褒められることに慣れていない独身男
ちょっと、照れるな...。特に女性から褒められるのはいつまでたっても慣れるものではない。
「斎藤さん、どうしたんですか!超いいじゃないですか!」
「そうか?」
「え?短髪めちゃくちゃ似合ってます。本当に」
「佐倉、そんなに褒めても別に俺は何も奢らんぞ...」
「えー、そこは奢ってくださいよー。ふふ、それじゃあ私の褒めぞんじゃないですかー」
「おい...」
とりあえず、会社ではどういう反応をされるかちょっとドキドキしていたが、昨晩の西野と同様、悪くないようで少し気分がよくなってしまっている自分がいる。
お世辞だとはわかってはいるが、褒められると何だかんだで...
あと、何か近い...。あと、本来の彼女としてはこれが普通なのだろうが、前々からこのボディタッチも中々慣れない...。一応、俺も男だから何かちょっとムズムズとかいうか色々と...。この適度に高い声も何か...。
正直、そもそも誰も俺に興味がなく、髪なんて普通にスルーされるだろうとも思っていたのだが、出社してデスクに座りしだい、いきなり、今も目の前にいる後輩の女性が声をかけてきて今この状況だ。
「え? 斎藤さん、彼女できました?」
「できるわけないだろうが」
「ふふっ、ですよね。ですよね」
何だ。こいつ、俺が彼女がいないことを何をそんなに楽しそうに...。バカにしてんのか? いや、それは前から普通にされてるな...。
にしても、この佐倉。最近は特に思うが、出会った当初とかなり雰囲気が変わったと思う。
初めは、何かアイドルみたいにめちゃくちゃ可愛い歳下の子が配属されてきた。とちょっとテンションが上がらなくもなかったが、実際に関わってみると仕事はめちゃくちゃできるが、俺に対して常にツンケンとしていて、笑顔なんて全くもって向けられた記憶がなかった。
それが何故かいつの間にかこんな感じに...
「はい、珈琲です」
「あ、いつもいつも悪い。ありがと」
本当に変わった...。
こんな、珈琲なんて入れてくれる娘では到底なかったし、そもそもこれに関しては悪いからいらないと何度も断っていたのだが、何故か毎日入れてくれるから、そのままありがたくいただいている。
とりあえず、昔に比べると仕事もしやすくなって、ありがたい限りなのだが、まだ色々とさすがに違和感が残っていたりもする。
何か俺を罠に嵌めるために時間をかけて色々と動いているわけではないよな...。
そう考えると、さっきから彼女がこの俺に向けてくる、やけに楽しそうな満面の笑みも何か違和感を....
「ふふっ、いいんですよ。今日のお昼とかにご飯でも奢ってくれれば」
「また、機会があれば...」
「もう、絶対に連れていってくれないやつじゃないですかー」
まあ、何だろう。とりあえず朝一から眩しい...。眩しすぎる。
色々と。