昼休みの独身男
あー、もう帰りたい。とは言えまだ昼の12時。帰れるわけがない。
とりあえず、今日の晩飯は隣町の新しく開店したばかりの回転寿司になりそうだし、昼飯は何にしようか。などとぼんやりと考える。
幸い、今日は金曜日でノー残業デーだ。残業は2時間ぐらいにして19時ぐらいには帰れそうではあるのだが、あいつは一人で未だに回転寿司も行けないときた...。回転寿司なんてボッチ飯の初歩の初歩。入門編みたいなものだろうに。これだから陽キャ育ちの温室は...。
まあ、場所は隣町とは言え、家からそれなりに近いところ。俺もちょうど興味はあった場所だから別に問題はないのだが、あいつはやはり俺のことをレンタル何もしない人だとでも思っているのだろうか。
まあ、実際に何もしない人ではあるのだが、この前は焼肉、その前の週はラーメン。さらにその前の週の金曜の夜は中華だったか。
意外にもチェーン店ばかりで、かつ、お金も意地でも割り勘で良いって言ってくるから全然金銭的にも問題はないのだが、あれか?
俺はそんなに金がないと思われているのだろうか? 自分で言うのも何だが俺もそこそこはもらっているはずだ。そこそこは。
いや、実際はただ何も予定がないであろう暇人と思われているだけなのかもしれないが、最近は本当に金曜日の度にあの女に飯に付き合わされている気がして仕方がない。
とにもかくにもだ、実際はただ隣人であることをいいことに、女一人では食べに行きにくい場所に俺は都合よく彼女に使われているだけなのだろう。
まあ、それはそうだ。彼女みたいな女性は絶対に本命とはちゃんとした高そうなところに食べに行くだろうし、連れていかれることだろう。所詮、家族向けのファミリーチェーンにばかりにしか誘われない俺なんてそんなもんだ。
本当に俺もつくづく甘いと言うか、お人よしな男だと自分で思う。そんなのだから昔騙されたのだと言うのに、今はその女に騙されてはいないとは言え、また都合よく使われたりしている。
そう。いくらいつも彼女が楽しそうにしているからと言って、俺がその光景に騙されることは絶対にない。絶対に...。
所詮、彼女は友達ですらない、ただの隣人...。
そんなことを考えながら、とりあえず会社から出て昼飯をコンビニに買いに歩いていると、西野からのlineが俺のスマホにまた届く。
『今日って申し訳ないけど車出せたりするかな?』
『雨降るかもだから、初めからそのつもりだけど』
『ありがとー!超楽しみー!午後も頑張ろうね!お寿司!お寿司!』
超楽しみって、ただの回転寿司だろ。絶対もっと高い寿司とか色々行ったりしているくせに、俺が車を出すからって随分と調子がいいことを...。
まあ、これもいつものことだから別に何でもいい。それにしても何だこのスタンプ。寿司から手が生えている。
でもとりあえず、今日はおそらくかなり混んでいることだろう。週末の回転寿司とか絶対に子供とかも多いはずだし、時間通りに間に合うかはわからないけれど、一応はネット予約はしておこうとは思う。
って、ぽつりぽつりと。
天気予報どおり、本当に雨が降ってきた。
急ごう。コンビニに。