第100話 情報の鮮度に気をつけましょう!
フンまみれになったイナズマストーンを探すために、ペスカータン山にやってきました。
この山ですが、皿を裏返したような形をしていて、標高はそこまで高くありません。
一見すると登りやすそうな山ですが、モンスターの生息地ですから、ハイキングには向いていません。
まぁドラゴン伝説が残っている山を一般人が上るはずもないので、そんな心配をしても無意味ですけどね。
なお山の入り口から配信をつけますよ。だってもう社会奉仕活動は終わりましたから、ここからは配信者として広告収入を稼がせてもらいますからね。
というわけで、私はVITのカメラに向かって挨拶しました。
「視聴者のみなさん、おはようございます。本日は朝から山登りです」
コメント欄も朝から元気でした。
『おはよう、ユーリュー』『今日は山登りかよ。大丈夫なのか?』『そこってドラゴンが飛来した伝説がある山だろ?』
コメント欄の視聴者ですら知っているので、ありふれた伝説なんですよね。
そんな背景があって、レアな食材ブームとなったら、もしかして私たち以外にもイナズマストーンの正体を知っている冒険者がいるんじゃないですか?
はい、この予感は的中でした。
すでに複数のパーティーが、ペスカータン山を散策しているんですよ。
山の出入口付近にはキャンプが設営されているし、モンスターを退けるための篝火も炊いてありました。
私は、いろいろ察しました。
「詐欺師のゼランですけど、クエスト手配師のくせに情報収集するのが遅すぎて、イナズマストーン関連の情報は鮮度が落ちきっていたんでしょう。そんなもので儲けようとするんですから、なんてセンスのないことでしょうか……」
きっとイナズマストーン関連の情報は、二週間ぐらい前から出回っていたんでしょう。
それなのにゼランは今週になってようやく情報を手に入れたから、お買い得情報ではなくなっていたわけです。
となると、ゼランの弟である有料クエスト手配師・ゴロンも、イナズマストーン関連の情報を知っていたことになります。
たとえペスカータン山に登ったところで、すでに他のパーティーが荒らしたあとだと。
なぜそれを我々に教えなかったかというと、領主の館を清掃させるためですね。
くわーっ! なんてずる賢いやつでしょうか!?
私を腹黒バトルで負かすなんて、まったくもって気に食わないやつです。
僧侶のレーニャさんは、他の冒険者たちを観察すると、ふーんっと鼻を鳴らしました。
「これだけ冒険者が、うじゃうじゃいるなら、とっくにモンスターをかたづけてあるはずでしょ。なら、用心棒を雇わずに、あたしたちだけで冒険しても問題ないわね」
たしかにそうですね。情報の鮮度が落ちたがゆえに、先駆者たちが安全を確保したあとですから、我々にとってはちょうどよかったのかもしれません。
戦士のアカトムさんは、空っぽの宝箱を指さしました。
「安全になった代わりに、お宝も空っぽってわけだ」
それは実に残念ですが、イナズマストーンで儲けられればいいし、最悪配信が盛り上がって広告料が入ればいいので、そのあたりは前向きに行きましょう。
武道家のシーダさんは、草むらをかきわけました。
「タンポポが食い荒らされてるが、これは獣の仕業じゃなくて、人間の摘み方だ。きっと食用の山菜を現地調達して食べているんだろう。長期滞在の食費を浮かすために」
モンスターの生息する山の山菜が食い荒らされているとなれば、とんでもない人数の冒険者が攻略中というわけですよ。
私は適当な岩によじ登ると、周囲の冒険者たちの人数を大雑把に測りました。
「いやはや百人以上いますよ。これだけ大量の冒険者が山を攻略しているのに、まるで発見報告がないってことは、もしかしたらドラゴンさん、最近この山に来てないかもしれないですねぇ」
僧侶のレーニャさんは、山の斜面を見ました。
「イナズマストーンは、いくらでもあるんだけどねー。ドラゴンが食べた感じはしないもんね」
戦士のアカトムさんは、足元に埋まっているイナズマストーンを木の棒で突きました。
「コケだらけだし、かじりついた形跡もないし、本当にドラゴンはこの山にこなくなったみたいだね」
武道家のシーダさんは、イナズマストーンの匂いを嗅ぎました。
「これ、なんか臭くないか? 街中にあったやつと違って」
えっ、臭い石ですって?
もしやドラゴンのウンチの匂いとか?
私たちは全員でイナズマストーンを嗅いでみました。
ひえっ、くっさーいですね、本当に。
ただしフンの匂いではありません。
硫黄と発酵した牛乳を混ぜたような匂いが漂っています。
ただし、そこまで強い匂いではないです。もし強い匂いでしたら、山全体がこの匂いで包まれているはずですから。
謎が増えましたね。
なんでこの山のイナズマストーンだけ、こんなに臭くなったんでしょうか?
領主の館の裏手にあったイナズマストーンは、そんな匂いまるでしなかったのに。
この謎を解くためには、ペスカータン山の臭いイナズマストーンを回収して、街に戻ったほうがよさそうですね。
きっと領主ポンポは、この手の情報に詳しいはずですよ。
だってあの人が、イナズマストーンはドラゴンの胃薬って教えてくれたんですから。