独身男の穏やかな午前中
よし、昨日の件を盾に今日こそ早退をゲットしてやった。
実際に病院に行くかどうかは置いておいて、今日は計画通り午後には退勤が可能に。さすがに課長も首を縦に振りやがった。
朝の外せなかった用も無事に終わったし、後は昼が来るのを軽く待つだけ。本当に昨日と比べると平和な一日。午後からどうするか。
今日は昨日と違って窓の外も天気がいい。まさに快晴だ。
と言っても、ぼーっとするだけなのだけどな。まあ、そのぼーっとするために早退するのだから普通に意味のある早退。
ほんと昨日は散々だっただろうが、佐倉も今頃は名古屋を何だかんだで直帰前に満喫しているのではないだろうか。まあ、どうでもいいけれど。
あと、そう言えば思い出したが、朝のあれは本当なのだろうか。まあ、あの感じは本当なのだろう...。
雑炊...。持ってくる...。
まあ...そう。今さら断るのは逆にめんどくさいし、持ってきてくれるだけなことはわかっている。よくある彼女の気まぐれなだけであって、俺でなくても彼女はそういうことをする女性...なはずだ。
とりあえず特に意味はないが、色々と掃除はしておかないと駄目な気が...する。もちろん、彼女が家に入るかもしれないからとか、そういうわけではなく、人が家に来るかもしれない場合のマナーとして。そう。マナーとして。
「すみません、斎藤さん」
「ん? どうした村田」
仕事中なのに他のことをボーっと考えながらパソコンのキーボードを叩いていると、いきなり隣には同じ課の後輩である村田。
「今日の夜って空いてたりしますか?」
「空いてない」
音を抜き去る速さで俺はそう即答する。今日こそは家に帰る。週末ならまだしも、特にこんな週の真ん中頃にこいつの方から誘ってくるなんて、普通にやっかいごとの予感しかしない。絶対に空いていない。
とは言いつつも、一応、理由だけは聞いておく
「何かあんのか?」
「いや、ちょっと理由は特にないんですけど、まあ飯でもどうですか?」
「無し。それに今日俺、早退するし。また今度な」
特に理由はないのに、こいつが誘ってくる。あまりにも不気味すぎる。せめて奢れとかそういうことならまだわかるが、今日は見ている限りそういう感じでもない。改めて普通に無し。それに何だそのわざとらしい笑顔は。
「いやいやいや、どうせ何もないじゃないですか。斎藤さん」
「殺すぞ...。ないけど」
「じゃあ、お願いします。決定ですね」
「いや、よく考えればあったわ...」
「何ですか?」
「飯、昔の知り合いと」
あくまで、あくまで持ってくるだけだろうが、嘘ではない。予定は予定だ。
「いやいや、本当にそこを何とか」
そして何だ。何で今日のこいつはこんなにも食い下がらない。意味が分からない。大丈夫か? 何か心配になるレベルで意味不明。
「いや、本当にどうした。何かあったのか?村田」
「いや、ないですけど」
「そ、そうか。じゃあそういうことだからまた今度な...」
マジでどうした、こいつ...。
「ちょ、一旦確認します。待ってくださいね」
確認...。何を。誰に。
まあ、何でもいい。今日こそあと数時間。とりあえず珈琲でもちょっと買ってくるか。