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103、自己紹介

「せっちゃん♪」


「な、なあに、くーちゃん?」


「呼んだだけ♪」


「も、もーくーちゃんったら///」


イチャイチャ。


「ねぇせっちゃんはさ――」


「その時久遠さまはこう仰られた!」


付き合い立てのカップルのようにせっちゃんとイチャイチャしていたら突然耳障りな声が聴こえてきた。

なんだよ邪魔するなよ。

イラッとして声のする方へ顔を向けると、そこには異様な光景が広がっていた。


「『私がお前たちに智恵を与えてやろう。知は力だ、その力で持って我らはこの園を支配する!皆、私について来い!』と」


「「おおー」」


小太郎が教壇にあがりクラスメイトたちに私の恥ずかしい武勇伝を暴露していたのだ。


(小太郎お前何やってんの⁉やめろやめろ確かにそんなようなこと言ったけど、あの時はその場のノリで何と言うかめちゃくちゃ適当に言ってたし今では割と黒歴史なんだぞ!)


私は顔を真っ赤にし頭を抱える。


「く、くーちゃんどうしました?」


「ぐぉぉぉ……」


机に突っ伏して恥辱に悶える私。


いつからあの話をしていたんだろう。

どおりで私とせっちゃんがいるのに誰も話しかけて来ないわけだ。


(ああー私の平穏な初等部生生活が一日目にして終わった)


しかし……


「かっけぇー」


「すてき」


あれ?意外とウケてる。


考えてみれば彼らはこの間まで幼稚園児だった初等部一年生。

まだまだヒーローヒロインに憧れるお年頃。

私が自意識過剰なだけで、しばらくは気にする必要ないのかもしれない。

具体的には中学2年生を超えるまでは。


ふーなんとか致命傷は避けられたか。

それはそれとして。


「小太郎ちょっと」


小太郎を手招きして呼び出す。


「あ、久遠さま、どうしました?」


「どうしましたじゃないよ!何やってんの⁉」


「久遠騎士団御柱支部の団員募集です」


「いやいらないから、国作らないって言ったよね?」


「でも先ほど決意されたような顔してましたので」


「くっ……」


流石3年間私の子分をしていただけありよく見ている。


「それに遅かれ早かれだと思いますよ?久遠さまならその内絶対クラスをシメると思います」


「…………」


有り得るから困る。

幼稚園でも初日でキレてシメてたし。


「うふふ、くーちゃんのことよく分かってるのですね」


「えっと……」


突然現れた超絶美少女にブス専の小太郎も流石に戸惑う。


「小太郎、こちらの方は刹那様だ」


私が手をかざすと、小太郎は騎士の礼をとって挨拶をする。


「初めまして刹那さま、久遠さま一の騎士、風祭小太郎と申します」


「まあ、くーちゃんの騎士ですか?それは素敵ですね」


せっちゃんがクスクスと笑い、小太郎を肯定する。

皇族らしいお褒めの言葉に嬉しくなる小太郎。

イカン、いつもならここから私の賛美が飛び出す場面だ、こいつは私が世界で一番偉いと思っている。

変なことを言わないように釘を刺さねば。


「小太郎、刹那様は天皇陛下のお孫様でいらっしゃる、失礼のないように」


「てんのう?」


まあ小1じゃまだよく分からないか。


「私が王なら彼女は皇帝だ、私より偉いのだ」


「なんと、久遠さまより偉い方がこの世にいらっしゃるとは……!」


「小太郎よ、私より偉い人などこの世に五万といる。特にこの学園ではな。故に今はこの学園で大人しく学ぶのだ」


「なるほど……来たるべき合戦のために、今は力を付ける時ということですね?」


「うん、まあそんな感じで」


大河ドラマでも見たんだろうか。

もうめんどくさいし本人楽しそうだから放置でいっか。

そのうちコイツも黒歴史に後悔する日がくるだろう。


「はーいみんな仲良く出来たかなー?自己紹介するから席に着いてねー」


ガラリと教室のドアが開き、ようやく教師がやってくる。

如何にも子供受けの良さそうな、優し気な先生だ。


「先生の名前は九条桃子でーす、これから一年間よろしくねー、はい拍手ー、自己紹介が終わったら拍手してねー」


わーパチパチパチパチ。


子供の扱いが上手そうだなぁ。

エリート校とはいえ所詮はまだ一年生。

厳しい先生よりこういう先生の方がいいのだろう。


「じゃあみんなにも自己紹介してもらおうかなぁー」


チラッと私とせっちゃんを見る桃子先生。


「そうねー……本来は出席番号の最初から順だけど、今回は最後からにしましょう」


どうやらトリをせっちゃんに持っていきたいようだ。

気持ちは分かる。


「では一番後ろのキミから。名前と親の会社、あと趣味とか夢とか一言つけてね」


親の会社⁉


「せ、せんせー、親の会社って……?」


いきなりのブッコミに教室がざわめく。


「ウフフ。この御柱学園はねぇ、この親の会社が何より重要なの、あ、もちろんお爺ちゃんの会社でもいいんだけどね?」


なるほど、何となく見えてきた。


「ここは日本全国の上流階級の子息子女が集められた学園。殆どの子は将来親の会社を継ぎ社長になるわ。だから持っている権力も絶大。もしもそうと知らずに子会社の子が、親会社の子を傷つけたらどうなると思う?」


