第87話 悪知恵の働くモンスターは、わざわざ正面から襲ってきません
「前に進むしかなくなったわけですが、私たちは弱いので、強い人たちの足を引っ張らないように荷物運びに徹しましょう」
私は、よっこらせっと大雑把な荷物を担ぎました。
いくら覚悟を決めたところで、いつもとやることは変わらないわけです。
だってここから先のダンジョンは強敵だらけですし、足手まといになるのが一番やってはいけないことですよ。
僧侶のレーニャさんも、荷物を担ぎながら苦笑いしました。
「結局いつものやつー」
戦士のアカトムさんは、せっせと荷物を担ぎました。
「まぁ慣れてるからね、お金がないときは雑用のアルバイトしてるし」
武道家のシーダさんは、一番重い荷物を意気揚々と担ぎました。
「これも修行になるぞ」
こうして私たちは、隊列の後ろから三番目のポジションに入って、モンスターの巣の先へ前進することになりました。
隊列の最後尾は、バックアタックを警戒するのが得意なパーティーが担当しています。
帝国軍においても、隊列の最後尾は、行軍の脆い部分になるため、強い部隊が担当しているんですよ。
隊列の先頭を担当しているのは、団体行動を制御するのが得意なPMCのみなさんです。
彼らは、魔法のたいまつで道を照らしながら、一番乗りで開けた空間に足を踏み入れました。
「悪知恵洞窟に到着だ。総員、気を引き締めろ」
ついに到着しました、もう一つのダンジョン、悪知恵洞窟です。
冒険者とモンスターが争ってきた洞窟なので、あちこちに交戦の跡が残っています。
道幅の広いメインルートだけ、魔法のたいまつによる照明が維持してあるんですが、ちょっとでも脇道にそれると真っ暗闇です。
この脇道の暗がりですが、ずる賢いモンスターたちが待ち伏せするための陣地です。
冒険者が能天気に明るいメインルートを通っていると、暗がりに潜んでいたモンスターが背後から一撃、という仕組みですね。
その証拠に、死亡した冒険者の白骨死体と腐乱死体が集中しているのは、明るく照らされたメインルートなんです。
いやはや、白骨死体は見慣れているんですけど、腐乱死体はさすがに慣れていないですよ。
グロテスク!
残酷すぎる風景を配信に映すと、BANされる可能性があるので、モザイク処理しておきましょうね。
こんな衝撃映像が一瞬でも配信に映ったら、いろいろな意味でコメント欄が盛り上がりました。
『ヤバすぎダンジョン』『あきらかにこれまでのダンジョンより難しいな』『ユーリューたちのレベルに合ってなくて草』『さっさと脱出しないとマジで死ぬぞ』
ええ、そうでしょうね。さっさと脱出しないと、本当に死にます。
不幸中の幸いは、良くも悪くも有名なダンジョンなので、脱出ルートがはっきりしていることです。
PMCのリーダーが、手のひらに方位磁針を載せて、北の方角を指さしました。
「出口はあっちだ。進むぞ、周囲に警戒しながらな」
我々は、明るいメインルートを北進しながら、光明の補助魔法で脇道の暗闇をチェックしていきます。
いまのところモンスターの待ち伏せは発見できません。
しかし、複数の足跡や、重たい道具を引きずって動かした形跡が残っています。
つまり敵は、私たちが光明の補助魔法を使っていることに気づいて、待ち伏せするポジションを変えたんですね。
まったくもって厄介なモンスターたちですよ。
こんな評判通りに悪知恵が働くとなれば、いつどんなタイミングで敵に襲われるかわかりませんね。
肩と首がカチコチになるほど緊張しながら、ひたすらメインルートを北進していくと、下り坂が見えてきました。
そう、下り坂です。
おやおや、読者のみなさんには、あの下り坂、見慣れた光景じゃないですか?
そう、プロローグのシーンなんですよ。
ということは、これから先、なにが起きるのか、わかりますよね?
そう、ずる賢いモンスターの集団が、フンのたまった樽を転がしてくるわけですよ。
**CMです**
ンハロ教は、ダンジョンで死亡した冒険者のために、供養の派遣を行っております。お気軽にご相談ください(派遣する僧侶の出張費、および護衛料金が発生するため、通常料金の三倍になります)




