独身男の休日の朝
『斎藤くん...本当に好き』
えっ?
って、はぁ、はぁ...ゆ、夢か。気がつけば今、俺の目には見慣れた自分の部屋の天井。そして頭にはしっかりと枕の感触。額にはわずかに汗をかいている感覚が...ある。
静かにベッドに立てかけている時計を見ると針は朝の5時の位置にある光景。
せっかくの土曜日だと言うのにかなり早く起きてしまった。そして、見ていた夢が夢だけにもう正直二度寝なんてことも到底できそうにない。
そもそもだ...。何で今さらこんな夢を。
そして、こんなにも鮮明に...。おかしい。おかすぎるだろう。
そう。ついさっきまで俺の目の前にはあの時の彼女、高校の頃の西野美桜がいた。
それも、よりにもよってなんであの時の光景があんなにも鮮明に...。
いや、あれこそが夢だった。そう。俺の脳が勝手に作り出した実際になかった事実...。それでいい。と言うかそうだ。あんな事実はそもそもなかった。そもそも、嘘で彼女があんなことを俺なんかにするわけがないのだから...。
実際、随分ともう見てはいないし、見ようとも思わないが、その時の出来事は当然あの動画の中にも記録なんてされてはいなかった。
そう。なかった。あの時の関係や出来事は全て嘘だった。それ以上でもそれ以下でもない。そもそも何もなかったのだ。そんな当たり前のこと、何をいまさら。
本当に駄目だ。こんな夢を見るなんて、俺は相当疲れている。昨日は仕事から早く帰れたとは言え、最近はちょっと色々とあったから疲れているんだ。
とりあえず、もう完全に目も覚めてしまって眠れない。
こういう時はとりあえず身体を動かすしかない。
動かして、何も考えないように。余計なことを考えないようにしなければ....
そんなことを考えなら、俺は腕を床につき、腕立て伏せを静かに始める。
そう。今隣に住んでいる西野もあの時のことは何も覚えていない...はずだ。あの時のことは彼女にとっては取るに足らないことなのだから。だからこんな風に普通に関わることができている。そういうことなのだ。
だから俺も何も言わないし、それでいいのだ。
彼女とは過去になにもなかった、そしてこれからも当然何もない。
俺たちはただの同じマンションに住んでいる隣人同士。そして、昔、ただ通っていた高校が同じでたまたま同じクラスになったことがあるだけの知り合いだ。
それでうまくやれているから、うまくやれているはずだから、問題なんて、何もない...。
だから、今は何でもいいからもっと身体を動かして心を無にする。そのことだけを俺は考えればいい。
それに、窓の外を見ると、既にもう陽も昇っていてかなり気持ちのよさそうな朝。
とりあえず、こんな朝は散歩に行くのもありかもしれない。
よし、せっかく早起きしたんだし外にでよう。