「つ、潰されちゃう?」


「そう、簡単に一家を破滅させる事が出来るわ。もちろん先生たちもそうならないように注意するんだけど、毎年何件かは起こってしまうのよねぇ」


「そ、そんな……」


恐らく子会社の子が絶望した顔をする。

それでは立場が弱い子はこの学園ではずっと怯えながら生きていかねばならないのか。


「でも心配する必要はないわ。ケンカせず仲良くなってしまえばいいのよ。そうすれば潰されるどころか友達として優遇されるわ」


「そうなんだ……」


ホッとした顔をする子会社の子たち。


「中には親の権力を傘に横暴な振る舞いをする子もいるわ……そういう時は、他の力のある子に頼ったりね。お友だちの親の会社を知ってると色々便利なのよ」


親会社の子がクズだった場合、見限って他の傘下に入ることも可能だし、手を組んで元親会社を倒すこともできる。

つまり――


「もちろん上下関係に限らず、全然別の会社の子同士仲良くなってもいいわよ、それで将来は提携したり色々会社のためになるわ、みんなも将来のことを考えて、沢山友達作りましょうね?」


――この学園は戦いの場ということだ。


将来家を継いでからではない、もうすでにこの時から、家のために行動することを求められている。

友達を増やしてコネクションを強化してもいいだろう。

ライバル会社を蹴落としたり、子会社を吸収するのもいいだろう。

親の会社を継がずに自分の会社を作ったり、自分を売り込むなどももちろんありだ。


ヤバい……。

超楽しそうなんですけど。


「はーい分かったかな?分からなくてもそのうち分かるからねー、じゃあはい、渡辺くんから」


「は、はい、えーっと渡辺商事の……」


そうして自己紹介が始まった。

私はかつてないほど真剣に自己紹介を聴いていく。

へーあの社長の息子……あの会社の子会社か、欲しいかも……。

まるで獲物を品定めするライオンのよう。

私の他にも何人か同じようにしてる子がいる。

流石エリート校、ただの子供ではない。


そんなこんなで品定めしていると小太郎の番が来た。


「風祭小太郎です。親は風祭建設です。夢はえーっと」


チラチラとこちらを見てくる。

仕方ないので頷いておく。


「配下として久遠さまの覇道を手伝うことです」


ザワリと教室が沸く。

風祭建設と言えば日本最大手の建設会社だ。

そんな会社がすでに私に臣従を誓っているという。


(フッ……)


私は足を組み意味深な笑みを浮かべる。


(あいつ風祭建設の息子だったのー⁉)


精々町工場の社長の息子だと思ってた。

なんでそんな子があんなボロい白鳥幼稚園通ってたんだよ。

私も人のこと言えないが。


ともかくそんな大物の爆弾発言だ。

実際はただ騎士ごっこして遊びたいという意味だとしても、この学園では高天原とツクヨミの傘下に入り、覇権を狙ってると思われかねない(まあ狙ってるけど)。


私は内心動揺しながらも、自分の番が来たので立ち上がる。


「天原久遠です。祖父は高天原グループ総帥、祖母はツクヨミグループを持つ月詠家当主。私自身は子役でもあります」


将来の夢かぁ、夢夢……。


「将来はこの二つのグループのトップに立ち統合し、大女優として培った知識とコネと知名度で私の手で日本一……いや世界一の大企業にすることです」


それからえーっと。


「そのためにまずはこの学園を手中に納めたいと思います!学園の良きところは伸ばし、悪しきところは改革します!才能を発掘し、小さな事業も始めたいです!そして社交にも精を出し、積極的にM&Aをしかけます!臣従する者には慈悲を、敵対するものには破滅を与え、天原久遠の名のもとに、学園内に超巨大コングロマリットを築きたいと思います!」


あ、やば。テンションが上がってつい大げさなことを言ってしまったぞ。

やっちまったか?


パチ、パチ、パチ、パチ。


「流石久遠さま、一生ついていきます」


拍手してるの小太郎だけ。


せっちゃんポカーン。

先生も生徒もみんなポカーン。


「な、なーんてね!ドラマでこんなセリフあったからつい言っちゃいましたー、あはは……」


「そ、そっかー、ドラマね、流石子役さん、お上手ねー。先生本音かと思ってビックリしちゃったー」


みんなも、そっかー、演技上手いね、よく分からなかったけど、とまばらに拍手が鳴り始める。

私は頭を掻きながらどーもどーもと着席した。

よし、なんとか誤魔化せたか。


さて大トリだ。


「じゃ、じゃあ最後は刹那様」


「は、はい、刹那です、苗字はありません。祖父は天皇陛下です。えーっと皆さんと楽しく学園生活を送れたらなと思います、よろしくお願いします」


ほっこり。


私のあとにほんわかとした優しい自己紹介が行われ、みんなもほっこりする。

祖父は天皇陛下とか割ととんでもないことを言ってるが、ピンと来てないのかすでに感覚が麻痺しているからか、スルーされている。


「刹那様は皇族なので苗字がありません。この国のお姫様なので、みんなよりもずーーーっと偉い立場です。絶対に絶対にぜーーーーーーーーたいに失礼のないようにねー」


圧が強い。


大企業の社長子女に対しては一切ものおじしなかった先生が、せっちゃんに対してはものすごくへりくだっている。


「あの、先生?わたくしを特別扱いする必要はありませんよ?様付けも結構ですし」


「いえ!お許しがあろうと私は刹那様と呼ばせて頂きます!みんなもお許しがあるまで絶対失礼な態度とっちゃだめよ!」


「「は、はい」」


この態度はあれだな、この先生の家も皇室に近い古い家系なのかもしれない。

私も油断するとこうなりそうだし。


「残念です」


せっちゃんが着席し、私に困った顔を向ける。


「まあまあ、先生はあれだけど地道に友達増やしていこうよ」


「そうですね」


こうして、一年一組の自己紹介が終わった。

なんというか、楽しそうなクラスだった。


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