掃討完了
裏庭にいた襲撃者達は、特に身を潜めているという感じではないね。何か、事が起こるのを待っているかのような、そんな感じで待機しているように見える。
僕達は一旦宿に入り、外に転がしている襲撃者達の見張りはルークスとグランツに頼み、再び屋根から裏庭にいる者達の様子を見ていた所だ。
僕達に気付いた襲撃者達が一瞬驚愕の表情を浮かべるも、すぐさま臨戦態勢に入る。
咄嗟の判断が早いよね。それに今まで捕縛した連中もそうだけど、多少の違いはあれども黒尽くめの装備に覆面で統一されている。その道のプロの組織って感じがありありだ。どう見てもカタギの人達じゃないよね。
僕達は屋根から飛び降りた。裏庭全体に襲撃者達の緊張が走る。
僕も背中の双短激を抜く。身体強化、そして武器強化。この人達も命令されて仕方なくって人もいるかもしれないし、そうじゃないかもしれない。でもそんな事は僕は知らない。僕と僕の仲間の命を狙う奴らだ。手足の四、五本は覚悟してもらおう。
「ご主人様。手足はどう頑張っても四本までです」
ノワール。僕の心の声を読んでツッコミを入れるのは止めてくれないかな?
「申し訳ありません」
「そんな事よりノワール。ルークスと念話が出来るなら伝えて欲しい。今から裏庭の連中を叩きのめすから、死なない程度に治癒を頼みたい」
「承知しました。聞こえましたね? そちらはスケベ梟だけで十分でしょう。すぐさまこちらに来やがれ下さい」
おいノワール、言葉遣い。てか、ルークス達にも僕の心の声聞こえてるの!?
「ふふ、仕方ありませんね。ノワール、あなたも尻を揉まれたくらいでそう邪険にしないで下さい。グランツがしょんぼりしていますよ」
ちっ、人間なら殺せたものを――そんな物騒な発言が聞こえた気もしたけど、まずはこっちに集中しようか。
「いくら待っても合図とかそういうのないです。正面と両サイドの連中はすでに無力化していますので」
これで退散してくれたら楽でいいんだけど、無理だろうなぁ。
敵のリーダーらしき人が無言で顎をしゃくった。それだけで十二人はそれぞれの武器を手に襲い掛かってきた。予想通り問答無用か。
「仕方ない。やろうか」
「ふふふ……」
「おう!」
タイプは違うけどノワールもアーテルも喜んでいるらしい。決してバトルマニアとかじゃなくて、敵対するものを倒す、その喜びだと信じたい。
「がああっ!?」
敵にはウィザードが二人いた。ウィザードの技量にもよるだろうけど、魔力の動きを感知できるのも僕達のジョブの特徴だ。むしろ、闇の大精霊ノワールに掛かれば、四大精霊達に圧力を掛けて魔法を発動すらさせない事も可能だ。
ところが、ノワールがそんな小細工を弄するまでもなく、一気に加速したノワールとアーテルが二人のウィザードを倒してしまった。
ノワールは飛び蹴り、アーテルは顔面にグーパン。まあ、いつものフィニッシュなんだけど。二人とも魔力の動きを読んでウィザードの位置を把握し、魔法を発動させる前に接近して倒したって事だ。
二人を見ていると、僕って必要かなって思うね。
そんな事を思っているうちに、三人が襲い掛かってきた。
一人が槍で突いて来る。長柄の武器で先制して僕の体勢を崩したところを、残りの二人が仕留める気か。だけど僕は両手に短双戟を持って広げたまま突いてくる槍へと突っ込んでいく。左右に別れた二人を短双戟で牽制しながら、顔を狙ってきた槍の穂先を紙一重で避ける。
そのまま槍を引く速度より速く踏み込み、顎に飛び膝蹴りを喰らわした。そのまま振り返り右手短戟を振るえば、受けた剣ごと敵が吹き飛んでいく。
もう一人が左から斬り掛かってくるが、左手の短戟でそれを払い、右手の短戟の先端で奴の太ももを突く。動きが止まったところを戟の石附で鳩尾を付き、無力化。
どうやら残りの連中も、ノワールとアーテルの所へそれぞれ三人ずつ向かったようだが、成すすべなく倒されていた。
一人の人間に一度に掛かれるのはせいぜい三人くらいじゃないかな? それを即座に実行し、しかも無駄口一つ叩かないで襲い掛かってくるあたり、こいつらはどう見ても人殺しのプロって感じがする。
さて、残りの一人だけど……
「……」
無言でこちらに殺気を飛ばし、双剣を構えている。僕だけはどうあっても消すつもりか。
「ご主人様、手助けは?」
「いらないかな? その辺に転がってる連中を縛り上げて宿の前に並べてくれる?」
「畏まりました」
僕は敵から視線を離さずにノワールにそれだけ指示した。あとはアーテルとルークスがいいようにやってくれるだろう。
「さて。僕には命を狙われるような覚えはないんですが、あなたは何者です?」
敵は僕の問いには答えず、一気に間合いを詰めてきた。動きに全く迷いがないな。僕は少し遠い間合いだけど、右手の短戟を振るった。風圧がヤツの踏み込みの速度を鈍らせる。そこで僕も踏み込み左の短戟を横薙ぎに振るう。
だけど、僕の一撃はバック宙がえりで躱されてしまった。結構やるな、この人。
敵は右に左にステップを踏み、フェイントを織り交ぜながら左右の短剣で突いてきた。速い。
速くて強いし多分場数も踏んでいるんだろう。だけどあくまでも普通の人間として見ればの話だ。いつぞや模擬戦をしたイヴァン副ギルド長の方が数段速いし一撃も重い。やっぱりゴールドランクって普通じゃないんだね。
更に言えば、ノワールやアーテルとは比較にもならない。
「くっ!」
そんな訳で、余裕で躱していると、敵の雰囲気から焦りが漏れ始めた。いくら攻撃しても掠りもせず、突破口すら見いだせないんじゃしょうがないね。
「そろそろ終わりです」
敵が突いてきた右腕を引くタイミングで僕がカウンターで突く。短戟の穂先がヤツの右肩を貫いた。それでも怯まずに左手で突いてきたので、僕の短戟の三日月牙が左腕を斬り飛ばした。これで奴は両腕を使えないダルマ同然だ。
「まだやりますか?」
ヤツは剣を地面に落とし、空を向いた。
――自死する気か。
「自分だけ死ぬとかないでしょ」
僕は鳩尾に拳をめり込ませ、最後の一人の意識を刈り取った。




