第102話 勘の鋭いやつほどめんどくさい
一夜明けまして、早朝からペスカータン山に戻ってきました。
他の冒険者たちは、いくらキャンプで粘り込んでも、ドラゴンがイナズマストーンを食べにこないことに、業を煮やすようになっていました。
たとえば、とあるパーティーは「もう諦めないか? こうやってグダグダやってる間に、他のクエストをクリアすれば、もっと儲かったはずだし」と諦めムードです。
ふーむ、まぁたしかに機会損失ではあるんですよね。いくらVITで配信していても、まるで見せ場がないせいで、ロクに視聴者集まらないですし。
かくいう我々の配信だって、一部の熱心な固定客が集まってくれただけなので、同時接続数は250人前後ぐらいです。
実際、コメント欄の雰囲気は、こんな感じでした。
『ドラゴン出てこないんじゃん』『ドラゴンのウンコまだー?』『ただの都市伝説だったんじゃないの?』『恋人とか結婚とか都市伝説』『VIT引きこもりやってないで、ちゃんと外に出て他人と交流しろ』『うるせーばか』
リスナー同士のバトルが発生するぐらい、本当になにもイベントが発生しないんですよ。
しかし忘れてはいけません。
我々は、なぜこの山のイナズマストーンが、悪玉菌で発酵して臭くなったのか調べないといけないので。
これは大事なヒントですから、他のパーティーに知られないように、こっそり行動しましょう。
もちろんVITの配信カメラにも、山の風景ばかり映して、まるで我々が暇を持て余して、ハイキングを始めたと勘違いさせないと。
情報の鮮度は大事。それは独占することで、なお価値が上がるわけですね。
というわけで、さっそくイナズマストーンの臭さの原因を調査しようとしたら、見慣れたパーティーが新たにペスカータン山にやってきました。
吟遊詩人ジェナーディのパーティーですよ。お色気パンツ配信で有名な、あの美少女軍団です。
相変わらずムカツクほど見た目がいいですね。なんですかあのキラキラした顔と、ナイスバディは。
くわー! 神様は不公平です!
「あら、腹黒ユーリューさんじゃありませんか。勇者パーティーに寄生して、うまくやってるようですが、視聴者はわたくしたちのほうが多いことをお忘れなく」
うるさいですねぇ。私たちの配信は、これからもっと伸びるんですよ。
と感情的に言い返したいところですが、現在の我々は秘密行動の真っ最中なので、ジェナーディたちを追い払わないといけません。
だからこういう嘘をつきました。
「ジェナーディにしては、情報の鮮度が悪かったようですね。どうやらドラゴン伝説は、ただの迷信だったみたいで、うちのパーティーもふくめて、あらゆる冒険者たちが、そろそろ切り上げようかと考えてるところですよ」
嘘に説得力を持たせるためには、ひとつまみの真実が効果的ですよ。
他のパーティーたちは、キャンプをたたんで、本当に帰ろうとしていたので。
しかしジェナーディは、ちょっとだけ子供っぽい顔で、山の頂を見上げました。
「ドラゴン伝説は本当にある。わたくしはそう信じていますわよ」
「おや、意外ですね。ロマンチストだったんですか?」
「だってカッコイイではありませんか、ドラゴンという特別な生き物は」
へー、こんな一面があったんですね、おパンツ配信のリーダーには。
でもリーダー以外のおパンツ要員である多様な美少女たちは、ぽけーっとした顔で帰りたそうにしていました。
はい、ジェナーディ以外は、まるでドラゴン伝説を信じてないですね。
ということは、ジェナーディ以外の『山登りなんてしたくないマインド』を刺激すれば、穏便に帰ってくれるんじゃないですかね。
私は、ひとりの美少女メンバーに声をかけました。
「他の冒険者たちがモンスターを退治してくれましたから安全とはいえ、撮れ高は期待できませんから、山登りで疲れるより、いますぐ帰ったほうがいいんじゃないですか?」
「うるさい、話しかけるな、ブス」
「な、な、なんですってこのやろう!」
珍しく感情的にぶちキレてしまったわけですが、そのせいでジェナーディーに感づかれました。
「ユーリュー、ユーリュー、腹が黒くて、打算的なあなたが、つい感情的になったということは、冷静ではいられないほどの有益な情報を隠し持っているということでしょう?」
かー! やっぱりこいつ鋭くてムカツキますねぇ!
さてどうやって情報を隠し通しましょうか?
といったところで次回に続く!
*CMです*
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