疑惑の視線
「さて……先程精霊の支配権を奪ったのはお主だな?」
支配権を奪った、か。なるほど。そう言う表現もあるのか。確かにその通りだね。だけどそれを正直に言うつもりはない。
「心当たりがありませんが」
「こちらから精霊に働きかけていたものを、強引に制御を奪いおって。それが出来るのは、魔法を行使しようとしている者がより上位のものか、もしくはより力の強い精霊を使役している者」
ぐ、的確。僕がオスト公より上位って事はないけど、ノワールを使役しているという意味で彼の指摘は正解だ。だけど、精霊に関して言えば、『より力の強い精霊』という表現が気にかかる。
そういった存在はノワールやルークスのような大精霊か、四大精霊王しかいないはず。
「我がオスト公爵家は、風の精霊王シルフの加護を受けている。にも拘わらず、風の精霊共が私の支配に逆らうとは合点が行かぬ。お主がシルフを使役している訳でもあるまいに」
ははは。むしろ精霊王達は敵対する存在だからなぁ。
「お主のジョブが魔法使いの上位職、魔導士であるなら可能性はあるが」
それもないだろうね。僕には四大精霊を扱う魔法に適正がない。ノワールの力で強引に従わせて魔法を発動させているだけだし。だけどジョブに関しては興味がある。僕がまだウィザードのままなのかどうか。
「確かにギルドの適性検査では、魔力量だけはゴールドランク相当と評価されましたが、ついこの間までは火種すらまともに起こせない出来損ないでした。僕は上位ジョブなんて事は有り得ません」
何も嘘を言ってはいないからね。僕は堂々と言い放った。
「ふむ、まあ良い。だが私はマルセルを良く知っておる。アレは自ら命を絶つような男ではないし、死の間際まで見苦しく抵抗する男だ」
オスト公は僕を値踏みするような目つきで尚も続ける。
「つまり無抵抗のままタッカー卿に殺される事もないし、自殺する事もない。つまり、誰かが殺したと考えている。貴族、しかも領主の暗殺なぞ、即刻極刑の重罪だな」
なんだよ、さっきのタッカーさんへの話じゃ平民落ちで済むって可能性もありそうな話だったけどな。その犯人が僕だとしたら、死罪は免れないって事か。
「犯人の身分によって罪状が変わるんですか? 随分と不公平ですね。まあ、僕には関係のない話ですけど」
「そうか、無関係か。お主ならば出来そうな気がしたのだがな」
「ご冗談を」
そんなやり取りの後も、暫くオスト公は僕を見つめていた。お年寄りに見つめられて喜ぶ趣味はないんだけどなぁ。
△▼△
そんなピリピリした空気の面会は終わり、立食形式の晩餐会がとり行われた。貴族の付き合いと無縁の僕等は、テーブルに並べられた料理に舌鼓を打ちながら、タッカーさんとオスト領の主要な面々が交遊している様を遠巻きに見ていた。
「完璧にあんたの事疑ってるわね」
「まあ、そうだろうね。でも何一つ証拠は残していないし、僕を犯人に仕立て上げるの無理があると思うよ」
デライラが僕の隣で果実水を飲みながら、ヴィルベルヴィント様に車椅子を押されながらタッカーさんと歓談するオスト公を見ながら言った。まあ、彼女の言う通りなんだけど、今回はマルセルの完璧とも呼べる寝室の警護が裏目に出ている。あそこに忍び込んでの殺人など、部外者には不可能だ。
「でも、白でも黒にするのが貴族の権力ってものでしょ。きっと今まで、貴族の都合で冤罪を着せられて死んでいった人達なんて、数えきれないんじゃない?」
「ははは。それもそうだね。怖い話だよね」
「もう……全然怖がってないじゃない」
呆れながらそう言うデライラに、ボウルに盛られたサラダを頬張っているノワールが咀嚼しながら言った。
「もひほうはへば――」
「ノワール、飲み込んでから喋れ」
「ゴクン。申し訳ございません。もしそうなれば、また一人貴族がこの世から消えるだけです。心配には及びませんよ、デライラ様」
また、テーブルから骨付きの肉を持って来たアーテルが、ノワールに付け足すように言う。
「四公家ってのはつまり、四大属性をどれかを得意とする家柄だろ? 多少腕の立つウィザードかも知れないが、ノワールやルークスがいれば精霊達は連中の支配から離れてしまう。つまり――」
「魔法が使えないウィザードなんて、少し前のショーンみたいなものって事ね」
おいこらデライラ。それは言い過ぎ……でもないか?




