104、初日終了
「久遠ちゃん!ファンです!サインください!」
「ボクの家、高天原系列なんです!両親が久遠さまに宜しくと……!」
「ねぇねぇミオってほんとにカーチェイスしたりヘリからダイブしたの?」
「握手してください!」
自己紹介の後、もろもろの連絡事項が終わったら解散となり、親が迎えにくるまでの自由時間、私はこうしてクラスメイトたちに囲まれていた。
「はいはいサインね、ついでに握手もしておく?小太郎」
「はっ!久遠さまのサイン&握手を希望の方はこちらに並んでくださーい」
小太郎が慣れた様子で即席握手会の列整理を始める。
「なんだか、すごく慣れてますね?」
前の席に座るせっちゃんが驚いた様子で尋ねる。
「まあよくあることだから」
幼稚園時代、遠足などで遠出するとよくファンに囲まれ、しかたなく握手会をすることが多々あった。
その際我が騎士団の面々は進んで手伝いを申し出、こうして即席のスタッフとなって私のファンサービスの手伝いをしてくれたのだ。
(面白かったな、カオスで。あいつら元気でやってるだろうか)
時には斎藤に教わったりして、熟練スタッフ顔負けの技を身に着けた騎士団員たち。
いったいどんな小学生になるのやら、だ。
「あのあの!みかちゃんへって書いてください!」
「はいはいみかちゃんね、じゃ、握手、これから宜しくね」
「きゃわー!クラスメイトなんて夢のようです!」
この3年、私はCMやドラマに引っ張りだこだった。
基本は大人向けのコンテンツだが、中には子供向けの番組に出たり、子供服のモデルもしたりと子供の間でもそれなりに知名度がある。
いや、それなりは謙遜しすぎだな、日本一有名な子役だと断言できる。
それくらい私はメディアに出まくっていた。
「うおー本物のユカリちゃんだ!なぁなぁ、エタレンジャーってこれからどうなるの?」
「秘密、でもすんごいことになるよ」
「すんごいことって何……⁉」
中でも「劇場版リトルブレイバー」と「無限戦隊エタレンジャー」は子供を中心に大ヒットを飛ばし、もはや私を知らない子供は日本には居ないレベルである。
ちなみにユカリはエタレンジャー内の私の役名である。
まあこの二つについてはいずれ語ろう。
「刹那さま、ご挨拶を申し上げます」
「クラスメイトなのですから、楽になさって結構ですよ?」
私同様に、せっちゃんも挨拶を受けている。
それほど多くはないが、古い家柄の子は列をなして自然にこうべを垂れる。
うむうむ、流石は我が王である。
主君が敬われると私も嬉しい。
すっかり心は家臣モードだ。
「ありがとう久遠ちゃん!」
さて、クラスの5分の4ほどと握手をして、この会もお開きだ。
私と握手をしていない子は引っ込み思案な子か、もしくは親から距離を置くよう言われてる子だろう。
その子たちともこれから距離を詰めていきたいところだ。
「大変でした……」
「せっちゃんも大人気だったね」
「くーちゃんは流石というかなんといいますか……凄いですね」
「まあ一応芸能人だから、これくらいは普通だよ」
「全然普通じゃないと思いますよ?」
そんな風にお互いを労っているとガラリと前方のドアが開き、見知った顔が現れる。
「刹那様ー、お迎えに上がりましたー」
我が下僕の三日月竹丸である。
「あ、竹丸だ」
「げぇ久遠様!」
「げぇとはなんだげぇとは」
「竹丸、ご苦労様です」
せっちゃんが廊下に出るので私もついていく。
「竹丸ってせっちゃんの護衛だったの?」
「せ、せっちゃん⁉不敬ですよ久遠様!」
「竹丸、くーちゃんとはお友達になったので大丈夫ですよ。ねー?」
「ねー」
両手を出して来るので手を合わせて「ねー」をする。かわいい。
「友達になったからって、よくそこまで崩せますね久遠様、あれ感じませんでした?」
「あああれね、感じたけど気合でなんとか抑えてる」
「流石っすね……」
やはり竹丸も分家とは言え月詠家、あの不思議な皇族オーラに強く反応するのだろう。
「でも友達になったなら丁度いいですね」
「ああ任せろ、竹丸がいない時は私がしっかり守るよ」
何を言いたいのかはすぐ分かった。
代々皇族の守護を司る月詠の血か、言われなくても私はせっちゃんを全力で守るつもりだった。
「はい、協力してあのお方をお守りしましょう。最近は皇族を狙う不穏な動きもあるようなので」
「…………」
フラグを立てるな!
