独身男の自宅のベッド
えーっと、頭が整理できない。本当に整理できない。
朝、自宅のベッドの上で目が覚めたら、何故か隣には会社の後輩、佐倉加恋がいた...。
真剣に腰が抜けそうになった。人生で一番の驚きだったかもしれない。なんせ、昨日の記憶が途中からないのだから...。
幸いなことに俺も彼女も昨日の私服のままだったから、変な間違いは起こしてはいない...はず。と言うか絶対に起こしてはいないのだが、一番ゾッとしたのが、隣にいる彼女の目が覚めた時に、俺が無理やり連れ込んだとか勘違いされて警察沙汰になること。例えそこまではならないとしても、ものすごいわだかまりができること。
そして実際、隣で目が覚めた彼女は当たり前だが、ものすごく驚いた表情をしていた...。
正直、もう駄目かも...と思った自分もいたのだが、一応、勘違いはしないでいただけた...はず。
「はい。では、いただきましょうか」
「お、おう...」
しないでいただけたのだが、何だろう。佐倉、適応力ありすぎないか。
今、俺の目の前の机には、味噌汁。ごはん。だし巻き卵...。
全て、佐倉がさっき俺の冷蔵庫にある物で作ってくれたもの...。ちょうど机を挟んで一緒に今まさに朝食をとろうと、二人でいただきますをしたところだ。
「ふふ、どうですか?」
「お、美味しい...」
普通に美味しい...。お世辞抜きで。料理までそつなくこなせるのか...。
でも、本当に何だろう。あまりにも予想外の出来事すぎて、焦りに焦って会社には無理言って有給をもらったのだが、まさかの彼女は元々有給...。
そして、さっき、俺の家のシャワーを浴びた目の前の彼女は今、俺のグレーの寝巻を着ている...。そう。俺のパジャマを着てこっちに微笑んで...。
やばいな。これ。破壊力が...。
もちろん、俺が着せたわけではない。彼女がどうしてもシャワーを浴びたいって言うから、仕方なく風呂場を貸したら、あれよあれよとパジャマまで...。
「ふふ、でも本当に驚いちゃいました。目が覚めたらまさか斎藤さんの自宅のベッドに私がいるなんて」
「い、いや、俺の方が驚いたから。本当に俺が連れ込んだとか、そういうわけではないから。絶対にない...はず」
本当にない...はず。
そして、何故出ない。俺からの鬼lineや鬼着信はなぜずっと村田の野郎に繋がらない。あいつ、寝てんのか? いや、そんなはずはない。
時間的に、今の時間は普段ちょうど俺が会社に行くのに家を出るぐらいの時間だ。絶対に起きていないわけがない。
色々あいつには聞かなければならないし、鍵だって、まだ返してもらってないぞ。あいつマジで...。
幸い、彼女が理解のある人間で、今もずっと笑ってくれているからいいものの、場合によっては真剣に...
「いえいえ、大丈夫です。斎藤さんがそんなことする人ではないのは知ってますから。フフッ、でも、まあちょっと残念かもですけどね」
「え?」
残念...。
”ピンポーン”
って、何だ。こんな朝早くにインターホン?
いや、マジで誰だ....って
村田? そうか村田か。仕事前に俺の家に寄って。
そうだよな。さすがにこのまま放置なんてわけないよな。
「村田の気がする。ちょっと出るわ」
「あ、大丈夫です。村田なら私が出ます。ふふ、あいつにはちょっと色々と言ってやりますから。斎藤さんは、そのまま食べていてください」
「え、あ、おう。ありがとう」
まあ、村田なら一旦は佐倉に任せても大丈夫か。
とりあえず、あいつには俺も言わないと行けないことがあるから佐倉が話を終えた後は俺もな。この際だから遅刻させてやろうか...。
って、そんなことを考えていたら今さらスマホには村田からの折り返しの着信。
「おう村田。今開ける」
佐倉がな。今もう彼女は玄関の前でドアノブを握っている。
残念だが、お前にもう逃げ場はない。
『え? 何がですか?』
「いや、お前、いま俺の家の前にいるだろ?」
『へ? いや、今もう会社行かなきゃならないんで駅にいますけど』
「は?」
え?




