可愛らしい方だったわねー」
「ほんとそれ」
私と母はせっちゃんが如何に可愛いか、如何に尊いかで盛り上がる。
「しかし皇族か……血は争えないというか何と言うか」
「そうねー」
「何が?」
両親が懐かしむような顔をする。
「実はパパ、皇太子殿下の一つ上の先輩でな、友人だったんだ」
「ママは同級生で護衛だったのー」
「マジで?」
両親が御柱学園で出会ったのは知っていたが、皇太子殿下も一緒だったとは。
「懐かしいな……真面目で堅物だった殿下に無理矢理ゲームを教えてFPS廃人にしたりしたっけ……」
「あったわねー」
「何やってるの⁉」
至高の存在になんてことしてくれたのかこの父は。
「だってずっとつまんなそうな顔してたからさ、色々楽しいこと教えたくって」
それは分かる。
私もせっちゃんに色々楽しいこと教えたいと思ってたし。
こういうところが私の父なんだよなぁ。
「ママと殿下と、もう一人今の皇太子妃と一緒に沢山遊んだわねー」
「そう考えると、娘同士がこうして友達になるのも必然だな」
なるほどなぁ、我が家は徹底的に皇室と縁があるようだ。
「そういえば護衛って、ママ何してたの?」
「基本的には学園内とか学園行事での付き人ね。外では三日月の護衛がいたから」
ふんふん、私がやろうとしてる事と同じ感じかな。
「危険が迫ると分かるから、殿下に『そこは行っちゃダメ』『明日は外出禁止』とか助言したりねー」
母が護衛って無敵では?
「でもそんなママが煩かったみたいで、一度助言を聞かずに振り切ったことがあってねー」
「え、大丈夫なの?」
「当然攫われたわー」
「攫われた⁉」
母の助言無視するとそんなことになるの!?
「まあすぐに居場所を察して、警察と一緒に乗り込んで壊滅させたんだけどねー。それ以来殿下もママのいうことをちゃんと聞くようになったから、結果オーライね」
「へー、やっぱり狙われるんだ。それにママの力でも完全には防げないんだね」
「そりゃそうよー。それにあの時はただ勘が良いだけだと思ってたし強くは止めなかったのよ」
チートな母でもイレギュラーは発生する。
ましてや私に母のような能力はない。
より一層気を付けないといけないな。
「大丈夫よー、何かありそうだったらママ言うから」
「うんありがと」
まあこの最強の母が付いてればどうとでもなるか。
「でもあんまり何もないと成長しないから、軽い事件とかはスルーするね?」
「なんで⁉」
まあ王者には試練がつきものだ。
きっと程ほどに丁度いいレベルの事件が私とせっちゃんを待っているのだろう。
命の保証がされてるなら楽しいもんである。
どんな困難も二人で乗り越えてやろうではないか。
「まあ久遠は刹那様を目いっぱい楽しませてやってくれ」
「そうね、皇室には話を通しておくから、色々連れ回してあげてね」
「わかったよ」
そうと決まれば色々と行きたいところもある。
手始めに軽いところから遊びにさそって見ようかな。
私はスマホを取り出し検索する。
「そういえば久遠、新スマホの調子がどうだい?」
「ああこれ?」
私は最近高天原で開発したスマホをフリフリする。
「フフフ、バッチリだよ」
「そうか、フフフ」
父と二人でフフフと笑う。
遂に完成したのだ、Pフォンを駆逐する新たなスマホが……!
俺氏、今頃になって結構な誤字報告を受けていることに気付く……。
報告ありがとうございます!