独身男の夜の自宅
時刻は夜の20時00分。
「どう? ふふ、上手にできてる?」
「まぁ...美味い」
「やった」
今、俺の自宅には一人の美女...。
自宅には、見慣れたちゃぶ台式のテーブルを挟んで俺とその部屋着の美女が食事をしている光景が広がっている。
いや、別に、仕方がなかっただけだ...。
今もこちらに笑顔を向けて話かけてくる隣人...西野美桜が、俺の自宅にいるこの現状は回避しようのなかった仕方のないことなのだ...。
「へぇー、色々とお洒落。ふふ、ポイントアップ」
「何のだよ...」
「さあ、何のでしょう」
そう。今も目の前にある雑炊というか、七草粥? とにかく、何故かはわからないが俺の怪我を労わって飯を作ってもってきてくれた以上、あがりたいと言われて彼女を断る理由もなかっただけ。
こうなることなんて全く予想なんてしていなかった。全く...。
「でも、雄大くん。部屋ちゃんと綺麗にしてんじゃん。ふふ、もしかして普段から可愛い女の子とか家に連れてきたりしてるんじゃないの?」
「なわけないだろ...。姉ちゃん以外来たことねぇわ...」
「ふふ、そっか、そっか」
そう。別に部屋だってさっきたまたま片付けただけだ。たまたま偶然片づけた後に彼女が来ただけ。別に意味はない。本当に。
彼女がさっきから、ちびちびと口に含んでいる梅酒に関しても、たまたま自分が飲みたくて買っていただけ。ただそれだけだ。
でも、意外にも酒に弱いのか、今も目の前には頬を赤くやんわりと染めた西野の姿。
いや、でもそんなにアルコールは強くないと思うのだが...。
もしかして、今思えば、そもそも彼女はお風呂にでも入ってからここに来たとか...。例えば、無防備でラフな部屋着であることもそうだが、髪に艶というか、全体的に火照っている感じがして何か...。
いや、気のせいだ。と言うか、だったとしても何だという話。
「雄大くんって、料理で言えば何が一番好きなの?」
「特に一番ってのはないかな...」
「えー、強いて言えば?」
「まぁ...一周まわって今はカレーかな」
「ふふ、一周って。そっかー。ふふ、カレーね」
そして何だ。その質問は...。
「...」
いや、別にそれで今度はカレーを作ってくれるのか?なんて想像を俺は一瞬たりともしていない。するわけがない。
もし、そうなったらそんなの最早...。いや、だからしてない。そんなバカな想像。するわけがない。
駄目だ。ちょっと色々と俺はまたおかしくなっているのかもしれない。
そもそも、俺の部屋に女性がいること自体がおかしいのだ。
一体、何を言っていると思われるのかもしれないが、彼女がここにいるだけで、まるで俺の部屋が俺の部屋ではない全く別の場所に感じられると言うか何というか...。
というか、本当にこの状況は何だ。今まで生きてきて女友達すらいないに等しかった俺が、部屋着を着た美女と自宅でご飯って...。
というか、本当にさっきから俺は何を考えている。バカか。
「あ、そうだ。雄大くん、ここ知ってる?」
そして、そんな意味のわからないことを色々考えていると、目の前に座っていた彼女が今度はそう言って、いつの間にか俺の隣に移動してスマホを見せてくる...
「友達で一緒に行ってくれる人いなくてさー、今度一緒にとかどう?ちょっと遠いから電車とかで。駄目?ほら、例えばこの日とか」
「えーっと」
近い。あと何で急にそんな真顔に...
「ふふ、別に今答えなくてもいいから、考えておいてよ」
「え、あ...ああ」
そして、何故か首をそう縦に振っている俺...。
いや、マジで意味が分からない。よくよく考えると、いや、よくよく考えなくても本当に何だこの状況は...。
隣人とならこうやって自分の部屋でご飯を食べるのは普通なのか?いや、別に彼女がそういうつもりでないことはもちろんわかっている。と言うか、もちろん。俺もそういうつもりではない。もちろん...違う。そんな勘違いはしない。
というか、本当に俺は何を考えている。
「あ、もう食べてくれたの? ふふ、何か嬉しい。おかわりいる?」
そして、それはもう肩が触れ合うぐらいのすぐ隣には尚も笑顔で俺にそう話しかけてくる彼女。
「え、ああ、ありがとう」
「じゃあ、ちょっと待っててね。持ってくる」
マジで何だ。これ...。
あとさっき、提案された日って、確か...。
同窓会の...。
と言うか、今日のこれ、終わりはどうやって...。
「...」
いや、本当にどう...