夜遅くに帰宅した独身男
もう11時か。さっき家にちょうど帰ってきたところではあるが、何だかんだで気が付けば閉店近くまで回転寿司屋に俺たちはいたみたいだ。テレビをつけると探偵ナイトスクープがちょうどもう始まりそうな時間。
それにしても、今日も機嫌がよさそうにずっと彼女は楽しそうに喋り続けていた。気がする。
だからと言って別にそれが何だという話ではあるが...。機嫌を悪くされるよりはまし。そういう意味で言っている。一緒にいたのが俺でなく誰であったとしても、彼女はいつもあんな感じな...はず。
でも、今日も感じたが。ああいう一見冷たそうで近寄りがたい雰囲気の容姿の整った女性が、実際は喋ってみるとすごく愛想がいいと言うか、ゲラだったりとかいう可愛げを見せるギャップがやはり、彼女がモテにモテる大きな理由の一つなのだと思う。
一緒にいて場が明るくなる人っていうのも、きっとあいつみたいな奴のことを言うのだろう。
場を明るくする。華のない俺には逆立ちしてもできない芸当だ。
現に今日も華のある彼女はすれ違う人、すれ違う人からの視線を集めていたし。
そして、そう。それはもちろん高校の頃も...。
そんなことを考えながら、ポストに入っていた郵便物の中身をさっきから静かに眺めている俺。
まあ、そうか。もうそういう年齢か。
【同窓会のお知らせ】
来月にある高校の同窓会の案内。本当にこういうのって来るんだ。と思う反面。
そうか。そうだったな...。
そう。改めて俺は思い出す...。高校の頃も彼女はあんな感じで俺に偽りの笑顔を向けていたことを。
彼女は嘘が上手い。
そう。嘘が...。
少なくともまた、気を抜けばバカみたいにいつの間にか気を許してしまいそうになってしまうぐらいに。
そして、俺に届いたのだ。おそらく、この通知は隣の彼女のところにもまちがいなく届いていることだろう。
まあ、それもだからと言って何だと言う話ではあるが。彼女がどうするかなんて俺には全く関係ないことだ。
とりあえず、俺は行くつもりはない。と言うか行かない。行く意味もない
友達が一人もいないわけではないが、彼女みたいに多いわけではないし、行ったところでという話。
そう。結局俺と彼女では住む世界が違うのだから。
今も昔も彼女は人気者の高嶺の華。俺とは何もかも違う。
だからこそ、最近のこの日常も、所詮はそういうこと。実際、あの時もずっとあの笑顔を俺に...。
いや、俺の想い出補正も入っているか。それが勘違いだったせいでああなったのだから。
「...」
まあ、あの時はもうあの出来事以降、話すこともなかったし、卒業して二度と死ぬまで会うこともないと思っていたけれど。今は何の因果が隣に住んでいて...いや、住んでいるだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
とりあえず、俺はもう傷つきたくないし、傷つくつもりもない。
本当にどうでもいい。そんなわけもない。
どうせ、あの時に彼女が最後に俺に見せたあの表情も全部嘘だから...どうでもいいし、多分それも俺の勘違い。
本当にどうでもいい。
まあ、こんな通知が来たから、色々といつも以上にしょうものないことを考えてしまったが、別にそれこそ、どうでもいいことだ。
それに彼女のこと。いつの間にか、誰かいい人と結婚とかをして隣からいなくなることも目に見えている。
で、また俺のことなんかすぐに忘れる。
まあ、だから別に本当に何でもいい。
何か本当にさっきから意味のないことを俺はブツブツと考えてしまっているが、もう今日は風呂に入って寝る。
疲れた。
って、そんなことを考えているとまた彼女、西野美桜から俺のスマホにはlineが入る。
『ねぇ明日も暇だったりする?』
「...」
とりあえず、そのlineの返事だけ返して俺は風呂に向かった。