第111話 競輪で回収率勝負をしよう!
というわけで、ドラゴンの背中に乗って、競輪場にやってきました。
――おっと言い忘れていました、領主ポンポはさすがに屋敷に戻してきましたよ。だって公務をサボって賭場にいたなんて知られたら、いくら閑職でもシャレにならないですからね。
というわけで、私たちだけがドラゴンの背中に乗った状態で、上空から競輪場を見下ろしました。
アーモンドみたいな楕円形の建物がズシンっと置いてあって、なんだかちょっと食欲をそそられますね。
はい、空腹なんです、保存食のクッキー食べますね、ぽりぽり。
腹ごしらえも終わったので、競輪場に話を戻すんですけど、建物のサイズは競馬場と比べると小柄ですね。
この小ささは武器になっていて、都市部みたいな限られた立地条件でも建設できます。
我々が来訪した競輪場は、まさに帝都の郊外に建設されたものなので、毎日お客さんでごった返していました。
そんな場所に、突然二体のドラゴンが飛来したので、お客さんもスタッフも大騒ぎになりました。
「ドラゴンが競輪場に?」「っていうか、ドラゴンってギャンブルするんだな」「しかも競輪やるんだ、渋い」
衛兵たちが集まってきて、二体のドラゴンに質問しました。
「人里で暴れるつもりではないのだな?」
なろうドラゴンのプラテスが、めんどくさそうに答えました。
「競輪でギャンブルするだけだよ。そのために人間用のお金も用意した」
金貨袋には、ずっしりとゴールドが入っていました。
どうやってこれだけの大金を用意したかといいますと、ドラゴンのおばばが溜め込んでいたんです。
さすがドラゴン族、金銀財宝を溜め込むことが日々の習慣ですね。
それはさておき、衛兵の偉い人は金貨袋で目の色を変えました。
「ほほぉ、それだけお金を使ってくれるなら、我々人間側としても願ったり叶ったりだな。ドラゴン殿の幸運を祈るよ」
お金が儲かるなら、たとえお客さんがドラゴンであっても構わない。
さすが帝国、商魂たくましいですねぇ。
うちの配信のコメント欄も、盛り上がっていますよ。
『ドラゴンが相手でも容赦なくむしりとる。これが帝国スタイルだ』『ギャンブル怖すぎ……』『ざわ、ざわ』
いいですねぇ、もはや視聴者のみなさんも、ギャンブル勝負に慣れてきましたね。
さて衛兵たちが持ち場に戻ったあたりで、なろうドラゴンのプラテスが、私に小声で問いかけてきましたよ。
「いくら君のアドバイスがあるからといって、いきなりギャンブルして当たるものなのかい?」
「大丈夫、競輪のルールに慣れたら、あなたは私より当てられるようになりますよ」
「その根拠は?」
「競輪で行われるライン戦は、選手の性格と人間関係が大きく関わってくるんです。だから小説を書いているあなた向きなんですよ」
キャラの性格と人間関係を突き詰めていくのが創作ですよね。
だから小説家のドラゴンは、人間ドラマでレースが動く競輪向きというわけです。
そんな競輪で回収率勝負を行う相手――意地悪ドラゴンですが、ついさきほど名前を知りまして、テケアでした。
意地悪ドラゴンのテケアは、胡散臭そうに競輪場を見下ろしました。
「競輪は、どんなルールで走っているんだ?」
はい、遊び人である私が説明しましょう。
「競技用自転車でトラックを周回して、一着から三着までの着順でギャンブルします。ライン戦がありますから、実質チーム戦です」
「なんで一着から三着まで決める競技なのに、チーム戦になるんだ?」
「メタな発言をしますと、競輪誕生当初はライン戦がなかったんです。ところがケーイチ・ナカノという天才が勝ちまくりましてね。彼を倒すためにフラワーラインが生まれました。それがきっかけでライン戦が標準化されました」
「なんでラインを組むと、天才を倒せるようになるんだ?」
「ライン先頭の選手が風を受けて、後方の選手たちの疲労を軽減。二番手の選手がブロックを担当して、天才の脚力を削ぐ。三番手の選手が、経済コースであるインを守る。この連携技で天才も倒せるようになりました」
「一着を争う競技のはずだが、それだとライン内部の選手と、どうやって一着争いをするのだ?」
「最後の直線前後からライン戦が終わって、そこから個人戦になるんですよ」
「地味に難しいな。やっぱり競馬で勝負したほうがよかったんじゃないか?」
「慣れてしまえば、競馬より競輪のほうがわかりやすいんですよ。なんにせよ、まずは一度賭けてみましょう。そうしないとなにも始まらないので」
というわけで一発目のレースいってみましょう。
*CMです*
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