第94話 今回のダンジョン配信という名の映画撮影編のリザルト
湾岸都市に戻ってから一週間後。私たちの宿泊先に、PMCのリーダーが金貨を一枚持ってきました。
「書類上は、我々が契約主になったが、そこからすぐに勇者パーティーが解決してしまったからな。棚から牡丹餅な状態で丸儲けするのは気が引けるから、おすそわけだ」
我々みたいな弱小パーティーにとっては荷が重いので、PMCのみなさんにクエストを譲ったんですけど、実質勇者パーティーが全部解決しちゃったんですよね。
もちろんPMCのみなさんは悪くないし、そもそも我々が身の丈に合わないクエストを受けてしまったことが悪いので。
そう考えると、PMCのみなさんは律儀でした。
本当にありがたいことです。
「今回のクエストでは、PMCのみなさんに、たくさん助けてもらいました。本当にありがとうございました」
私は懇切丁寧にお礼を言いました。
もしかしたら今後も彼らと一緒に仕事をするかもしれないので、味方を増やしておきたかったんですね。
PMCのリーダは、クールな感じで肩をすくめました。
「君の商売に乗っかると、我々みたいな存在は儲かりやすいらしい。今後もなにかあったら雇ってくれ」
そう言い残して、PMCのリーダーは去っていきました。
ふーむ、もしかして私ってば、腹黒いだけじゃなくて、商売の才能もあるんでしょうか。
もし冒険者をやれない年齢になったら、商売を始めるのが吉かもしれませんね。
まぁ才能の皮算用なんてしてないで、今回のクエストのリザルトを確認していきましょう。
〇 〇 〇 〇 〇 〇
はい、収支関連の帳簿も書き終わったので、リザルトを確認するお時間ですよ。
結論から言いますと、これまでの記録を更新しまして、最高の収益が出ました。
おおよそ10000ゴールドの利益です。
なんでこれだけ大幅に利益が出たかと言いますと、理由は二つありました。
その一、配信を流しっぱなしにしていたおかげで、広告収入が継続的に入ってきたこと。
その二、映画の撮影を継続したおかげで、撮影料の報酬が入ってきたんですよね。
「実は三日前から、私たちが撮影した映画が公開されたんですけど、大盛況なんですよ」
はちゃめちゃが押し寄せてくる内容の映画ですからね。
あれだけ混沌とした流れで、しかもラストは勇者パーティーのメンバーであるイシュタルが超人技で決着をつけたわけですから、そりゃもう世間の関心は膨らみまくりです。
そのせいで、私たちに特殊な依頼が入ってくるようになりました。
はい、映画の撮影です。
うーん、我々弱くても冒険者ですから、映画のお仕事ばかり増えても困るんですよ……。
僧侶のレーニャさんは、映画の撮影というキーワードに、げんなりしました。
「もう二度とやりたくないわ、映画の仕事。なんかもうちょっとしたトラウマよ」
たしかにそうですねぇ。
もし本格的にお金に困ったら、もう一度映画撮影のお仕事に手を出してもいいかもしれませんが、いまのところ悪い思い出が積み重なっていますから。
戦士のアカトムさんは、撮影中に着用していた刑事用のおスーツを売り払ってきました。
「映画の撮影って、よくわからない衣装を着なきゃいけないし、なんかボクに向いてない気がするんだ」
あー、メタ的な発言をしますと、通常の作品であれば、中世ファンタジー風の世界観で刑事用のスーツなんて着ないですね。
うちの作品が特殊なので、現代的なノリがバンバン出てくるっていうだけで。
だから、そのあたりは深く気にしないほうがいいと思います。
武道家のシーダさんは、破壊されたマジックアイテムの残骸を、ポケットから取り出しました。
「もし勇者たちが魔王を倒したら、モンスターは消えるんだろう。そのとき我ら冒険者はどうなるんだ?」
さぁ、どうなるんでしょう?
おそらくモンスターが消えたら、冒険者たちに求められる要素は、対人要素が色濃くなってくるでしょうから……。
対山賊ないし戦争の時代に移行するんでしょうねぇ。
そんな時代になったら、騎士団と衛兵隊の重要度が増しているので、冒険者は無用の長物になっているかもしれません。
もしくは、山賊と同じ扱いになって、取り締まりの対象になっているかも。
…………あんまり明るい未来じゃなさそうです。
「将来に備えて、いまのうちにダンジョン配信で、たくさん儲けておいたほうがよさそうですね。勇者パーティーはちゃんと強いので、いつか魔王を倒すでしょうし」
僧侶のレーニャさんは、今回の収益を見てから、びしっと窓の外を指さしました。
「このペースで稼ぎまくるわよっ! 今回の冒険のおかげで、あたしたちの知名度は上がってきたし、一攫千金も夢じゃないでしょっ!?」
たしかにその通りなんですよ。
うまくやれれば、普通に働くより圧倒的に稼げる職業なんですから、勇者たちが魔王を倒す前に配信業で成功しておきましょう。
魔王がいなくなった世界では、お金持ちが一番強いでしょうから。




