第113話 ギャンブルは生活費に手をつけてから本番という格言がありますが、あれはギャンブル弱い人の虚勢です
さて対戦相手である意地悪ドラゴンのテケアは、前回のレースで負けた分を取り返すために、大金を賭けました。
大金を賭けること自体は否定しないんですが、ちゃんと予測してから賭けないと、おおむね悲惨な結末を迎えることが多いです。
ほら、この通り。
「本命のラインが飛んで、三連単の払い戻しが20万ゴールド!? なんで硬いはずのレースが大荒れになってるんだ!?!?!?!?!?!?!?」
競輪アルアル話ですねぇ。
カッチカチの硬いレースのはずが、本命選手の判断ミスや体調不良によって、ラインごと車券外に吹っ飛んでいくやつ。
ちなみになろうドラゴンのプラテスは、私のアドバイスに従って、このレースには手を出しませんでした。
なんとなく怪しい雰囲気がしたから、このレースは回避したほうがいいと思ったんですよ。
こういう第六感による見の判断は、ギャンブルにおいて大事な要素になってきます。
でも射幸心に負けて、冷静さを失ったギャンブル中毒者は、このあたりの判断がうまくいかないんですよね。
なろうドラゴンのプラテスは、引きつった笑みを浮かべました。
「もしかしてこの勝負、あとはなにもしないだけで勝てちゃうんじゃ……」
私は、まるで悟りを開いた賢者のような顔でうなずきました。
「はい、対戦相手が勝手に暴走して、有り金使い果たしてフィニッシュです。私はギャンブルの得意な遊び人として、意地悪ドラゴンさんが破滅する姿を見届けようと思います」
予想した通り、意地悪ドラゴンのテケアは、血眼になってバカみたいな量のゴールドを用意すると、むほーっと鼻息を荒くしました。
「次だ次! 次のレースで取り返すぞ! 次こそ大穴が来るんだ、うおおおおお!」
なんでギャンブル弱い人って、根拠のない自信を捨てられないんでしょうねぇ。
ちゃんと予測しないで、流れまかせになるっていうか、運まかせになるっていうか。
ちなみに次のレースですけど、穴は穴でも小穴が着ました。
これじゃあ、大穴に賭けていた意地悪ドラゴンのテケアは普通に外れですね。
「あぁぁあまた外したぁああ! ん……しまった、もうゴールド袋が空っぽだ! だが俺が弱虫プラテスに負けるわけにはいかんのだ……そ、そうか、これらを質屋にいれれば、まだ勝負できる!」
あーあ、ドラゴンの秘宝を質屋に入れて莫大な量のゴールドに変換しちゃいましたよ。
完全にダメギャンブラーですね。
なお、うちのパーティーのダメギャンブラーである僧侶のレーニャさんが、鼻息荒く彼を非難しました。
「さすがに質屋を使うのはダメよ。かぎられた種銭をすっからかんにするだけだから、ギリギリ存在を許されてるんじゃない、限界ギャンブラーっていうのは」
種銭がすっからかんになった時点でなんの自慢にもならないし、そもそもあなた僧侶ですからね、賭博関連全部禁止ですからね。
まぁいいんですよ、あなたが生臭坊主であることは周知の事実ですから。
それはさておき、意地悪ドラゴンのテケアですが、あれよあれよと負けを重ねて、またもやゴールド袋が空っぽになりました。
「もう賭けられるものがない! こんなに悔しい思いは生まれて初めてだ!」
す、すごい、競輪で全外しは逆にどうやって成し遂げるんでしょうか。こんなに当たりやすいギャンブルなのに。
ちなみに競輪の運営は、ほくほく顔でした。
「ギャンブルが弱いドラゴンさん……じゃなかった、ギャンブル好きのドラゴンさんのおかげで、今日の売上だけで、去年の年間売上と同じ額だけ稼いだぞ」
どんだけ賭けたんですか、意地悪ドラゴンさんは。
まぁドラゴンは、人間と違ってゴールドなくても生きていけますけど、だからといって溜め込んだ金銀財宝をすべて放出してしまうっていうのは、いかがなものかと。
ん、ドラゴンの溜め込んだ金銀財宝?
それもエリートドラゴンが収集したやつ?
それらをすべて質屋でゴールドに変換した?
それってつまり…………質屋に伝説のアイテムが並んだってことなんじゃ?
はい、その通りでした。
質屋には歴戦の冒険者たちや、帝国の偉い人たちや、各国のお宝マニアたちが集まって、競売が始まっていました。
「こちらドラゴンのファイヤオーブ、競売開始です。スタートの金額は1000万ゴールドから」
いきなり経済が活性化しました。
これもしかして今後の帝国の流行になるんじゃないんですか、ギャンブル弱いドラゴンを探してきて、競輪で接待するっていうの。
さて、なろうドラゴンのプラテスですが、たった100ゴールドの利益だけで、回収率勝負の勝者となりました。
うーん、イージーゲーム。
だからこそ彼は、落ち着いた表情で、しみじみと語りました。
「僕の強みがわかったよ。冷静さだね。卑屈であることは、どんな状況でも客観視できるってことの裏返しだから」
「ええ、それは作家としての強みでもあると思いますよ」
「あぁ、自分の長所を認識したら、僕の青春時代が浄化されていく気がする」
我々の荷物袋から、しゅうううっと、白い煙が立ち上りました。
例の小説を書いてある石板から、臭さが消えたんです。
そう、ついにドラゴンの呪いが解けました。
私は小さくガッツポーズしました。
「やりました、これでペスカータン山のイナズマストーンが、ドラゴンの胃薬として使えるようになりました」
「せっかくだから、山まで送っていくよ。そこでイナズマストーンも食べようかな」
ようやくドラゴンのうんちから、変化したイナズマストーンを回収できそうですね。
というわけで、次回はうんち回です、よろしくお願いします!
*CMです*
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