もう一人の隣人
あー、野球中継。そしておでんを食いながら飲む酒はやっぱ美味ぇな...。
てか、前から思っていることなのだが、俺の隣の部屋に住む斎藤、そしてさらに隣の部屋に住む西野さん。彼らは本当にどういう関係なのだろうか...。
いや、こんな40歳のバツイチ中年独身男の俺には何一つ関係のない話であることはわかっているのだが、何で...。
何であれでまだ付き合ってねぇの?
一度、斎藤に彼女との関係について興味本位で聞いたことがあるけど、確か『ハハッ、自分と彼女が? 僕ごときが彼女と付き合えるわけないじゃないですか。人間としてのスペックが違いすぎますよ』とか相変わらずの死んだ目をしながら言われた記憶がある...。
いや、お前のスペックが悪いのであれば俺はどうなるの? 嫌味? 君、全然悪くないよね。本当に、その死んだ魚の様な目以外...。それにそれもちゃんと寝れば直るものじゃないのか? いや、わからんけども...。
で、もう一方の西野さん。
超絶美人の彼女にも同じことを聞いたことが実はあるけれど、確か『いえ、ただの高校の時の同級生です...。私では彼と付き合うとかは無理だと思います。でも、彼が誰かと付き合ったり、良い人が現れたりするまでは...できれば隣にいたい。そういう感じです...。今の状況がまず奇跡だと思っているので』とか、儚げに頬を赤く染めながらすごく綺麗な顔をして言っていた気がする...。
奇跡? 私では彼と付き合えない? は? とりあえず何か、色々とよくはわからなかったけど...。俺、彼女のあの時の表情で一発で恋に落ちそうになったからね。マジで可愛かった。と言うか、あんなに美人で可愛いのに、こんな俺にもいつも愛想良くしてくれるし、笑顔も可愛いし、本当に俺、彼女のファンだからね。まさに推しの子だからね。あの娘を泣かす奴とかがいたらまじでブチ殺〇すからね。
と言うか、まずそもそもの話だ。
高校の頃の同級生が偶然マンションの隣人同士になるってどういうイベント? 俺、そんなイベント生きてきて一回もなかったんだけど。
斎藤がここに来た境遇は良く知らないけど、確か西野さんの方はこの近くに住む祖母の体調があんまり芳しくなくて、何かあった時のためにすぐに対応できるように引っ越してきたって当時聞いた覚えがあるな。マジでいい子すぎるだろ...。
完璧かよ。
と言うか、もう本当に色々と含めて俺は思うけれども。
二人が一緒にいる時のあの西野さんの心底いつも楽しそうで嬉しそうな感じ。で、斎藤の澄ましてはいるが、まんざらでもない気持ちが抑えきれずに滲み出てしまっているムカつく感じ...。
いや、本当に何であれで二人は付き合っていないの?
何? 今の若い奴ってみんなそんな感じなの?
この前とかも週末にスーパーで二人のことを見かけたけど、あんなのどのカップルよりもカップル、と言うか新婚じゃん。
それなのに何で、何であれで付き合ってないの?
見ている限り、お互いがお互いのこと、もうそういう感じじゃん。
え? それとも俺の感覚がバグってる? いや、おかしいのはあいつ等だよね。
と言うか、さっきからずっと家の外からは声が聞こえてきているけれど...マジでいつ終わる?
「あ、この大根。半分個しよ。」
「おい、さっき2個頼もうとしたら1個でいいって誰かさんが言っていたような気がするんだが...。俺の気のせいか?」
「えー、いいじゃん。金額も割り勘なんだし、こっちの油揚げも半分あげるから。ね、いいでしょ!」
「まぁ、いいけど...」
「ふふっ、やったね。交渉成立」
もしかして、聞こえてくる言葉的にだけど、コンビニおでんを一つのカップで二人で食っている感じか?
おいおい、同じおでん食っている人間で何でドア一つ隔ててこんなに違う?
糞が、酒がまずいわ。おでんもまずい。
俺はいつもいつも一体何を見せられているんだよ...。
って、なにホームラン打たれてんだ。糞ピッチャー
ほんと糞が、酒がまじぃ、まずすぎるわ。