1、プロローグ
初投稿です!よろしくお願いします!
「鬼龍院麗華!お前との婚約を破棄する!」
上流階級が通う学び舎「上弦学園」の華やかなる卒業パーティの場で、
我が麗しの婚約者「立花光」がとてもよく通る声で叫ぶ。
「お前はここにいる日野さくら嬢を庶民と蔑み、人を使ってイジメをし、あまつさえ階段から突き落とそうとした!こんな奴は我が立花家の嫁に相応しくない!」
「怖かったですぅ」
理由をご丁寧に説明する光の傍らで、庇護欲をそそるようで、よく見ると勝ち誇った顔をした女の子、「日野さくら」が潤んだ目を向ける。
器用な表情だ、目薬かな?
「……」
そして私こと鬼龍院麗華はうつむき、たっぷりと間を取って顔を上げる。
「承知しましたわ!わたくしとしても一刻も早くこんな婚約、白紙にしたかったところです!そちらから言い出してくれて感謝いたしますわ!」
姿勢正しく気高さを忘れないように、
実に晴れやかな顔で言い切った。
「え?」
「あなたのような馬鹿でクズで浮気者の男、誰が望むものですか」
少し目線を鋭く、高圧的に、上位者として振る舞う。
「な、なにを……」
「これまでの浮気、モラハラ、パワハラの数々、しっかり映像として残してきましたが無駄になりましたね、いえ、せっかくなのでSNSで拡散しておきましょう」
「は、はぁ⁉や、やめろ!そんなことしたら立花グループの名に傷が付くだろう!」
「ちなみにこちら、立花グループがこれまで行ってきた不正の数々の証拠です。
談合、恐喝、ゆすり、もみ消し、その他沢山。ずいぶんとまあ汚いことをしてきたものです。
これで貴方ご自慢のお家もお終いです。良かったですね、これで気兼ねなく庶民と結婚できますわ」
「こんなことしてただですむと……!」
「なにか?」
鋭い目で睨む。
「う……ぐ……」
何か反撃の手口は無いか、視線を彷徨わせる元婚約者様。
一方のさくらはそんな光を一瞬冷たい目で見つめ、笑顔をこちらに向ける。
「あ、あの〜あたし実はまだ光とは付き合ってないんです。
だから他人のあたしはここまでということで……」
素晴らしい変わり身の早さ。
こいつは状況が悪くなるとすぐに誰かを犠牲にして逃げようとする。
だが今回は逃がさない。
「貴方には虚偽の証言とわたくしへの誹謗中傷を学園やSNSにばらまいた罪がございます。」
「そ、そんなことしていません!証拠はあるんですか証拠は!」
引きつった笑顔でいかにも犯人らしいセリフを言うさくら。
「証拠も証人もほらここに。光様はバカなだけですが、あなたはわたくしを社会的に殺そうとした立派な罪人です。
少なからず鬼龍院グループの事業にも影響が出ましたし、しっかり賠償請求させて頂きますわ」
「そ、そんなぁ~」
がっくし。
見事にお揃いの体勢で崩れ落ちる2人、タイミングも姿勢もバッチシである。
こうして私、鬼龍院麗華の復讐は終わった。
思えばここまで長かった。
何度も時間をループし、何度も人生をやり直した。
家出をして工場勤務したりコンビニバイトしたり、
時にはモデルになったり舞妓さんになったり、
警察官や軍人、パイロットになったこともあったっけ。
何故か毎回最後にはこの2人が立ちふさがって、私は失敗するのだけど。
何度も挫折して何度も挑戦して、やっとこの瞬間にたどり着いた。
でも、あの経験が私を強くした。
今までのことを思い出し自然に口元が 緩む。
さて、これから何をしようかな、もう私は何だって出来る。
とその前に。
私は崩れ落ちる2人に振り返り満面の笑みを浮かべる。
「ざまぁ!」
「はいカットぉーーーーー!!!!」
