第112話 競輪は銀行レースになると三連単の払戻金が二倍ぐらいしかない
さて実際にレースが始まりましたよ。
平場のレースなので、7車立てですね。
七人の競輪選手たちが、カスタマイズされた競技用自転車に乗って、ラインを組んで、トラックコースを走っています。
二分戦ですね。三人と四人のラインに分かれて、それぞれの先頭を自力選手が担当しています。
自力選手というのが脚質・逃ないし両の選手のことで、このポジションが風を受けることになります。
陸地を走る競技は、走行集団の先頭が風圧を受けて体力をごりごりに消耗するため、その後ろについた選手たちが体力を温存できる仕組みです。
これをチーム戦のシステムとして実行しているのが、ライン戦です。
よく競馬メインの方々が、競輪はライン戦があって難しいとおっしゃるわけですが、慣れるとそうでもないですよ。
というか競馬はフルゲート18頭じゃないですか?
それと比べたら競輪は平場7車なんですから、必然的に競馬より的中率が高くなります。
しかもライン戦の駆け引きを覚えたら、より的中率が高まるので、圧倒的に当てやすくなるわけですよ。
うーん、みなさんも始めましょう、競輪!
という内容を、私は、なろうドラゴンのプラテスに説明しました。
「うーん、いまいちわからないなぁ。結局のところ、どの選手が有利なのさ?」
「基本的には出走表に書いてある競争得点で比較してください。この点数が高い選手が強いので。ただし信じすぎるのもいけません。コースの得意条件や、その日の体調によって、競争得点の高い選手が負けることもしばしばあるので」
「得意条件はまだしも、選手の体調なんて、どうやって見分けるんだい?」
「レース直前に行われる試走(足見せ)の段階で体調を推測するっていうのもありでしょうね。あとは前検日インタビューで選手が体調について話すこともあります、今日は絶好調とか、調整の段階からうまくいってないとか」
「もう一つ教えてほしいんだけど、ライン戦はチーム戦っていったよね? ならラインを組んだ選手たちのうち、たった一人だけが強くても、チームとして勝てないんじゃないか?」
「その通り。なので注目したいのは、ラインの先頭を走る自力選手の競争得点と体調です。ここが弱いと、どれだけ二番手と三番手の選手が強くても、レース展開についていけなくなるので」
「と、会話してる間に、1レースが終わったわけだけど。ずいぶん配当が安いなぁ」
「はい、一着から三着まで、本命印のついたラインが、そのまま入線しました。これがライン決着です。しかも人気のラインが、そのままワンツースリーで入ってきたので、三連単の払戻金が、たったの200ゴールドですね」
100ゴールド賭けて、200ゴールド戻ってくる計算です。
まるで利益がない。
それだけ硬いレースだったんです。この車券は、まぁ当たるでしょう。高配当を狙った逆張りをしていなければ。
ちなみに私と、なろうドラゴンのプラテスは、普通に当てています。
いやだって出走表を見た段階で、カチカチの硬いレースだってはっきりわかっていたんですから、こんなもん当てても、すごくもなんともないですよ。
そのはずなのに、意地悪ドラゴンのテケアは、うぎゃーっと頭をかきむしっていました。
「外れた!? なんで!?」
むしろどうやって外すんですか、こんな銀行レースを。
ふーむ、逆に興味がありますね。
意地悪ドラゴン・テケアの車券を拝見してみましょう。
……あー、超大穴狙いです。印が一切ついていない選手たちで三連単を組んで、しかも一点買いです。
賭けた金額は10000ゴールド。
すごい、いろいろな意味で。
「テケアさん、あなた、なんでこんな買い方をしたんですか?」
「オッズが高配当だからだ!」
そりゃまぁ利益を最大化したい気持ちはわかりますよ?
でも、これだけ硬いレースで大穴を狙うなら、それなりの材料が必要なんです。
ライン戦が崩れそうとか、本命印のついた選手がケガの後遺症を引きずっているとか、なにかしらのアクシデントが発生して失速するとか。
でも意地悪ドラゴン・テケアには、そんな予測をした形跡がありません。
本当に大丈夫なんですか、この自称エリートのドラゴンは。
と私が他人事ながら心配していたら、意地悪ドラゴンのテケアは、競輪新聞を真っ赤な目で凝視しました。
「今度は硬いレースに大金を賭けて、負けた分を取り返せばいいんだよ。そうすれば俺の勝ちだ」
あー…………これ、まずいパターンですね。
典型的なギャンブルで破滅する人間の口調なんですけど、それがなぜかドラゴンの口から出てきました。
次のレース、いろいろな意味で心配になってきましたよ。
*CMです*
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