第19話 勇者パーティーのダンジョン配信をお手伝いするアルバイトに応募しよう!
私たちは、勇者パーティーのアルバイトに募集するために、戦士ギルドにやってきました。
戦士ギルドの見た目ですが、倉庫と役所を合体させた感じでした。
良くいえば質実剛健、悪くいえば頭が固そうな作りですね。
そんな建物をぐるりと囲むように、百人近い応募者が殺到していました。まるで角砂糖に群がるアリですね。
戦士ギルドのスタッフが、アルバイト募集の看板を掲げながら、叫んでいます。
「えー、想定より応募者が多いので、これより選抜を行います。みなさん順番に並んでください。なお十名前後の採用を予定しています」
選抜ですかぁ、嫌な響きですねぇ。私たち、世間の信用がないので、アルバイトの募集で落ちることもザラなんですよ。
ロクに収入がないときに、アルバイトで落ちるときの絶望感……あれは体験したものにしかわからない生活に直結した恐怖ですね。
それはさておき、勇者パーティーに寄生する形で、ダンジョン配信するためには、この選抜を勝ち残らないといけないわけです。
普通に受けたら百パーセント落ちるので、私たちは小声で作戦会議を始めました。
「どうやったら、この手の選抜で勝ち残りやすくなるんでしょう。戦士ギルドは、魔法ギルドなんてくらべものにならないほど、お堅い組織ですから、私たちみたいな住所不定無職は、落ちやすいですよ」
と私は、腹黒の遊び人らしく、みなさんに意見を求めました。
最初に意見を出したのは、僧侶のレーニャさんでした。
「まずは本性を隠すところからよ。あたしはギャンブル癖、ユーリューは腹黒、シーダは脳禁。アカトムは、お小言をやめてほしいなーって」
たしかに我々の本性を隠すのは有効でしょうね。あと戦士のアカトムさんのお小言は鬱陶しいので、やめてもらうのに賛成です。
しかし戦士のアカトムさんは不満そうでした。
「ボクがいってることは、お小言じゃなくて、常識的な発言だよ。とくにレーニャは僧侶なんだから、ギャンブルはほどほどにしないと破門されちゃうよ?」
そういうところがお小言なんですよ。
しかし現実問題として、レーニャさんのギャンブル中毒を治さないと、破門の問題もありますし、いつかパーティーの金に手をつけそうなので、一部賛成ですね。
なお武道家のシーダさんは、いつものように斜め上の発想を披露してくれました。
「もっと体を鍛えれば、戦士ギルドの面接担当者に一騎打ちで勝てるかもしれない」
一騎打ちで勝ってもアルバイトには採用されないでしょうが。
いやまぁ、脳筋の思考回路は理解してはいるんですよ。
選抜に勝ち残るというフレーズで、武道大会みたいなイメージが浮かんでいるんでしょう。
そりゃアルバイトの採用選抜だって、生活をかけた武道大会みたいなところはありますけどね。
というわけで、私たちの会議の結果ですが『採用という名の生活武道大会に勝ち残るために本性を隠す。今後の生活のためにギャンブルはほどほどに』という結論になりました。
…………なんかいまいちですね。っていうか、ごちゃごちゃですね。
でも、本性を隠すという作戦は有効だと思いました。
さっそく私たちは本性を隠して、清廉潔白な淑女のフリをしながら、列に並びました。
しかし、いきなりトラブル発生というか、私の本性が見破られてしまったというか。
勇者パーティーに所属する盗賊が、私の顔を見るなり、絶叫したんです。
「ああ! お前、あのときの当たり屋じゃないか! あのときはよくも!」
し、しまった!!! この盗賊、私が冒険者になる前に当たり屋をやって、お金をしぼり取った人じゃないですか。
あー、だから勇者パーティーの盗賊に見覚えがあったし、どこかで会ったような気がしていたんですね。
謎が解けて、すっきりしましたねぇ、うんうん。
じゃなくて、ピンチですよ、ピンチ!
このままだとアルバイトに採用されないどころか、衛兵に通報されて逮捕されちゃいます。




