後輩の村田という男
すごいな。斎藤さん。まさかの振り込め詐欺阻止か。くそっ、僕も昼休み銀行に行っておくべきだった。雨が降ってきたから止めたけど、ちょうど僕も行こうか迷っていた。本当に何であそこで雨が降ってきた。そして何で僕は雨ぐらいで行くのを止めてしまった。
あそこで銀行に向かっていたら、もしかしたら僕が...。
くっそ、これが宝くじの一等1桁違い、万馬券わずかに届かずの気分か。本当にむしゃくしゃする。
何で今日の昼飯に限ってカツ丼、それも大盛にしてしまったんだ。
美味しかったけど、おかげで食べ終わるのに時間がかかってしまった。
真剣に色々と後悔しかない。
だって詐欺を防いだってネット記事とかに顔が載ったら確実にモテる。しかも警察から感謝状だろ。たまにニュースで流れたりもしているやつ。
ずるい。あまりにもずるすぎる。ちょっと明日の昼休みからは入念に銀行の巡回も視野に入れるか。
「さすがです。ふふっ、ヒーローじゃないですかー。斎藤さん!」
今も何だ。また佐倉のやつ...。
斎藤さんにその可愛い雌の表情でデレデレと。仕事中だぞ。
「今夜はその話も色々と聞かせてくださいね」
それも公共の面前で、さっきからそんな甘えた猫の様な声をずっと出しやがって...。
こっちはそのトーン高めの甘えた声に何かムラムラして仕事に集中できない。まさに営業妨害。
普段、割とツンツンしている分、わかりやすすぎるし、絶対にわざとやっている。
その斎藤さんにさっきから向けている、自然な上目遣いで楽しそうに微笑む女の表情、ちょっとでいいから僕にも分けてもらいたい...。本当に。
「あ、また珈琲いれましょうか? それと、このお菓子、すごく美味しいんで食べてみてください」
ほんと同期の奴らにも見せてあげたい。この光景。普段お前が俺たち同期に見せている威厳やカリスマ感を一気に崩壊させてあげてもいいんだぞ。
まあ、見せたら見せたで逆にさらなるファンが増えそうだから見せないけれども。
「もー、何でですかー。ふふっ、そんなわけないじゃないですかー」
今も何をニコニコと髪を指でくるくるとしながら斎藤さんと話をしている。普段俺たちの前ではそんな仕草絶対にしないというのに。
最近着てくるスーツだってそう。彼女は元々もっとピシっとしたスーツをピシっとした着こなしで決めてくる女性だっただろうに。
それが何だそのアイドルあがりの女子アナが着る様な、女性らしい身体のラインが際立つタイプの可愛らしいスーツは...。
それも、もう寒くなってきているのに、控えめではあるのかもしれないが綺麗な生脚をそんなにさらけだして。
何かその控えめな感じが逆にエロくてこっちは仕事に集中できない。ほんと、色んな意味で色んなところがイライラする。
で、挙句の果てには今晩二人で一緒にご飯? そしてあんなに頑張って場をセッティングしようとした僕には何の褒美もなし?
まあ、実際、僕が場をセッティングはできなかったのだが...。頑張ったのは頑張った。そこは評価してほしい。
そして、ずっと話に聞き耳を立てていた限り、今日夜に二人でご飯に行くことはもう確定だろう。
いや、それってもう...。明日は祝日だし...。
澄ましていても斎藤さんも男。
そして男は誰もが心に獣を飼っている生きもの。
そして佐倉はあんなに可愛い見た目をしていても、やる時は徹底的にやる女。
もしその佐倉がさらに本気を出したなら、普通の男なら確実に獣を心から放ってしまうことは間違いない。絶対に。
それはいくら斎藤さんが鈍感だったとしても、確実に。
そして場所は...内緒か。
ちょっとこれは...
尾行だな。




