独身男と後輩くん
「お疲れ様です。斎藤さん、今日は本当にありがとうございます」
「おお、村田。来たか...」
とりあえず、自宅の玄関の扉を開けた先には、見慣れた顔の男。私服姿の村田理の姿。気のせいかもしれないが、ものすごく安堵感のある表情をして立っている。
「じゃあ、さっそくですが車下に置いてますんで。行きましょうか」
「オッケー。ちなみにお前の分の金はもちろん今日は出さんからな...」
「もちろんです。ほんと来てくれるだけで十分なんで」
まぁ、結局出してはやるけど、何だ。今日の村田、いつにもまして子分感が凄い...。俺に対してまで低姿勢すぎる。言っては悪いが逆に気持ちが悪い。
「え、雄大くん!この子が例の後輩くん?」
「え、斎藤さん、だ、誰ですかこの人」
そして、いきなり隣から声がしたかと思えば、そう。玄関に立つ俺の隣には、気がつけばさっきまでソファに一緒に座っていた西野も立っている光景。
今、俺の家の玄関先には村田、俺、そして彼女の3人。
でも、良かったな。西野。こいつに会えて...。
「え? さ、斎藤さんのお姉さんですか?」
「違ぇよ。何でだよ...」
違うし、何で俺が弟だ...。
「え? ってことは、も、もしかして、斎藤さんの、か、かの...」
「違ぇよ。もっとないだろ」
あるわけないだろ。あるわけ...
「ふふ、初めまして。雄大くんと兼ねてからお付き合いをしております。西野美桜です!」
「おい...」
で、お前はお前で何だよ。またニヤニヤとその嘘は...。
「変な嘘つくな...」
「えー、何で。ふふ、今日もお店でカップルどころか夫婦に間違えられたばっかりじゃん」
「おい、村田。わかってると思うけど嘘だぞ」
「嘘じゃないじゃん。朝に一緒にスーツ買いに言った時に店員さんに言われたじゃんー」
「いや、彼女ではないぞってこと。わかるな。村田」
「もー、照れちゃって」
「いや、照れてねぇよ」
そして、また俺の肩をバシバシと楽しそうに笑いながら優しく叩いてくる彼女。
まあ、相手が俺だ。村田もさすがに冗談だとはわかるだろうけども。何だそのポカンとした顔。
「え、でも、ここ斎藤さんの家...何で、え?」
「あぁ、彼女はこの家の隣に住んでるから」
「え? 隣に住んでたらそうなるんですか、え?」
「あー、違う違う、西野がお前にどうしても会ってみたいっていうから仕方なく俺の家にいたんだよ」
「え、ぼ、僕に」
これは嘘偽りなく本当の話。
「ふふ、いつも雄大くんから後輩くんの話を聞いてちょっと会ってみたいなーって思いまして。村田くんだっけ。何か可愛い」
「え、あ、ありがとうございます...」
そして、何わかりやすく顔赤くなってんだ。村田...。
まあ、一応ここでずっと話しているのもあれだし、彼女ももうこいつが見れて満足しただろう。
「じゃあ、とりあえず行くか。村田」
「あ、はい」
「で、佐倉は現地集合か?」
「いや、この後に迎えに行って一緒に乗せます」
「あー、そういう系か。オッケー」
まあ、場所も既に予約済だし、問題はない。
「じゃあ、雄大君。私も戻るね」
「あいよ」
そして、そんな会話をしながら俺はもう自宅の扉をガチャガチャと閉める。
「じゃあ、斎藤さん行きましょう」
「オッケー」
「では、西野さん、失礼します」
「うん。また来てねー」
「いや、俺ん家だから。勝手に呼ぶな」
「ハハ、はいはい。じゃあ、とりあえず男3人で楽しんできてね」
ん? 男3人?
いや、違うが、まあ別に訂正する意味もないし、普通にどっちでもいいこと。そのまま放っておく俺。
とりえあず、彼女が笑顔でこっちに向かって小さく手をふっている。
でも、そう言えばさっき...
あいつが来る前に西野が俺に言おうとしていた言葉...
「...」
にしても、俺と二人になって廊下を歩いている今も本当に何だ。村田、お前の顔。
「斎藤さん、マジであの美女とどういう関係っすか」
「いや、ただの隣人だけど。本当にただの。もちろんそれ以上でもそれ以下でもない」
「え? ただの? え?」
そうただの...
って、何だ。あれ。
ここから下を見ると、道路に停められている一台の車が警察に何かを貼られている。いや、駐禁...。
「おい、村田...。まさかとは思うが、あれ、お前の車じゃあないよな...」
「え、何ですかって、あ、ああ...あれ...あああああ」
あぁ...。




