第90話 イケメンだからといって、デリカシーがあるわけではない
なんで勇者パーティーの盗賊が、いきなり私を助けにきたんでしょう?
いやもちろん大変ありがたいのですが、それはそれとして謎ですね。
「なんで勇者パーティーが、このダンジョンに……ってその前に、モンスターに包囲されてるんですよ!?」
私は怪我した足首をかばった姿勢で、ずらりと並んだモンスターたちを指さしました。
しかし盗賊イシュタルは、片方の眉毛をぴくりと上げるなり、けらけらと笑いました。
「なんだお前、見えてないのかよ」
「見えてないって、なにがです?」
「あいつら、とっくの昔にバラバラだ」
まるでタイミングを合わせたかのように、私たちを包囲していたモンスターたちは、ばらばらの細切れに切断されて、ただの肉片になりました。
……いったいなにが起きたんでしょう。超常現象ではないと思いますが。
地面に散らばっているモンスターの肉片を観察すると、やけに綺麗な切断面であることがわかりました。
これは鋭利な刃物で切断した傷口ですね。
しかもただ斬ったのではなく、とんでもないスピードで斬らないと、こういう傷口にはならないでしょう。
――鋭利な刃物で、超スピードの切断――
ようやく私は、盗賊イシュタルがなにをやったのか理解しました。
「私ごときでは認識できない超スピードで、モンスターたちを斬り捨てたんですね。ちなみに、どのタイミングで斬ったんです?」
「お前に声をかけたときだよ」
つまり前回の更新の時点で、すでにモンスターたちはバラバラ死体になっていたわけですね。
さすが世界で一番素早い男、と言いたいところですが、いくらなんでも常識外れすぎるでしょう。
と思ったからこそ、ステータス表示の問題点に気づきました。
「イシュタルのステータスって、スピードの値がカンストしていますけど、これって数値の上限表記がバグってるだけで、実際はもっと早いんですか?」
「いいことに気づいたな。俺様は馬より足が速いんだぜ」
「はぁ? じゃあ競馬に出られるんですか?」
「おうよ。許可が出るなら、スプリント戦で馬と勝負してやるぜ」
「バカじゃないんですか、と言いたいところですが……こちとら死にかけたところを助けてもらった身なので、バカにできないのが悔しいですね」
「ほほぉ、珍しく、しおらしいじゃないかよ。その姿勢に免じて、足首を怪我したお前を、おんぶで運んでやるぜ」
おんぶ!?
それって密着するってことですよ!?
は、恥ずかしい……!
っていうか、なんで私が、こんなやつにおんぶされなきゃいけないんですか。
いくら見た目が男の子っぽくても、中身はれっきとした乙女ですからね。
でもケガして歩けないのは事実なので、しぶしぶイシュタルにおんぶしてもらいました。
その瞬間、このノンデリ男は、とんでもないことを言い出しました。
「今日のお前、相当汗臭いから、マジで死にかけたんだな」
「なんであなたにはデリカシーがないんですか!?」
まったくもう、女の子に汗臭いなんてそのまま言うやつ初めてみましたよ。
しかもイシュタルのやつ、さらに頭がボケていました。
「なんだぁ? 死にかけたことは事実なのに、それを指摘されたらプライドが傷ついたのかよ?」
「そっちじゃありません!」
レベル一の遊び人が、そんなことでプライドが傷つくはずないでしょう。
まったくもう、こんなやつに常識を期待するだけムダです。
さっさと謎を解いたほうが有意義ですね。
なんで勇者パーティーが、このダンジョンにいるのかを。
*CMです*
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