第109話 ドラゴンのおばばに聞け
私たちは、石板になろう小説を書いたドラゴンの背中に乗ると、ドラゴンの拠点に向かうことになりました。
ちなみにドラゴンたちの生態系ですけど、少数の群れに分かれて暮らしているみたいですね。
ただし群れの形は曖昧であって、あくまで名義だけ拠点に所属している形で、実際に暮らしているかどうかは個体によりけりだとか。
なろうドラゴンに関しましては、おもしろい小説を書くために世界中を旅しているから、拠点に戻ることなんて十年に一回ぐらいだそうです。
やっぱりドラゴンの時間間隔って、寿命が長い分、人間とかけ離れていますね。
さて、そんなドラゴンたちにも種族としての判断が必要になる場面もあるわけで、そういう大事な意見を決める拠点にドラゴンの知恵袋が滞在しているみたいですね。
それは極北の寒冷地にありました。
「寒い! 一時間ぐらいで凍え死ぬレベルですよ、これ!」
気高い山に、ドカンっと雪が積もっていて、針葉樹林が真っ白に染まっていました。
あまりにも寒すぎて、吐息が凍りそうです。
いやはや防寒装備なんて持っていない我々にとっては、絶対に近づきたくない難所ですよ。
僧侶のレーニャさんは「へくしょんっ」と、くしゃみをしました。
「寒いなんてレベルじゃないわよ、さっさと用件終わらせて地元の街に帰って暖炉で暖まりましょう」
大賛成です。暖炉で暖まって、温かいコーヒーで体内もぽっかぽかにしましょう。
戦士のシーダさんは、はぁと白いため息をつきました。
「いくら短時間の滞在とはいえ、こんな極寒地帯にやってくるとわかっていたら、せめて厚手のコートぐらい用意したのに」
そうなんですよね、我々てっきり近場の山に拠点があると思っていたので、まさか遠く離れた雪山だと思わなかったんですよ。
武道家のシーダさんは、しゅっしゅっとシャドーボクシングしました。
「この寒さに耐えることもまた修行」
それってただの強がりじゃないですか、実際ぶるぶる震えていますし、いまにも凍え死にそうですし。
なお領主ポンポは寒すぎて「し、しぬぅ……」とガタガタ震えるばかりで、ほとんど喋れなくなっていました。
まぁ普段閑職やっているせいで筋肉量落ちているから、若くて冒険者である私たちより圧倒的に冷えちゃうんですよね。
なろう小説を書いたドラゴンは、ぽりぽりと頬をかきながら、我々に釈明しました。
「ごめんごめん、人間が寒さに弱いことを忘れてたよ。人間と一緒に行動することなんてまずないからね」
ああ、ドラゴンは寒くないんですか、こんな険しい雪山であっても。
まったくもって羨ましい肉体ですねぇ。
私もドラゴンぐらい強ければ、それこそ勇者パーティーみたいな活躍をしたのに。
と思ったんですが、やっぱり撤回です。勇者パーティーみたいな強い肉体があっても、お金儲けに全力をつくしていた気がします。
そんな私事なんてどうでもいいので、さっさとドラゴンの拠点に入りましょう、寒くて寒くて耐えられないんです。
どうやら拠点は亜空間にあるらしくて、雪山の側面になろうドラゴンが近づいたら、ぼわんっと入り口が開きました。
亜空間内部の様子ですけど、コケだらけの洞窟が広がっていて、まるで寒さがありません。
どうやらドラゴンの魔法で過ごしやすい温度に保たれているようです。
ドラゴンの魔法って、ただ強力なだけじゃなくて、不思議な効果まで付属しているんですね。
そんな不思議拠点の奥には、しわしわの年老いたドラゴンがいました。
こちらがドラゴンの知恵袋でしょう。いかにも賢そうな顔つきです。
領主ポンポは、寒すぎてもドラゴンの知恵袋に会えた喜びが勝っているらしく「ありがたや、ありがたや」とぶるぶる震えながら拝んでいました。
さてドラゴンの知恵袋である年老いたドラゴンですが、私たち人間にはそこまで関心がないらしく、なろう小説を書いたドラゴンを懐かしそうに眺めました。
「おやおや、プラテスの坊やじゃないか。小説のネタ探しで、ここにきたのかい?」
どうやらなろう小説を書いたドラゴンの名前は、プラテス、らしいですね。
そのプラテスは、年老いたドラゴンに説明しました。
「ドラゴンのおばば、小説の話題と重なるんだけど、実はこんなことがあってね――」
石板になろう小説を書いたら、ドラゴンの呪いが発生してしまった。
まったくもって摩訶不思議な現象ですよ。
でも、ドラゴンの知恵袋であるおばばにとっては、ありふれた現象らしく、すらすらと教えてくれました。
「それはプラテス坊やの自信のなさと卑屈な感情が生み出した呪いさ。それを解消すれば、おのずと呪いは解けるんだよ」
ほほぉ、そんな原理になっているんですか。やっぱりドラゴンの魔法は不思議ですねぇ。
ちなみになろうドラゴンのプラテスは、不服そうに眉間にシワを寄せました。
「そんなこといわれても、僕はドラゴンとしてなんの取り柄もないし、どうやって自信のなさを解消すればいいのさ」
「あんたの書いた小説は結構おもしろいけど、それだけじゃダメなのかい?」
「小説を褒められるのは嬉しいけど、なにか一つ個性が欲しいんだよ。だからいまも世界中を放浪してる」
個性が欲しい。
曖昧な願いですが、自信を喪失していると、そうなりがちなのはよくわかります。
私は腹黒ですが、それ以前に一人の若者ですからね。
でもどんなことをすれば、個性が手に入るんでしょうね。
とくにドラゴンにとっての個性が。
そんな青臭い話を邪魔するように、もう一体のドラゴンが拠点にやってきました。
「魔王監視の定期報告にやってきたら、なんだ弱虫プラテスがいるじゃないか。いったいなんの用だ?」
うわぁ、いやらしい感じのドラゴンがきましたよ。
なんていうか、学園ドラマでヒエラルキーを利用したマウントを同級生に取っていそうなやつが。
*CMです*
ドラゴンのおばあちゃんが目印の【ぽたぽたクッキー】です。
ドラゴンの知恵袋が監修しているので、歴史の風化に耐えられる病みつきの味に仕上がっています。
かりっとした噛み応えが自慢で、ほんのちょっと咀嚼すれば、あまーい砂糖の味が広がります。
人間だけじゃなくて、ドラゴンも喜んで食べるお菓子、ぽたぽたクッキーをご家庭に一缶どうでしょう!?