第72話 騎手の乗り替わりに要注意
すでにレースはスタートしていました。
十八頭の馬たちが、ダートコースをドスンドスン走って、砂じんを巻き上げていきます。
戦士のアカトムさんが、サングラスを軽くズラしながら、馬群を見つめました。
「ボクみたいな、競馬どころかギャンブルと縁のない人間にしてみれば、どの馬が強いのか、さっぱりわからないよ」
私は職業:遊び人らしく、馬について説明することにしました。
「レースのグレードによって、馬の目利きは変わってきますね。条件戦であれば、ちょっとした能力差しかないことも多々とありますし、G1レースになると馬ごとの個体差が強烈に開いていることもありえるわけです」
「ちなみに、いま走ってるレースは、どんなグレードなんだい?」
「三歳未勝利戦といって、一番下のグレードだと思ってくれて問題ありません。しかも夏競馬の未勝利戦ですから、どの馬もそこまで能力差がなくて、勝負の決め手になるのはジョッキーの技術でしょう」
「なるほど、騎手の能力で決着するわけか。今回のレースだと誰が一番うまいんだろう?」
「そりゃメルールですよ。ただし、このレースに関しては特殊条件が発生しているので、メルール以外のジョッキーも飛び込んできますよ」
「へー、なんか自信ありそうだね、ユーリューの賭け方」
「まかせてください。しかも私の予測が、ガンギマリのトキさんと被っていないことも、良いポイントですね」
私の賭け方ですが、そこそこの大穴馬券に単勝で500ゴールド投入しました。
ガンギマリのトキさんの賭け方ですが、小穴の馬を複勝で500ゴールド買っていました。
トキさんは、昼間からビールをぐびぐび飲みながら、購入した馬券を天高く掲げました。
「ひーひっひっひ、この馬は来るよ。複勝であれば、一着にならなくても、三着以内に入れば当たるからね」
「たしかに、その馬も来るかもしれません。ですが私が予測した馬もおそらく来るでしょう」
「本当かい? あんたの賭けた馬、いくら穴狙いにしても、成績が悪すぎじゃないかい?」
と会話している間に、レースは最後の直線を迎えていました。
馬群の大外から、私の賭けた馬が、ぐんぐん伸びてきました。
ガンギマリのトキさんが、描写したらアウトなタバコをスパスパ吸いながら、くわっと目を見開きました。
「なんであの馬が、あんなに伸びるんだい!? ブリンカーだってつけてないし、馬具の交換もしてないのに!」
「ジョッキーが要点ですよ。癖馬が得意なジョッキーに乗り替わったので、あの馬は本来の力で走れるようになったんです」
「そうか! これまで乗ってきたジョッキーたちが、癖馬苦手だったから、ぜんぜん勝てなかっただけで、本当はそこそこ強い馬だったパターンかい!!!」
こうして私の賭けた馬は一着で駆け抜けて、ガンギマリのトキさんが賭けた馬は三着でした。
二人とも的中しました。しかし利益率が違います。
私はそこそこの大穴に単勝で賭けていたので、500ゴールドで、6000ゴールドの利益ですね。
トキさんは小穴に複勝で賭けていたので、500ゴールドで、2500ゴールドの利益です。
もし回収率勝負をしていないのであれば、お互いにあんたやるじゃないかと褒め合うシーンですが、そうじゃないですからね。
私はお財布に損害を出すことなく、いきなり大穴の単勝を的中させたので、圧倒的優位に立ちました。
ただし、いまのところはです。
ギャンブル狂であるトキさんは、ただでさえガンギマリだった瞳が、ギラギラと真夏の太陽みたいに輝きました。
「あんたユーリューとかいったね。勝負師の素質があるようだが、まだ決着はついてないよ。あと二レースもあるんだからさ!!!!」
*CMです*
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