第116話 ようやく処理済みのイナズマストーン回収ですよ、あと魔王の話をちょっとだけ
はい、ドラゴンのうんちをスコップでかきわけながら、イナズマストーンを回収しましたよ。
臭かったし、腹が立ったし、屈辱の味を知りました。
ちくじょぉおおおー、覚えていることですね、いつかあなたたちにもうんち漁りやらせますから。
というわけで、回収したイナズマストーンの様子ですが。ドラゴンの胃袋で消化されちゃうと、だいぶ縮むんですね。
あれだけ大量の石ころを食べて、濁流みたいな量のうんちになったのに、子供が作った砂の城ぐらいの量しか回収できなかったんです。
おおむね今回のクエストに参加した冒険者たち全員が一個ずつ拾ったら、それで空っぽになりました。
ふーむ、さすがに希少性のある食材って感じですね。トリュフの価格が高いのと理由は一緒ですから。
しかぁし、たった一握りの石ころであっても、それ一個で結構な額の売り上げになるので、我々の収入水準から考えると、十分に一攫千金ですよ。
一攫千金!
と叫びたいところですが、その前に私自身の汚れを落としたいですねぇ……。
すぐそこに川があるので、そこでお洗濯しましょう。
おパンツ配信の大御所ジェナーディですけど、彼女もドラゴンのうんちまみれになった状態で、げっそりしていました。
「これが本当の汚れ配信……」
普段、泥にまみれないで、お色気売りしていたやつが、うんちまみれになって落ち込んでいる姿を見たら、つい意地悪したくなりました。
「これまでさんざんやってきたお色気配信だって、十分『汚れ』じゃないですかぁあぁぁぁ??????」
「あーら、お色気やりたくてもやれない容姿の人が負け惜しみをいってらっしゃる?」
きぃいいいい! この陰湿吟遊詩人めぇぇぇぇ! ちょっと見た目が可愛いからって調子に乗りやがってぇえええ!
という怒りの感情が表情に出てしまったら私の負けなので、必死に冷静さを維持しながら、ふんっと鼻で笑ってやりました。
「ふ、ふーんだ。あなたみたいな軽薄な女と私では、配信に求める技術が違いますからね」
と、ごまかしつつ、さっさと洗濯ですよ。
そもそも臭いのは現実ですから。ちなみにジェナーディーもさっさとドラゴンのうんちを落としたいらしく、川に入ってじゃぶじゃぶ洗い出しました。
私も防具を装着したまま川に入って、まずは装備の汚れを落としていきます。
作業をやっているとお喋りしたくなるので、なろうドラゴンのプラテスにたずねました。
「いまさら気になったことがありまして。我々がドラゴンのおばばと会ったとき、魔王の監視業務とかいってませんでした?」
なろうドラゴンのプラテスは、便秘が解消されてすっきりした顔で、こう答えました。
「魔王は簡単に倒せない仕組みがあるから、僕たち長命種が悪さをしないように見張ってるんだよ」
「簡単に倒せないんですか、魔王って?」
「そう、一種の無敵状態なんだよ」
「ええー。それじゃあ勇者パーティーでも勝てないじゃないですか」
「勝てないけど、負けることもないよ」
「それって……どういう意味ですか?」
「攻撃力を封印するかわりに、無敵状態になってるんだよ。つまり魔王は誰かを倒すこともできないけど、誰かに倒されることもないんだ」
ははぁーん、なるほど。自分自身に制約をかけることで、その対価として無敵を得たんですか。
厄介ですねぇ。単純な能力ほど強力ですから。
「倒せないなら、どこぞの地底に叩き落してから生き埋めにするとかどうです?」
「過去、それを実行した英雄もいたんだけど、魔王の部下たちに掘り起こされちゃってね」
単独犯であれば、生き埋めの段階でおしまいなんですけど、魔王は組織のリーダーですもんね。
そりゃあ、いくら強い勇者パーティーでも、さっさと魔王城に乗りこまないわけですよ。
だって倒す手段が現段階で存在しないから。
まぁ私たち弱小パーティーには関係ないことですけどね。
という感じで会話が一区切りしたところで、洗濯完了です。
匂いも落ちて、ようやく気持ちが落ち着きました。
なろうドラゴンのプラテスですけど、ばさりと翼を広げました。
「僕は執筆の旅に戻るよ。作家として生きることが楽しみだ」
「もう二度と呪いの石板を生み出さないでくださいね」
「大丈夫だよ。今後は自信を持って書いていくから。それじゃあねー」
ばさばさと翼をはためかせて、プラテスは大空の彼方に飛び去っていきました。
あれだけ長寿の種族が小説に生涯を捧げるとなったら、何本の物語を描けるんでしょうねぇ。
芸術家マインドを持った生き物であれば、それはとても羨ましいことだと思いますよ。
さて、我々もイナズマストーンを売りさばくために、街に戻りましょうか。
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