第83話 腹黒遊び人のひとりごと
私たちは、おばけに偽装することで、背後から接近してくるモンスターたちの足止めに成功しました。
しかし、まだ油断はできません。だって倒していませんし。
いくら自然湧きしたモンスターが弱いといっても、私たちの実力では倒せるかどうか怪しいわけですね。
となれば、追い返したいですねぇ。なにかしらの工夫を施すことで。
なにかいい方法ありませんかねぇ、と思案しているとき、ふと足元に転がっている空瓶や空袋に気づきました。
これって、PMCを筆頭とした強豪冒険者のみなさんたちが、モンスターの巣で交戦する際に使用した消耗アイテムの残骸ですね。
薬草、マジックポーション、敏捷性向上の豆、他にもいろいろとアルケミーなものが転がっています。
そう、アルケミーなんですよ。
消耗アイテムって、錬金術師たちが合成しているわけですから、原料と合成式が存在するわけですね。
ってことは、使い終わった直後の空瓶や空袋には、ほんのわずかに中身が残っているわけですよね?
はい、私はこれらを利用して、新しい物質を合成しようと思います。
あー、ちなみにここから先の手順は、モザイク処理かけますからね。
いろいろな意味でアウトなことをするので。
ぱぱぱっとモザイク処理を施してから、さっそく合成開始。
空瓶と空袋の残り物を、特定の手順で混ぜ合わせていきます。
数十秒ほど作業したら、あっという間に完成ですね。
僧侶のレーニャさんが、私の手元をのぞきこんで、おやっと首をかしげました。
「ねぇユーリュー。それってもしかして、教会で禁止されてるアレなんじゃ……」
「いいですかレーニャさん。これは冒険に有用なアイテムです。それ以上でも、それ以下でもありません」
知らないことが幸せなこともあるわけですね。
というわけで、私はおばけのフリを続けながら、さっそく合成したばかりのブツを投げつけることにしました。
「たたりじゃー、モンスター神のたたりじゃー」
八墓村の祟りっぽい口調で、私はぽいっと【****】(モザイク処理済み)を投げつけました。
すると合成したばかりの薬品が気化して、もわんっと紫色の煙が広がると、それをモンスターたちは吸い込んでしまいました。
彼らの目つきは変化して、狂気を含むようになります。
あー、狂気なんて上品な言い方だと、それっぽくないですね。
はい、彼らはラリったのです。違法な薬物を鼻と口から吸引したことで。
「た、祟りだ!」「モンスター神が怒っているが!?」「本当だモンスター神が見える、本当に見えるぞ!」「引き返さないと、この道!」
彼らは幻覚におびえると、武器も防具も投げ捨てて、一目散に退散していきました。
はははー、というわけで、私が投げつけた薬品は、違法薬物ですね。
ダウナー系のやつで、強烈な幻覚を見るので、法律で禁止されています。
なんでそんなものを合成できるんだと、誰もが疑問に思うことでしょう。
読者のみなさんだって、私のことを白い目で見ています。
配信のコメント欄だって、私に呆れていました。
『ユーリュー、お前……』『そんなモノを合成できるってことはだな?』『おいお前、いつどこでその合成手順を覚えた?』
読者のみなさんも、コメント欄のみなさんも、落ち着いてください。
私は犯罪者じゃありません。
なぜなら、ドラゴンクエスト3の有用アイテムに毒蛾の粉があるからです。
あれの効果って【敵一体を混乱させる】ですよね!?!?!?
ほら! いま私が敵に投げつけた薬品と同じ効能じゃないですか!
ドラクエの勇者が使うと有用なアイテム。
私みたいな腹黒の遊び人が使うと違法な薬物。
はー、まったく世の中は差別と偏見だらけですよ、やれやれ。
というわけで、次回の更新をお楽しみに。
えっ、どこで合成方法を覚えたのかって?
…………ほら、うちのお父さん、指名手配犯じゃないですか。
*CMです*
帝国薬品管理部からお知らせです。
違法な薬品の使用および売買は禁止されています。もちろん合成も禁止されています。
そもそも薬品の合成が許されているのは、帝国に登録した錬金術師だけです。
いいですか、無許可も違法であれば、無登録も違法ですからね。




