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5回目の世界から抜け出し、最弱令嬢を幸せにする守護精霊の奮闘記

ただ物語の伝達役に選ばれてしまっただけの一般人白崎真幌です。本当に一般人なので、私のことを知りたい人は、twitter『白崎(@amonguslovers)』を。そうです。私は残念ながら作家ではなく、別世界で起きていることを伝えてもらい、それを頑張って書いているだけなのです。


私も精霊さんから情報を聞きつつ、なんとかループから逃れる方法を提案できたらいいなと思っています。5回目って結構しんどいみたいで精神的にも参っちゃうそうです。聞いているだけで心苦しい。ちょくちょく、私が精霊さんに聞いた内容を無理やり混ぜ込むとかしてるので、一言一句精霊さんの言葉というわけでもないです。覚えておいてください。


私ができることはこれを一人で多くのひとに届けることなので頑張ります。1つでも反応があればどんどん続きを書いていこうと思うので、応援よろしくお願いします!



 この世界では珍しい、紺青の瞳。噂に違わぬ美貌を前にして、第一に彼女が思ったこと。

『この人間は平気で自分を殺すのだろう』

 本人は気づいていなかったそうだが、この時の彼女は。クスリと笑みを溢していた。


「どうだったの? 噂の王子さまは」

 興味津々といった明るい声。「彼」よりも遥かに緑色を携えた青碧の瞳を瞬かせるのは、シュリエ・サリア・フォワル。瞳の色よりもさらに淡い緑で肩くらいの長さの髪の毛は、ゆるく巻かれている。茶会のために用意した桜の花びらに似せた色合いのドレスは、胸元に映える純白のコサージュと合わせて春のやわらかさをイメージさせ、かわいらしく見える。また、ほとんど露出のない装いだが、唯一白いグローブが透けているのは誰から見ても色気があり、可愛さと大人っぽさを兼ね備えている。

「やっぱり、かっこよかった?」

 猫目がきゅっと細められる。シュリエはこの手の話に目がない。その目の前に座っているショコラ色のストレートヘアが印象的な女性は、少し肩をすくめて軽く頷いた。彼女は先程の『噂の王子様』との対面での緊張から解き放たれ、随分とリラックスしている。

「噂通り。良くも悪くも」

「えー、じゃあ、身長が百八十くらいの細身で、サラサラの黒髪、紺青の瞳、筋の通った鼻、薄く血色の良い唇! 全部本当なのね! 個々のパーツも最上級で、透き通った顔立ちはこの国で一番美しいとか」

 シュリエはうっとりした表情を浮かべる。次々に出てきた「彼」の情報と、実際の姿を彼女は頭で比べてみる。よく言い表している、と感心した。一度会っただけだが、すべてに同意できるようでまた軽く頷いた。しかし。

「『もう一つの噂』も恐らく本当」

 彼女はどこか他人事のように呟く。それまで夢を見ているような笑みを浮かべていたシュリエはその一言でふっと表情を消すと、深刻そうに頷いた。


 珍しい、当たり前なのだ。紺青の瞳は王家の血筋のものだから。

 宝石のちりばめられた豪華な椅子に腰かけた男は、つまらなさそうな表情で目も合わせずに唇を開いた。

「おまえが、例の者か」

 王族に逆らえば死。『例の者』と呼ばれた彼女はこの国で最も重要とされる法のうちの一つを思い浮かべながら、恭しく頭を下げる。

「お初にお目にかかります。挨拶が遅れてしまい申し訳ありません。わたくしがミリア・ロルド・ルイーニです」

 彼の許しが出るまでドレスの裾を両の指で摘み、頭を下げ続ける。ミリアから表情は見えないが、ピリリとした空気があたりに張りつめているのがわかる。時間としてはほんの数秒のことだったらしいが、そのときの彼女にとっては1時間のようにも思えたそうだ。

「そんなに畏まらなくていい」

 興味なさげな少し低めで厚みのある声を頭上から掛けられ、ミリアは時間をかけて顔を上げる。サラサラとショコラ色の髪の毛が揺れた。そして顔をあげると目の前には、こちらを値踏みするような男の表情があった。その顔立ちは、これまで会ってきた何人もの人間たちとは比べられないほど美しい。なんだか作り物のようで、心が薄い不快感で染みる。

