23.説得
ギルドを出るとフルルを連れてアリーの家に向かった。
向かう道中何を言われるか頭の中を想像がグルグルと回っている。
いや、やましい事は何も無いのだ。
弟子を救うためなのだからいい事をしようとしているんだ。別に変に構えることも無い。
考えている途中だが、もう、家に着いてしまった。前には自警団がいる。
ビッと敬礼される。
「お疲れ様です! おかえりなさいませ! 今日は何も問題ありませんでした!」
「はい。お疲れ様です。有難う御座います。今日はもう大丈夫です」
「はっ! それでは、失礼します!」
ビッと敬礼すると去っていく自警団の二人。
早々に返しておかないとな。
修羅場になったのを見られたら不味いからな。
「ただいまぁ」
「おかえりなさい!」
アリーが優しい声で迎えてくれた。
胸がドキドキしている。
プロの殺し屋を相手にする時のような緊張感だ。
「あのな、話があってな」
「はい? なんです?」
「実はな、成行きで弟子が三人出来たんだが……」
「まぁ! 凄いことですね! まだ冒険者になってから数日しか経ってないのに」
徐々に胸を締め付けられていくような感覚に陥る。これは締めを決められて落ちていく時の感覚だな。
「一人女の子が居てな。男女三人で一部屋で暮らしてるって言うのだ」
「それは、いけませんね! 女の子が可哀想です!」
「だろ? だから連れてきたんだが……」
スっと体をズラして後ろにいたフルルが見えるようにする。
すると、目が急にスゥーッと冷たくなっていった。
胸がキュゥッと締め付けられる。
なにか不味かったか?
ここまでの流れは完璧なながろだとおもっていたんだが……。
「テツさん?」
優しい声が更に恐怖を増加させる。
背中がゾゾゾゾッと寒くなる。
「は、はっ!」
直立不動になり前世の組織時代を思い出させる立ち振る舞いになってしまう。
それは、反射的に出てしまった。
「この子はもはや女の子ではなく女性です。れっきとした成人女性ですよ? どこに住まわせる気ですか? まさか、自分と同じ部屋におこうなんて─────」
「ち、違う! 俺の部屋に住んでもらって、俺は宿に泊まろうかと思ってたんだ!」
自分でも驚いた程の弁解の言葉が出てきた。
自分がこんなにビクビクすることがあるとは今まででは考えられなかっただろう。
何をこんなにビクビクするのかは自分でも分からない。そうさせるなにかがきっとあるのだろう。
「……それは、家に入るお金が減るということですよね? それも、ちょっと困ります。私の部屋に一緒に住みましょう! ねっ? 私妹欲しかったんですよぉ。年はいくつ?」
「……18?」
フルルが口を開いたことにより、アリーの感情は爆発する。
「かぁわぁいぃぃーー! お部屋に行きましょ? さぁさぁ」
奥のアリーの部屋に消えていった。
あぁ。開放された。
一戦交えた後のような疲労が体を襲う。
「ふぅぅ」
息を吐き出して自分の心臓のドキドキを収める。何とか乗りきったな。フルルの事を受け入れてくれたようだ。
だが、ミリーさんに許可を取ってないな。
大丈夫だろうか。
そこに裏から薪を持って現れたミリーさんに事情を説明する。
すると、快く了承してくれた。
「私的にはテツさんがそうしたいなら宿に行っても構わないんだけど、きっとアリーが一緒にいたいのよ」
「そうだろうか?」
さっきのあの雰囲気はとても俺と一緒にいたいからだとは思えないのだが。
それが本当だとしたら女性の演技力には舌を巻くものがある。
「そうよ。あの子照れ隠しが上手いのよ。それに、妹が出来たみたいでホントに嬉しかったんだと思うわよ? 昔は妹が欲しいって毎日のように言っていたし。あの人が亡くなって、それも言わなくなったのよね」
顔に影を落とす。
暗い雰囲気になってしまった。
どうしたものか。
「ねぇねぇ! みて! 可愛くない!?」
奥から飛び出してきたのはアリーとアリーに引きずられているフルルであった。
ローブしか着てるのを見てなかったが、今着てる服は上下が別々になっている。
襟の着いたTシャツの様なものをヒラリとしたスカートのようなものにインして着ている。
思っていた以上にスタイルが良い。
「そ、そうだな」
「ねぇ! ホントに可愛い! ねぇテツさん?」
再びデジャブが。
背筋が凍る。
「はっ!」
また直立不動になってしまった。
「フルルちゃんを怪我させたらダメですよ?」
そう来たか。
しかし、訓練の内容次第では打撲は普通にある事だろうが。
どうしたものか。
「……」
どう返事をするか考えていると。
「アリーさん……私が……テツさんに……お願いしたんです……怪我くらい……仕方ない」
「えっ!? でも、こんな細くて白い腕だよ? 怪我したら痛々しくて見てられないよぉ!」
「私は……女捨てる……強くなる為」
フルルは今、本気で強くなろうとしている。
女ということを捨ててまで。
その目に胸を打たれたのだろう。
「そっか。冒険者って皆そうなのね。強くなりたいものなんだね。怪我でどうこう言ってられないか!」
正直ホッとした。
フルルが進言してくれなかったらどうしたもんかと思っていた。
「テツさん……ナイフ……貸して?」
「ん? あぁ」
鞘から抜いて柄の部分を差し出す。
礼を言うと髪をガシッと掴んだ。
綺麗なピンク色の髪だ。
耳の下くらいをグッと掴むとその上にナイフを走らせる。
「おい!」
「ちょっと!」
俺とアリーが静止するが、次々と髪を切っていき、終わった頃にはショートヘアになっていた。
「私……女……捨てた」
フルルなりの覚悟の決め方だったのだろうな。
女性の髪は命より大切だと聞いたことがあるからな。
「フルルちゃん? ちょっといらっしゃい」
ミリーさんに呼ばれていくと椅子に座らされてフルルの髪を細いナイフで切っていく。
「短いなりにも少し整えましょうね?」
フルルは顔を赤くしながらミリーさんに従って切られている。
しばらくすると綺麗に整った髪になった。
「よしっと!」
こうして弟子のできた新生活が始まろうとしていた。




