第85話 撤退か、前進か
私たちが追っていた窃盗犯・前監督は、魔王軍の関係者である可能性が濃厚だとわかりました。
彼の正体が何者にせよ、私たちには荷が重そうです。
だって低レベルパーティーですし?
配信のコメント欄だって同意見でした。
『やめたほうがいいよ』『無理する必要ないじゃん。他に強い冒険者なんていくらでもいるし』『そうだよ、PMCにクエスト引き継いでもらえばいいじゃん』『報酬はなくなるけど、命のほうが大事だ』
ちょうどPMCのリーダーが、私に提案しました。
「今回のクエストは、こちらで引き継ぐから、お前たちは街に帰ったほうがいい」
他の強豪冒険者たちも同意見でした。
私たちには、二つの選択肢がありました。
一つ、今回のクエストをPMCに引き継いでもらって、この道を引き返すこと。
二つ、彼らと一緒に、モンスターの巣の先まで突入してしまうこと。
まぁ常識で考えれば、引き返すべきでしょうね。
だって私たちは足手まといですから。
でもパーティーの行動を、私の独断で決めるわけにもいかないので、仲間たちと相談しました。
「私個人としては、撤退一択ですが、みなさんどうですか?」
僧侶のレーニャさんは、むーっと悩みました。
「この先の道は楽しそうなんだけど、でも危ないのよね、どう考えても」
レーニャさんは、半分賛成で半分反対ですね。好奇心を優先するか、それとも命を優先するかです。
戦士のアカトムさんは、肩をすくめました。
「ボクは撤退に賛成。他の冒険者の足を引っ張りたくないし」
アカトムさんは撤退一択です。ただしその動機は命が惜しいからではなくて、他のパーティーの足手まといになりたくないという騎士の家系らしい理由でした。
武道家のシーダさんは、ちょっと不満そうでした。
「前監督も捕まえたかったし、この先の道も見てみたかった」
シーダさんは、ちゃんとした冒険をしたいわけです。だって彼女は、うちのパーティーでは唯一のちゃんと強い人ですし、潜在能力だってありますから。
というように、パーティー全員の意見が出揃えば、私たち四人の意見がちょっとずつズレていることがわかります。
これまで私たちは、基本的な行動方針が一致してきたんですけど、究極の選択になったら、少しずつ意見が分かれてしまいましたね。
だからといって、多数決で安易に決めたくないですね。
大事なことなんですから、きちんと四人で話し合いたいところです。
しかし熟議するだけの時間がありません。だってここダンジョンのど真ん中ですから。
だから私は武道家のシーダさんに頭を下げました。
「シーダさん、申し訳ありません。私はパーティーのリーダーとして、PMCにクエストを引き継いでもらって、撤退しようと思います」
四人全員で撤退するためには、もっとも強硬な意見を持っているシーダさんを説得しないといけません。
そのためには、リーダーとして頭を下げる必要があると判断しました。
もしこのお願いが通用しないなら、もしかしたらシーダさんはパーティーを抜けてしまうかもしれません。
さて肝心のシーダさんですが、ぶーっと鼻息を鳴らしつつ、こくりとうなずきました。
「わかってる。ちゃんと一緒に帰る」
どうやら納得してくれたみたいです。私は喜びのあまり、シーダさんを抱きしめました。
「ありがとうございます、シーダさん」
「我は昔から考えるのが苦手だ。だから難しいことは、ユーリューの意見を優先することにしてる」
仲間に信頼してもらえることも、一種のチームワークなんでしょうね。
というわけで、私たちは安全を優先して、抜け道を引き返そうとしました。
――次の瞬間、私たちが通ってきた抜け道が、ゴゴゴっと地鳴りを響かせながら閉じてしまったのです。
「……えええええ!?」
と絶叫したのは、私たちだけではなく、この場にいる全員でした。
だって敵地のど真ん中で、退路が消えてしまったんですから。
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