独身男と後輩くんと後輩ちゃん
普通に美味しい。
これが和食屋チェーン店と日本料理専門店の違いか...。
さっきまで、俺の目の前には見た目が洗練された創作料理が数々と出され、ちょうど今から締めの汁物が出てくるといったところ。
これでコース7,000円であれば、決して安い値段ではないが、感覚が麻痺して普通に安いと思ってしまう。
「ふふ、斎藤さん、まさかとは思いますけど、その駐禁代、斎藤さんが払ったりなんてしてませんよね」
「ああ、さすがにそれはな」
そして、もうかれこれ開始して2時間程になるが、同じ座敷には俺と村田、佐倉の3人。隣には佐倉、目の前には村田がいる光景。
「良かった。斎藤さん、ここも絶対に私が払いますから。わかってますね」
「わかった、わかった」
まあ、後で隙を見てさすがに俺が払うつもりではあるが、何だろうか。今思ったが、地味に佐倉の私服姿を見るのは初めてかもしれない...。
そして、何だろう。そんな目の前の彼女を素直に可愛いと思ってしまう自分が今ここにいる...。
でも、昨日は色々とあったが、今そこにいるのはいつもどおりの佐倉で安心した。
いや、厳密に言えば、いつもどおりではないか...。
何か、今日の佐倉、いつもより酒に酔っている?
そして俺の方も、今日は普段飲まないような日本酒をこの店の雰囲気に流されて飲んで酔ってしまっているからだろうか、さっきから色々と変なことを頻繁に考えてしまう自分がいる?
村田には飲みすぎだと止められたが、全然飲みやすいし、苦手意識のあった日本酒が今日初めて美味しいと感じたこともあって調子に乗っていたら、後から酔いが一気にきた...。
もしかして、俺に付き合って佐倉にも無理に酒を飲ませてしまったか? で、あれば本当に申し訳ない...と思うと共に
何だ。
今日の佐倉。いつにもまして酔っていることもあるからだろうか、何か色々とやっぱり...
特に、今日は普段よりもやはりその声が本当に甘ったるいというか。庇護欲をそそってくると言うか、彼女に「斎藤さん、斎藤さん」とその声で耳元で名前を呼ばれるたびに、ドキっとしてしまう気持ちの悪い自分がい...る?
かと思えば、これも酒のせいなのだろうか、笑う時はいつもよりも無邪気な笑顔と言うか、いつもと違って少女のようにクスクスと微笑む彼女に可愛いと思ってしまう自分もいる?
何だろう。ほんと普通に可愛い...。
そのさっきから時たま、駐禁代のこともそうだが、彼女らしくなく酔って言ったことを忘れて、また何度も同じことを繰り返し言ってしまうところもギャップと言うか何と言うか...
本当に何だろう。出逢った時は虎のように思えた佐倉が、今はもう猫みたいに思えてしまう。
あぁ、抱きしめたく...
って、いや、やばいな...。とりあえず俺めちゃくちゃ酔ってんな...。さっきから何考えてんだ。本当に。
ちょっとやばい。マジで飲みすぎて思考がまとまらないと言うか、何と言うか...。
しかも、やばいのが、このまま普通にここで寝てしまいそう...。
と言うか、隣にいる佐倉もこれでもかと目がトロンとしてもう半分寝て....
とりあえず、これはもう完全にお開きだな。
幸いにも、当たり前だが運転手の村田は全く飲んでないから、帰りの心配はないから大丈夫か...。
「おい、村田...」
「もしもの為に、鍵渡しとく...。もし、俺はやばかったら適当に俺の家の鍵開けてベッドに転がしておいてくれ。あとこれ、金」
「ありがとうございます。わかりました」
あぁ、やばい。眠すぎる。
「で、佐倉、大丈夫そうか。鍵は...さすがにこいつに渡したくはないわな」
「はい、らいじょぶれす。自分で開けれます」
「じゃあ、村田。佐倉も無事に送り届けろよ。で、絶対に変なことはするんじゃねぇぞ。とりあえず俺よりも先に彼女を安全に送り届けろ...。指一本触れたらセクハラで懲戒だからな...」
「わかってますよ。そんな死に急ぐようなことはしませんよ」
ん? 死に急ぐ? まあ、何でもいいや...
「とりあえず、じゃあお会計で」
そして、佐倉と共に乗り込んだ村田の車の中で俺は耐えきれずにすぐに眠りに落ちた...。
そして、それは佐倉も同様に....
そして、自宅で目が覚めた時には何故か...