カチンコの音でハッと意識を取り戻す。
私は天原久遠、18歳、職業女優。
息を大きく吐いて心を落ち着かせる。
今は私が主役を演じるドラマ「婚約破棄されたお嬢様のハチャメチャループ人生」の撮影中だ。
今日はそのクライマックス。
ハチャメチャて、何度聴いてもそりゃないだろうと言うタイトルだが、実際内容はハチャメチャだった。
「いやぁ流石久遠ちゃん!完璧なお嬢様!なのに庶民役もこなせて素晴らしい!よ!大女優!」
「ありがとうございます、中々演り甲斐のある役でしたね」
「あんなに幅広い役柄、よくやりきったよね。銃の扱いとか本場すぎて引いたよ」
「まあ色々経験してますから」
「久遠ちゃんこそ転生してるんじゃないの〜?普通の女子高生にこんな役無理でしょ。この前のアドリブだって……」
「いえいえそんなそんな」
ひげもじゃの監督と撮影終わりのテンションで語りあっていると、共演者たちも挨拶にくる。
「久遠さんお疲れ様でした。今回は色々ご迷惑をお掛けして……でも大変勉強になりました!これからもご指導よろしくお願いします!」
「久遠ちゃんお疲れ〜。最後めっちゃ良い笑顔だったね!」
光役の男性俳優が頭を下げる。
こやつは顔だけのモデル上がりで演技がダメダメだったので、少々厳しく教えてやったのだ。
さくら役の新人アイドルは気安く声をかける。
業界的にはアウトだが、子役上がりの私は視聴者に娘や友達として見られがちなので、こういう扱いも多い。
まあ私は気にしないけど後ろのマネージャーはハラハラしている。
「みんなお疲れさま。みんなのおかげですごく良い作品になったよ」
そう言って愛想良く完成後の挨拶に回る。
とは言えその後も編集とかスタッフは色々大変なのだが、
私たち役者陣はひとまずお役御免だ。
「じゃあ私はこの後があるから、またパーティーや番宣で」
「「お疲れ様でした!」」
こうして私は撮影現場を後にし、マネージャーが運転するリムジンに乗り込む。
「はぁ~終わった。しかし最近はどこも悪役令嬢転生ばかりねぇ」
小説から始まった悪役令嬢ブームは、次第に漫画、遂には実写にと規模を拡大していった。
「私これでお嬢様何役目よ、やり過ぎじゃない?視聴者も呆れてるわよ」
「まあ今の日本で演技が出来るお嬢様と言ったら久遠様ですからね」
真面目に運転していたマネージャーの斎藤が応える。
「だからってねぇ。実際そうでなくても演じてお嬢様になりきるのが、演技の楽しさなわけで」
「仕方ありません、貴方は天原久遠様なので」
「まあ、ね」
そして目的地に到着しリムジンを降りる。
場所は天をつくような豪奢なビル「高天ヶ原カンパニー本社」。
斎藤に先導されきらびやかな玄関を通ると従業員総出でお出迎え。
「お疲れ様です久遠会長代理!」
「会長代理、こちら本日の会議の資料の追加です、お目通し下さい」
「久遠会長代理こちらの企画になにかアドバイスを!」
「久遠様考案のアプリの使い心地は如何ですか⁉」
「久遠様今度のコレクションのデザインまだですか!」
「久遠様!予算の追加を何卒……!」
「久遠様今日もお美しい……」
「久遠様サインください!」
「はいはいまずは会議から。あとはアポをとってちょうだい」
挨拶もそこそこに仕事の話をするやる気のある社畜たち。
(死ぬ……働きすぎて死ぬ……)
天原久遠、18歳女優、兼日本トップに君臨する高天原グループ次期総帥、兼……。
どうしてこうなった。
遠い目をして現実逃避する私。
これは血と才能に恵まれすぎた少女天原久遠が、
やりたいことを好きなだけやって、周りを巻き込みながら人生を駆け抜けていくお話。