第67話 ショートコントで心の壁を取っ払いましょう
私たちは、町外れにやってきました。そこにはボロボロの酒場がありまして、扉は軽く壊れているし、外壁が剥がれ落ちそうでした。
そんな胡散臭いお店で、ダメ人間たちが昼間から呑んだくれています。
店員もやる気がなくて、とりあえず店番に立っているだけで、お仕事にスピード感なんてありません。
いかにも裏業界の情報がありそうな場所ですね。
とくに狙い目は、盗賊っぽい格好をした男女たちです。盗品についても詳しいはずですよ。
彼らは、私たちが店に入るなり『なんだこのヨソ者たちは』という目線をよこしてきました。
初見のお客さんで、しかも撮影用のスーツを着ているわけですから、信用されなくて当然ですね。
この雰囲気のまま聞き込み調査をやっても、きっと食べ物の好みですら教えてくれないでしょう。
彼らの警戒心を解くためには、私と戦士のアカトムさんで漫才をやったほうがよさそうです。
++【ショートコント、刑事だと思ったらケイという名前のじいさんだった】++
私は、ヨボヨボのおじいさんの歩き方をしながら、挙動不審の演技をしたアカトムさんに近づきました。
「ちょいとおたずねしたいことがあるのじゃが、タイフォン(汽笛)を知らんか?」
「逮捕だって!? まさかこの前やった強盗がバレたんじゃ……!? いや落ち着け、ただの勘違いかもしれない。あんた、名前は?」
「ケイじい、と呼ばれておる」
「刑事!?」
「うむ、ケイじい、じゃ」
「な、なんてことだ。まさか本当に逮捕が目的?」
「そうそう、タイフォンじゃ」
「おのれ、かくなる上は、お前を殺して逃亡してやる!」
「これ若造、そんなに興奮すると、タイフォンで追い払おうと思っていたクマが近寄ってきてしまうぞい……」
「ぎゃーああ! クマ! たすけてー!」
アカトムさんがクマに食われるリアクションをして、ショートコントのオチを終えると、店内のみなさんが大きな拍手をくれました。
「なかなかいい演劇だったよ」「もしかして若手のパフォーマーかな?」「この街は文化の町だからねぇ。一旗揚げようってやつがたくさんいるのさ」「役者の夢破れて、この店の常連になったやつもいてさ」
どうやら我々のスーツとサングラスは、演劇の町の人々にとっては、パフォーマンスの一種だと受け止められたようです。
それはそれで都合がいいので、わざわざ冒険者だと説明しなくてもいいでしょう。
さっそく逃亡した前監督の行方を知るために、頭のキレそうな酔客に話しかけました。
「いろいろあって人探しをしています。最近この人を見ませんでしたか?」
私はVITを利用して、前監督の顔動画を見せました。
頭のキレそうな酔客は、酒臭い息を吐きながら笑いました。
「しらん、しらん。たとえ知ってても、タダで教えるもんか」
つまり彼は前監督の情報を知っているわけですし、もし教えてほしければ金をよこせと言っているわけですね。
かといって我々の寒い台所事情から考えると、いちいち謝礼を払っていたら破産ですよ。
どうやって相手の口を割ったもんでしょうか?
閃きました。彼らが演劇の町の住人という特色を利用するんです。
「実は我々映画の撮影中なんです、こちらのVITでね。もし前監督の情報を答えてくれたら、あなたも映画に出られますよ」
酔客の背筋が、ぴーんっと伸びました。
「映画に出られるのか!? 役者になりたくて上京してきたけど失敗した、このオレが!?」
「はい、もちろん」
「いやぁ、チンピラ生活をやりはじめて十年以上たつけど、ついに映画に出られる日がくるとはなぁ。長生きするもんだぜ」
「自分からチンピラだと認めるのもどうかと思うんですよ」
「細かいことはさておきだ、本当の本当に映画に出してくれるんだよな? 嘘と方便じゃないよな?」
「VITのログに、きちんと保存されていますよ」
VITのログ画面を見せれば、映画の撮影中であることがはっきりと証明できたし、そこには酔客の顔もすっかり映っていました。
彼はすっかり上機嫌となり、お店の窓の外を指さしました。
「その人相の男であれば、そこの路地を真っすぐいったところにある闇市で見かけたことがあるぜ」
闇市。なるほど、なるほど、そこに盗品を売買できるお店があるんですね。
おもしろくなってきたじゃないですか。
**CMです**
良質のタイフォンをお求めでしたら、帝国汽笛産業をおたよりください。ホイッスルも置いてありますよ。馬車につけるのが一般的ですが、山間部であればクマを追い払うのにも使えます。ぜひご利用を!




