気分がいい夕方の独身男
今日はあと1時間で仕事が終わる。でも、何だろう。
機嫌がいいのだろうか、正直よくはわからないが課長から今日はもう定時で帰っていいと言われた...。
やっぱり昼の銀行の件も関係しているのだろうか。
まあ、早く帰れるのに越したことはないから、嬉しいのは嬉しいのだが、今日は佐倉とのご飯の予定があるから結局家には帰れない。
一応、場所はまだ聞けていないが会社から電車に乗って直接向かうみたいだ。車も出すとは言ったのだが、電車でいいとのこと。
とりあえず一緒に向かう形にはなるが、一体どこに食べにいくのだろうか...。
金、足りるよな...。
まあ、今になって昼の件での達成感というか、そういう感じの気持ちがじわじわと湧いてきたのと、何と言っても明日が祝日であることもあって、俺もいつもより機嫌がいい。
「すみません、課長。ちょっと腹痛が我慢できないレベルで...。そ、早退をさせてもらってもいいでしょうか」
「お、おお大丈夫...か? わかった。やばかったら病院行けよ。てか、本当に大丈夫か?」
「はい...何とか」
ん? そして、いつもの様にブラックコーヒーを飲みながら、自席のデスクでパソコンのキーボードをひたすらカタカタとしている俺の目には一人の男。
「お、おい。大丈夫か。村田」
「はい。大丈夫です、斎藤さん。すみませんがお先に失礼させてもらいます」
「お、おう」
え? 本当に大丈夫か。村田。
今も目の前では村田らしくない形相でお腹の辺りを強く抑えている村田。
何と言うか、拳銃で腹を撃たれた奴みたいな形相? それぐらいすごい。
一体どうした。本当に大丈夫か、こいつ。
え? でも、ついさっき。ものの数分前にトイレで会ったときはこれでもかとスッキリした顔をしてたよな。ちょうど村田が大の方から出てくる時に遭遇したが、それはもうスッキリとした顔で笑っていた。
それが何だ。本当に撃たれた? まあ、そんなわけはないんだけれども、変化があまりにも急すぎてそれが逆に恐い。マジでどうした。
と言うか、その状況で帰れるのか...?
って、あれ? もういない。え? どこ行った?
え? アイツの机の上には確かにもう荷物もない。パソコンの電源もしっかりと切られている様。
と言うことは...帰ったのか。そ、そうか。まあ、帰れたならばいいんだが、ん?
まあ、いいか。別に。
とりあえず、定時であがれる以上は俺もあと1時間、集中しないと駄目だ。
一応、スマホの天気予報や外を見る限りでも、もう雨は降りそうにないし、飯も問題はなさそう。
それにしても、明日は祝日か...最高だな。で、1日出勤してまた休日。本当に最高。
明日はちょっとスーツでも見に行こうかと実際に思ったりもする。お金は嵩むのかもしれないが、オーダーメイドも悪くないのかもしれない。
いや、でもそう言えば確か明日は朝に西野と...
「斎藤さん。斎藤さん!予定通り終われそうですか」
「え、ああ。大丈夫そう。佐倉もいけそうか?」
「はい。もちろんです。ふふっ、じゃあ今日はよろしくお願いしますね」
「おう」
とりあえず、まあ、今日はせっかくだし楽しむか。何だかんだで佐倉の選ぶ店なら飯も美味そうだしな。
でも、ほんと...大丈夫かな。
村田。