独身男は...②
危なかった。何故、あそこに後輩の村田が現れたのかは謎すぎるが、おかげで変なことにならずに済んだ...。
俺と目があった村田はものすごい形相で、まるで金縛りにあったかの如くその場に立ちすくんで震えていたが、それも一体どういう意味だ。
ただ、変なことという言い方もあれだが、やはりあのまま彼女、佐倉の自宅に俺が入ってしまうのはなんと言うか...。
正直、彼女のマンションを出た今も、俺の心臓はまだ...。
あのままもし、彼女の出す雰囲気に流されていたら...。
そう。それが正解かどうかは置いておいて、佐倉のあの俺に対するあの場での雰囲気に何かを無意識に感じとってしまっている自分があそこには...確かにいた。
結局、名目上は村田と彼女が俺のことを二人でからかおうとした体にして、彼女の部屋には入らずにあの場をすぐに切り抜けはしたが、実際にそう本当に俺が思っているのかと言われれば正直何とも言えない。
もし、本当にそうだったとしても、そうであれば3人で仲良く飯を食えばよかっただけ。
彼女に対して勘違いをするつもりなんてさらさらない。
さらさらないが、あの場面で何だかんだと理由をつけてあの場をすぐに離れたということは...逆に言えば俺は彼女に...。
駄目だ。
また、頭がまとまらない。
さっきの行動が正解かと言われれば、正解とは言えないとは思う。思うがどうしても...
本当に俺は何でこんなに面倒くさい人間になって....
とりあえず、一緒に帰ろうと思いマンションの前で静かに村田が出てくるのをさっき待っているが、一向に降りてくる気配はない。
そしてスマホには佐倉からのline。
『違います。村田が勝手にしたことで、そんなつもりは本当になかったんです。本当なんです』
俺も大人ではある。だから、さすがに今の俺はこれを無視なんてしない。それにおそらく彼女は嘘をついてはいない...はず。
『悪い。まあ、あの場ではああ言ったけど、ちょっと用事を思い出して、また改めて今度ご飯でも行こう』
そして、俺は逆にそうあからさまな嘘をつく。おそらく相手も嘘だと間違いなく気づくだろうが、別にそれで...いい。
元々、ありえないことなのだから、なかったことにすればいい...。
あんな、美人で可愛い子が俺なんかにそんわけはないのだから...。そんなわけは...。
本当に駄目だ。さっきから佐倉のことが頭から離れない。
そして、やはり村田は出てこない。大丈夫だろうか、村田。
まあ、もう行くか。これ以上あいつを待っていても埒があかない。
まあ、万が一、いや、億が一、彼女が俺を家に連れてきた理由がそうだったと仮定しても、もうどちらにせよ...という話。
真っ暗な夜のもと、冷たい風がまた吹いてきたにも関わらず、身体の熱がまだ引いてくれない。
本当に俺は、糞みたいな人間だと...思う。
そんなことを色々と考えたのちに、とりあえず静かにその場を離れて駅に向かって歩き出す俺。
もし、あの時そのまま彼女の自宅に俺が入っていたら...もしかしたら俺は彼女と...なんて、もう考えても何の意味もない話。
駄目だ。そんなことを改めて考えている自分はダサすぎる。もう終わり。
何もなかったし、彼女と俺の間に何も起こる予定だってなかったのに、俺が変に物事を考えすぎて、帰るという童貞まるだしの気持ち悪い行動をとった。
それ以上でもそれ以下でもない。
もう、それが全て。
とりあえず、それで終わりだ。
そう。終わりだ。
って、lineか...。
そうだ。こっちは完全に無視していた。そうだよな。彼女からのわけがない。
そう。今俺のスマホに送られてきたのは...。
また、本城明里からのlineだ。
「...」
でも、さっきエレベーターの扉が閉まる時に、ものすごく大きくて渇いた音と、男の悲鳴が聞こえてきた気がするのだが...
気のせいだよな...。
まあ、もう村田とも付き合いが長い。正直あそこにあいつがいた理由も、面白がって俺のことをつけてきたとは正直、何となく察しはついてもいるが、本当にバカだよな...。
村田...。 も俺も。
一応、言っておきますが佐倉様は全然退場はしません。




