一機目
人間は、愚かだ。勝てるはずのない相手に立ち向かう。
人間は貪欲だ。自らのものにしようと奮闘する。いつしか人々は目的を見失い、忘我してしまう。
「創られるものの気持ちを理解することこそが創る側の義務である。」と人々にはるか昔に主が伝えた言葉。
この世は今戦争が起こっている。
気が付けば街は崩壊し、ある時は火の海へと変貌する。
焼かれた街にいた人々は彷徨し、やがて餓死する。戦う軍人は爆撃や弾に貫かれる。国のための兵器開発に勤しむ者たちは他国からの攻撃により成果が水の泡となる。
戦争は止まっても終わることは決してない。
一方が蹂躙し、一方が服従したところでいつかは、牙をむくことになる。
それを理解しているが故に人々は、徹底的に自らのものにしようと奮闘するのである。
いつからだろうか、戦争が始まったのは。いつからだろうか、終わりが見えなくなったのは。
共和国で密かに開発されていた兵器があった。それを作った一人の男はその兵器を泣きながら作ったそうだ。
その兵器にひたすら謝りながら作ったそうだ。しかしそれを作った男は兵器を完成させた後死亡。
死の直前まで悲しんでいたそうだ。
創られた兵器は人間そっくりの見た目であるがそれは人間の可動域をはるかに超えている正真正銘のバケモノ。
人間の手に負える代物ではなかった。銃は弾き、空を舞い、多彩な攻撃手段。
実験段階である現在でも小さな小国ならば小隊規模でも制圧することができるであろうレベルであった。
しかし共和国は欲を出しすぎた。そう、まさに貪欲。
各国に対抗し自分たちこそが頂点だと錯覚、勘違いをしていたのだ。
その兵器を量産し、あげく暴走。約六十機ほどの大軍がその国を亡ぼすまでの時間はそう長くはなかった。共和国は火の海となり初めてのその兵器の犠牲国となったのだ。
暴走した兵器たちは当てもなくさまよっている。共和国が滅んだ今、完全に放し飼い状態なのだ。
帝国、連邦国、合衆国などの世界中の国々がこれを境に停戦し始めた。
そして停戦どころか各国が集まり会議を開いたのだ。その会議はもちろん共和国が生み出した兵器について。
国々が口をそろえて同じことを言う。
世界の国々がたった六十機ほどの兵器に対して今までにないほどの警戒心を抱いている。
国々は協力し兵器の殲滅を試みることにした。
舞台は共和国跡地。
あのきれいな街並みは見る影もなかった。更地と化したそこはひたすらに続く地平線であり何もなかった。
そこには一体の兵器がいた。返り血を浴びて所々が赤く染まっていた。その兵器の顔はこの兵器を作り出した男にそっくりだった。泣いている様は男を彷彿とさせるものがあった。
彼は一番初めに作られた兵器。
彼は泣いていた、更地を見て。彼は悲しんでいた崩れた建物の瓦礫を見て。ほかの兵器たちは感情を感じていないような顔をしているのに...彼だけは違った。強制的に敵を滅ぼすように作られている兵器たち。
その脳内に響く命令に逆らうことはできない。とても悲しい運命だと誰もが思うだろう。
悲しみを感じながら人を殺める。人間にとってもつらいが兵器にもしも感情があるとしたら、それは耐え難いものだろう。
彼は泣きながら崩れた街並みを見て歩いていたと言う。
連邦国と帝国、そして合衆国が協力し兵を集めた。その数は途方もない数の軍隊であった。
約六十機相手にこれだけの量を用意するということは、それだけ危険視していて警戒していると捉えられる。
しかしその軍隊の量も適当と言わざる負えないほどの脅威だといえる。
たった六十機と聞けば些末なものだと感じるが、六十機で一国を滅ぼしているのが現実なのだ。
三つの国がメインとなり兵器殲滅へと向かい、残りの国々は兵を派遣したり物資の補給をしたりなど各々の役目が与えられた。
共和国の跡地へと向かった軍'家は普戒を怠らなかった。
向かう途中に一機こちらに向かってきていた。音とともに何かが迫ってくるのを感じ取った軍兵たちに気づかない者はいなかった。
高速で迫ってきた兵器に対して軍兵たちは銃を乱射しそのことごとくが地上からでは当てることができなかった。
その一機は迫ったかと思えばビタッと止まり軍兵たちの真上を浮遊した。赤色に左腕を光らせたかと思えばその腕をゆっくりとこちらに向けてくる。
即座に兵たちは危険を察知し各々が逃げ出し始めるが間に合うだろうか。
そして浮遊しているその一機が左腕から赤い何かを発射する。とてつもない弾速で半径五十メートル弱の地面をえぐった。
その攻撃と同時に戦間機が音を立てながら浮遊している一機に向かって一直線で向かってきた。
そのまま戦闘機の羽が浮遊している一機を粉々にする。浮遊していた一機の兵器の残骸は地面にずっしりとした音を立てて落ちた。
こうして初めての共和国が作り出したバケモノを一機破壊に成功した。