 男は唇に薄く弧を描き、興味深いとでも思っているかのような表情を浮かべる。表情の調節がうまいのだろう。女性という枠組みだけを重視した、マニュアル通りの対応を見ている気分になる。

「それで」

 鋭く息が吐かれ、少し低めの声が周囲に響く。貫くような冷たい視線が向けられたが、それを断ち切るようにミリアはこくりと頷く。男の気分を害さないようにミリアが空気だけで先を促すと、形の良い唇が再び開かれた。

「念の為、契約書の内容を再確認しておきたい。手違いがあっては困るからな」

「もちろんですわ」

 ミリアが間髪入れずに書類を取り出すと、その豪華な椅子の前に跪き、失礼に当たらないように書類を差し出す。長い年月をかけて作り上げられた『契約書』。今回の契約者に見せるのはこれが初めてだ。

「何か不備がありましたら……」

「いや、これで十分だ」

 ほんの数秒で全ての文章に目を通したことへの驚きは表情には出さず、返されたそれを丁寧に受け取る。

「今日の午後5時。5時間後に迎えを寄越す。それまでに用意は済ませておくといい」

「わかりました」

「5回目の結婚なら、なんの心配もいらないな」

 帰り際にかけられた、皮肉めいたその言葉を最後に、また堅苦しい別れの挨拶をして部屋を出た。扉前で待機していた従者に送られ、そして今に至る。


「ミリアがあと3時間でお城に行っちゃうなんて悲しい」

 シュリエは眉を下げ、指先で涙を拭う仕草をしながら大げさにリアクションをとる。『もう一つの噂』について何も触れないのは優しさだろうか。そんな気遣いがミリアはうれしかった。

「貴女に、この手紙を」

 白い長封筒には『契約書』と同時並行で書き進めた、ある『お願い』の書かれている手紙が入っている。賢い友人はそれを目の前で開けずに、遠くの護衛を呼びつけて預ける。

「ミリア。もし私の方で何か見つけたらすぐに知らせるから、その時は」

 帰ってきて。

 息を吐くように告げられた言葉。彼女はそれでも儚く笑うから、なんだか胸が痛くなる。彼女も当然わかっているが、それは自分には到底叶えられない願いだ。ミリアは曖昧な笑みを浮かべて首を振ることしかできなかった。

 2人だけの茶会が終いになると、シュリエはミリアを家まで送り届けた。馬車で十五分もかからずに着くのは相当の近所だということなのだが、その付き合いも今日で終わりだ。ミリアは再度王城へ行くため、約束の時間まで身だしなみを整えた。一度着たドレスを着ていくのは失礼にあたる。侍女にお願いをして、薄浅葱と白縹での二色が基調となっている淡いドレスを身に纏った。胸元に大きめのリボンがついており、ふんわりと広がっている袖やキュッと締められた腰回り、そこから広がるボリュームあるスカート部分にはそれぞれ煌びやかな装飾が施されている。大半は薄浅葱が占めており、スカートの中部分のティアードや、ところどころあるフリルの部分が純粋な白ではなく、少し青みを含んだ白、白縹で飾られているこのドレス。やや控えめにも見えるが、本来この色合いはよほど大事な場面でしか身に着けてはいけないという暗黙のルールがあるから、王城へ行くには丁度良い。最後に、一般には茶色と呼ばれる色合いよりも薄く赤みがかかったショコラ色の髪の毛の、両サイドを編み込み、綺麗に整えてもらう。ミリアが掛け時計にふと目をやると、かなり時間が経っていた。身支度もそこそこに、屋敷を出る準備をする。別の侍女に頼み、荷物を一階へ運んでもらった。

 午後5時ちょうどのタイミングで、屋敷のベルが鳴らされた。

 侍女が扉を開けると、この国で一番豪華であろう馬車が装飾品により光を反射させながら、屋敷の前に到着していた。その馬車の前に、気品のある背の高い老人がこちらを向いて立っている。その老人はミリアを目に留めると、頭を軽く下げた。