私は最早このフラグ立てこそが、こいつの月詠としての能力なのではと疑っている。
そのうち襲撃イベントとかあるんだろうなぁ……。
「久遠さま、こちらの先輩は?」
「小太郎か。こいつは私の一の下僕、三日月竹丸だ」
「久遠様、下僕はやめてくださいよ、もう中学生なんで……竹丸だ、よろしく後輩」
「へぇ……俺は久遠さまの第一の騎士、小太郎です、よろしく、先輩」
「ほーん……まあ俺は?久遠様とは親戚関係で?久遠様が3歳の時見込まれ、一番最初の家来にしてもらった訳だが?」
指相撲で速攻で負けて下僕になった竹丸が見栄を張る。
「下僕って言ってませんでしたか?俺は幼稚園初日に久遠さまの王気に触れ、その日に騎士の誓いを立てました。以後同年代として久遠様に仕え、共に苦労を全うしてきました自負があります」
お前は私をブス呼ばわりして怒りを買い子分になっただけだろ。
「…………」
「…………」
「はわわっ……く、くーちゃんどうしたら」
「ほっときましょう」
「ええ……?」
にらみ合う二人を無視して廊下に出ると、また見知った顔が現れる。
「あ、くおーん入学おめでとう」
「瑞希ちゃん!」
なんと同期でお友だちの片瀬瑞希ちゃんもこの学園の生徒なのだ。
「久遠、初日から問題起こしてないでしょうね、宣戦布告したりとか」
「えーそんなことしないよー」
「全っ然信用出来ないわ……」
瑞希ちゃんは初等部5年生。もうすっかりお姉さんだ。
「あ、あの、片瀬瑞希さんですよね?アイドルの……」
瑞希ちゃんは無事デビューを果たし、今ではアイドルグループ「ティターニア」のリーダーとして人気急上昇中のジュニアアイドルだ。
「ええそうよ?久遠のお友達かしら、この子頭のおかしいことばっかりするけど、仲良くしてあげてね?」
瑞希ちゃんは自分のファンだと思い、キラッキラの決め顔で髪をシャランとかき上げお姉さんポーズをとる。
「紹介するね瑞希ちゃん、天皇陛下のお孫様の刹那殿下だよ」
「刹那です、よろしくお願いします」
「ちょっ!」
慌てて私の腕をとり物影へと連れていく。
「どどどどういうことよ刹那殿下って!」
「いや、同じクラスにいたから友達になっただけだけど」
「だけって!だけって!……はぁ、まあいいわ、そうよね、久遠ってこういうやつよね、うん、分かってたけど分かってなかったわ」
「瑞希ちゃんおもしろーい」
「面白くないわ!」
瑞希ちゃんとの付き合いももう4年近くになる。
この掛け合いも慣れたものだ。
「失礼しました刹那様、改めまして片瀬瑞希と申します、ご存じ頂き光栄です」
せっちゃんの元へ戻り、改めて丁寧に挨拶をする瑞希ちゃん。
「ふふ、くーちゃんのチャンネルでもよくご一緒されてますし、くーちゃんとの掛け合いが楽しくてわたくし好きですよ。本物が見れて感動しています」
「あ、ありがとうございます」
「ププッ、さっきはあんなにお姉さんぶってたのに」
「あんたね……まあいいわ、心配してたけど早速お友だちが出来たのなら安心ね」
「失礼な。私にかかれば友達100人くらい余裕だよ」
「そうかしら?友達と言う名の下僕を100人作ると思ってたわ」
「…………」
流石するどい。私は目を反らした。
「ふふ、本当に仲がよろしいのですね」
「刹那様もお気を付けください。下手にツッコむと調子乗るのでこの子」
「瑞希ちゃんに甘えてるだけだよ~」
「はいはい」
「うふふ」
3人でしばらく話し込んでいると、ようやく母が迎えに来た。
「くーちゃん帰るわよー」
「あ、社長、お疲れ様です」
「あら瑞希ちゃん、学園でもこの子のことよろしくね?」
「はい!じゃ、久遠、今度は学園を案内するわ」
「うん、ばいばい瑞希ちゃん」
そういって瑞希ちゃんは帰っていく。
「お初にお目にかかります刹那様、天原伊波です」
「初めまして伊波様、お噂はかねがね」
母がせっちゃんに挨拶をする。
「せっちゃんはママのこと知ってるの?」
「ええ、月詠当主はよく皇居に来ますから。当主が語る伊波様の伝説が面白くて、何度もお話をせがんでいたものです」
「伝説……」
「お恥ずかしいわー」
まあ歩く伝説製造機みたいな人だからなこの母は。
「早速うちの久遠と仲良くしていただきありがとうございます。色々と便利な子なので、必ずや刹那様のお役に立つことでしょう。どうかおそばに置いてやってください」
「まあ役に立つなどと、久遠さんは素敵なお方です。こちらこそ仲良くしていただきたいですわ」
珍しく母がちゃんとした口調で話している。
ていうか初めて見たなこんな母。
母のことだからあのオーラも効かないだろうけど、ちゃんと礼を尽くすべきところは尽くすんだなぁ。
新たな発見だ。
「もー、くーちゃんはママのことなんだと思ってるのー?」
「あ、戻った」
「さ、帰るわよー」
「はーい」
「竹丸、いつまでやってるのです?」
「あ、はい、ただいま……って伊波様⁉ははぁー」
母に気付いた竹丸が急にひれ伏す。
相変わらず月詠の人間の母信仰は根強い。
「竹丸くんも護衛しっかりね」
「かしこまりました!」
「久遠さま、ではまた明日!」
「おー」
竹丸とにらみ合っていた小太郎とも挨拶をして駐車場へ向かう。
帰りは斎藤の運転するリムジンだ。
豪華絢爛な内装にフカフカシート。
まるで動く高級ホテルのスイートルーム。
事故ったらその損害は如何ほどか、そんな高級車に流石の斎藤も緊張気味。
無駄に細長いし。
このリムジン、初等部入学祝いに天原のお爺様が買ってくれた。
御柱学園に通うならリムジンは必須だから、と。
確かにチラホラと駐車場でリムジンを見かけた。
送迎にどんな車を使うのかで格比べをしているのだろう。
当然日本トップレベル企業の子である私は、最高級車でなければならない。
まったく楽しい学園である。
私は流れる街並みを見ながら、備え付けの冷蔵庫からオレンジジュースを取り出し優雅に飲んだ。
こうして私の初等部生一日目は終わった。
さ、帰ってうちの天使たちと戯れよう。
久遠が3歳児の時瑞希たちは6歳で小学1年生。
3歳上なら今4年生かな?とか思ってたけど
よくよく考えたら初期から4年経ってて、だったら今5年生じゃんって気付いて驚愕した件。
だから正確には瑞希たちは久遠の4つ上ですね。
久遠は遅生まれで瑞希たちは早生まれってことでひとつ(ややこしい)。