迎えを待つ独身男
あー、まだ時間あるな。
そう。一応、今日の晩ご飯は、場所と時間はもう決まって、村田が18時頃にここまで俺を車で迎えにくることになった。
そして、俺はと言うと、さっきまでブラブラと太陽の下を散歩して、気持ちよくたった今ちょうど自宅に戻ってきたところ。
でも、あと1時間ぐらいはあいつが迎えに来るまでに時間があるし、とりあえずはネットでドラマの見逃し配信でも見ながらぼーっと待とうかとは思う。
そんなことを考えながら、実際に自宅のソファに横になって、スマホをポチポチと弄る俺。
”ピンポーン”
って、インターホン?
ん? 何か俺、注文していたか? いや、記憶にない。
「おーい。雄大くーん」
って、この声は。西野か...。
一体なんだ。とりあえず俺はゆっくりと玄関まで行って扉を開く。
「ふふっ、じゃーん、これ見て」
そして、そこには黒毛和牛と書かれた薄い木箱を持って嬉しそうに微笑んでいる隣人、西野美桜の姿。
「え、何それ」
「さっきお祖母ちゃん家に行ったらくれた。隣の子と食べなさいだって」
え...。西野のお祖母ちゃんが? いや、でも...。
「いや、さすがに悪いし、俺はちょっと」
「えー、何で。量多いし、肉。嫌いじゃないでしょ?」
「まあ、嫌いじゃないけど」
「ふふ、じゃあさ。どう? 今晩私の家で一緒にすき焼きとか?」
今晩...。西野ん家で...。
「いや、悪い。今日はちょっと先約があって」
「え、そうなんだ。珍しいね。友達? まあ、このお肉はまだいけるから大丈夫だけど」
「いや、後輩と飯にな」
「え? もしかしてあの後輩くん!」
「あぁ、多分その後輩くんだ」
おそらく、あいつのことを言っているのだろうう。
「そうなんだ! え? 何時から」
「えーっと、あと1時間後ぐらいに迎えにくるはず」
「え? ほんと! ふふっ、見たい!」
「え? 何を」
「後輩くん! 面白そうだから、一回見てみたい。ねぇお願い!」
いや、別にそんな。あいつを見たからって何も...。
でも、そうか。確かに俺、結構あいつの話題を西野に喋ったりしてたな...。
「いや、見たら不幸になるぞ」
「ふふっ、何それ。ますます見てみたくなっちゃったんだけど。ねぇ駄目?」
「いや、まぁ、見る分には勝手に見てくれればいいけども」
本当にそんな期待するような奴でもないぞ。マジで。
「ふふ、じゃあ、上がっていい? 邪魔にならないように雄大くん家の漫画を静かに読んで待ってるから」
「え、いや...」
「ほら、いちいち呼びに来てもらうのも悪いし、雄大くん家の漫画面白いのばっかだからちょうど読みたいものもあるの。ね、どうせ1時間ぐらいだし、お願い。後輩くん見たい!」
いや、何故そうなる。まあ、いちいちあいつが来て彼女を隣まで呼びに行くのは確かに面倒くさいけれども。それに、今思えば確かに前もちょっと読んでたな。意外にも好きなのだろうか、漫画。
まあ、もう何でもいいか。1時間程度だしな...。
「わかったけど...、本当に多分見てもがっかりするだけだぞ」
「やったー!ありがと。あ、このお肉は一旦冷蔵庫に入れておいていいかな?」
「え、ああ。まあ」
まあ、帰りに持って帰ってくれるだろうから別に問題はない。
とりあえず、もう俺の自宅には西野美桜がいる光景だ。
にしても、そんな笑顔でワクワクとした顔をされても、本当に出てくるのは村田だぞ...。
別に、普段俺がたまに彼女に話すあいつの話ではそんなにいい男だとも思わないはずなのだが...。
でも、何だろう。今思えばさっき...
あの肉、お祖母ちゃんに隣の子と一緒に食べなさいって言われてもらったって西野は言っていたけども...。
と言うことは、西野も何か俺の話題を彼女のお祖母ちゃんに...。
一体どんな...
いや、まあ、別にしょうものないことだろうけどな。
そう。俺の話をしていたとしても、きっとしょうものないことだ...。
「...」
とりあえず、まあ、あと1時間か。