「ルイーニ様。この度王宮までお送りさせていただく、フクル・アルア・ルームドでございます。ルームドとお呼びください」

「ありがとうございます。お言葉に甘えましてルームド様と。お城までの道のり、どうぞよろしくお願いいたします」

 話している間に、馬車に荷物が運ばれたようだ。付近に待機していた護衛騎士に手を借りて普段より足場が高い馬車に乗り込むと、タイミングを見計らったようにゆっくりと馬車が動き出した。そこでようやく息をつく。

 馬車はきっと最速で走っているが、それでも王城までは30分かかる。その間にこれからの過ごし方を整理しておこうと、手荷物から『契約書』をおもむろに取り出した。

『第一に、この契約書は依頼主(今後甲)とミリア・ロルド・ルイーニ(今後乙)が対等な関係であることを約束する。一方の命令をもって他方を制限することはできない。

 第二に、この契約書は甲と乙の婚姻関係が『誓約魔法』で結ばれて以降、効力を発揮する。

 第三に、甲と乙の婚姻関係は一年とする。その後は両者(甲と乙)が望まない限りその婚姻を破棄する。又、乙が自身の『守護魔法』を解除しない限り、乙の純潔を奪うことを断固禁ずる。

 第四に、『誓約魔法』で婚姻関係を結んでいる間は、甲は乙に最低限衣食住を与え、乙は甲の助けになることを行う。その条件の詳細は甲と乙で話し合って定めることができる。その際は『契約魔法』にて新たに定めること。

第五に、甲は乙に報酬として……』

 長々と続く契約書。ところで、この世界、離婚というものは通常できない。なぜなら『誓約魔法』を解除するのは本来不可能だからだ。しかし、世界で唯一、ミリアだけが解除可能であった。そして、ミリア・ロルド・ルイーニは今回で5回目の妻となる。


5回目というのは、5人目という意味でもあるが……あの男との結婚が5回目、ということでもある。


 おっと! そういえば、自分が誰かって話をしていなかった。王城へ着くまでの30分でミリアは心の準備をするだろうし、その間に少しだけこの世界のことを説明しよう。


 簡潔に述べると特徴は4つ。

 1つ目は、この世界の選ばれし500人には守護精霊が宿ること。その条件は何かしらの『欠落』。優れた人間ではなく、何かが欠けている人間を補うために自分がいる。そして守護精霊は何かしらの能力をもつ。それに関して説明しているとあっという間に王城へ着いてしまうため、自分は『意識』に特化している。ちなみに、500体の守護精霊の中で、『意識』に特化していなければそもそも自分を精霊だと認識できない。自我がないということだ。そして、精霊の持つ能力は平均して5つだが、自分は『意識』しか持たない。つまり、自身を精霊だと認識している中で、自分は最弱。その分伸びしろは大きい。

 2つ目は、ミリア・ロルド・ルイーニの『欠落』についてだ。本来、貴族であろうと平民であろうと誰もが魔力をもち魔法を使う。しかし、ミリアには魔力がない。0だ。人間として、いや、生物として最弱である。彼女もきっと伸びしろは大きいはずだ。

 3つ目は、この世界が5回目のループに入っているということだ。人間はこの現象に気づかないが、精霊たちの間では大きな問題となっている。また、その理由は解明していないが、自分はミリアが原因なのではないか、と思っている。その理由は、そう遠くないうちに話すとしよう。

 4つ目は、なぜ君たちの世界にこのような情報を送っているかということについてだ。

 自分は『意識』能力を最大限使い、ほかの世界の人間となんとか交渉することができた。それが日本という国の白崎という人間だ。こちらの情報を伝え、発信してもらっている。それはなぜか。

 実は、君たちの知恵を借りたい。5回目も世界がループしている理由、自分はミリアにあると思っているが、どうすればいいのかお手上げの状態なのだ。これだと思ったものがあれば、ぜひ教えてほしい。もちろん、自分も今回のループで手がかりを見つけてみせる。


 おっと!そろそろ王城に着きそうだ。しばらくしたらまた状況を伝えよう。ではまた。


 白崎が伝えているこの物語は。ミリア・ロイド・ルイーニの守護精霊ユルロアが、彼女を助けるお話にしてみせる。


 そう白崎が思うのと、ユルロアが白崎にしばしの別れを告げたのは実に同じタイミングであった。


 


ープロローグ完ー

まだ続きます。

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