87.これからの事
「お父さんも……色々あったのね……」
先程の態度を反省しているのだろう。
少しシュンとしているアリー。
高圧的な態度をしてしまったからな。
しかし、それで怒るようなガイさんではないだろう。
今の話を聞いた限り、家族への愛は忘れてはいないようだ。
俺が愛を語るなどかたはら痛い所だが。
話を聞いていたらなんだか語りたい気分になってしまった。
愛情に満ち溢れている人なんだな。
「あぁ。アリー、すまなかった。戻らなかったのは自分の判断だ。今考えたら、別にルリーを連れて帰ればよかったのかもしれない」
「ううん。こっちの村の人もいい人たちだったのね。ベルンみたいに……」
「そうなのだ。みんないい人たちでな。いつからか離れたくなくなっていた」
ガイさんも申し訳なく思っているんだろう。
下を向いて俯いている。
それはアリーも同じ。
パンッ
静寂に響く手を叩く音。
それを鳴らしたのは俺だ。
「暗くなるのはやめましょう。アリーもガイさんが生きていて一先ずよかったじゃないか」
「うん! そうですね!」
「それで、これからなんですが、ガイさんはベルンに戻りますか?」
質問を投げかける。
これまでの話と今のガイさんの状況だと……。
「戻れない」
「どうして!?」
アリーが声を荒げる。
ガイさんはおそらく……。
「俺に似ているらしい兄を放ってはおけない。この国を潰そうとしているらしい」
「そんなのお兄さんかわからないじゃない!」
わからないんだろうが。
半ば確信があるのだろうな。
何か、直感のようなものが。
「わからないが、兄かもしれない。会ってみたい気持ちがないわけでもないんだ」
「そんな!?」
「アリー、かもしれないという情報で会ってみたい気持ちを抑えられないという部分は、わかるんじゃないか?」
そう。
今回のガイさんが生きているかもしれないと知らされた時と同じような心情ではないだろうか。
まぁ、あの時よりはずっと不確かかもしれないが。
「!?……そう……ですね。私もそうでしたものね」
「だろう? それで冒険者にまでなったんじゃないか」
「それが信じられんのだ。それは本当か!? アリーが戦えるのか!?」
信じられないだろうな。
こんなに可愛らしくて華奢なんだから。
でもね、ガイさん。
アリーは強くなりましたよ。
ガイさんに会いたいという一心でね。
「手合わせしてみる?」
アリーが挑戦的な問いかけをする。
その目は好戦的だ。
「ほう……少しやってみるか」
少し嬉しそうに受け入れる。
楽しみなんだろう。
外に出て行ったガイさんを追うようにみんな外に出た。
周りは何が始まるのかとザワザワしている。
二人は向かい合う。
ガイさんは武器を持っていない。
向かい合っているアリーは杖を手にしている。
それぐらいのハンディは必要だと言いたいのか。
「素手で私の相手をするの?」
「すまんが、十分だ」
アリーの顔が苦虫を噛み潰したような顔になる。
可愛らしい顔が台無しだ。
そんな顔をしないでくれ。
アリーに申し訳ないが、ガイさんの実力はおそらく、俺と同等。
素手くらいが丁度いいだろう。
なめられているようで気に入らないだろうが。
「ふんっ! あとで言い訳しないでよね!?」
いつからそんな強気なセリフを吐くようになってしまったのか。
俺が悪影響を与えているとしたらガイさんに申し訳ない。
そんな気持ちは露知らず。
ガイさんはニヤリと獰猛な笑みを浮かべる。
戦士として気持ちが高揚しているようだ。
クイッと手で合図をする。
かかってこいと挑発している。
「はっ」
杖の先端での突きを喉に放つ。
えげつないその一撃をバックステップで躱す。
流石に反応が早い。
追撃で持ち手の部分を下から振り上げる。
これも冷静に横に避け。
ジャブを放ってきた。
「くっ!」
咄嗟に杖で受ける。
が、少し後ろに飛ばされる。
やはりパワーが違う。
「エイヤァ!」
後ろに吹き飛ばされたことを利用し、大きく踏み込んで最初より鋭い突きを放つ。
「がっ!」
この速さには反応が遅れ、耳を掠めた。
驚いたように目を見開いている。
「まだまだぁ!」
続けざまに杖の真ん中を持ち、振り回すことで攻撃する。
少しずつ受けている腕に傷ができる。
ガイさんの目がギラッと光った。
ここまでか。
「うらぁぁぁぁ!」
両手で杖を吹き飛ばし、勢いで腕を振り上げて拳を振り下ろしてくる。
「そこまでです」
俺は魔力を練った右腕でその拳を受け止める。
アリーは腕で頭を覆って衝撃に備えていたようだ。
こちらを見ると、抱き着いて来た。
「アリー、どうした? 大丈夫。なんともないだろう?」
「うん。ちょっと恐かったんです。少しこうしてて」
胸に抱き着いたまま離れなくなった。
右腕も引く。
すると、ガイさんがショックを受けたように膝をついた。
「お、おれは……アリーに手を……」
自分が娘に手を上げそうになった。
それがショックだったのだろう。
手を見つめて震えている。
「ガイさん、アリーはどうでした?」
「あぁ。思っていたより強くて苛立って……」
「カッとなるくらい強かったんですね。それがアリーのこれまでの頑張りです。受け止めてあげてください」
「そう……だな」
拳を握って何かを決意したようにこちらを見つめた。
「テツ……アリー……そして、みんなも。俺に手を貸してくれないか? みんなの力が必要だ。兄を止める為に手を貸してくれ!」
手を差し伸べる。
「当然です。みんなで、お兄さんを止めましょう」
「おうよ! 頭領の為だ!」
「水くせぇぜ頭領!」
「俺らに敵う敵はいねぇ!」
これが、ガイさんのいままでの行いの結果なんだろうな。
胸にくっついたままのアリーは誇らしそうだった。




