闇属性に夜襲など愚の骨頂
僕達三人が影泳ぎで移動したのは宿の屋根の上。三階建ての中々大きな宿だ。その分上からの見晴らしはいい。とは言っても夜陰に紛れている襲撃者達だから裸眼で見つけるのは至難の業なんだけどね。
僕は視力を強化する為に目に魔力を込めた。
「入口正面の路地に十人、裏庭に十二人、左右の通路にそれぞれ四人ずつ」
影に潜んで探りを入れているノワールから報告が入る。場所さえ分かれば強化した僕の視力なら丸見えだ。
「正面の十人から潰してしまおう」
「畏まりました」
「ああ、了解だ」
ノワールとアーテルがニヤリと笑う。その笑顔を確認した僕は、二人を連れて影の中へとズブズブと沈んでいった。
正面にいる十人が潜んでいる座標は既に把握している。僕達は容易く十人の背後を位置取り、音もなく地面から姿を現した。
「お勤めご苦労様です。何かあったんですか?」
僕は平時と変わらない口調で殺気立っている十人の男……いや、女性もいるのかな? に声を掛けた。何しろ覆面で顔を隠してるからよく分からない。ただ、若干丸みを帯びた体形の人もいるから女性かもってだけ。
十人は驚いてこちらに振り向いた。物音一つ立てずにいきなり現れたのだから、完全に虚を突かれた形だね。
「バカな。一体どこから」
「なぜバレている!?」
口々にそんな事を呟く中、一人の男が叫んだ。
「見られたからには仕方ない! やれ!」
リーダーらしき男の命令を受け、十人がそれぞれ僕達を取り囲むような位置へと移動しようとする――が、全員がその場で首まで沈み込んでしまった。
「な、何だこれは!」
「くっ! 動けん!」
既に仕込んでいた土と水の複合魔法。デライラの元パーティメンバーをダンジョンで嵌めたあの泥沼の魔法だ。そしてそのまま水分を蒸発させ、首だけ出した状態で生き埋めにしてしまう。朝までこのままでもいいんだけど、騒がれたら厄介なので、全員に猿轡を噛ませた。
「これ、このまま宿の前まで移動できないかな?」
ノワールに訊ねると、少し考えてから答えてくれた。
「かなり緻密な制御がひつようとなりますが、出来なくはありませんね」
ノワール曰く、移動先の地面を柔らかくした上で、彼等を高水圧で押し流すようにすればいいそうだ。口で言うのは簡単だけど、彼等の拘束を緩めずに移動させるのは確かにとんでもない集中力がいるなあ。
闇属性の魔法でなら簡単に出来そうだけど、これは僕の不得意な四大属性の魔法だしね。
それでも僕はなんとかやり遂げて、宿屋の入り口の前に雁首を並べて趣味の悪いオブジェのように陳列させた。でもこれは大変だからもうやめよう。
「次は私共が手分けして左右の通路の賊を無力化してまいります。ご主人様はここで待っていて下さい」
「うむ、我等に任せておけ」
ここでノワールとアーテルが頼もしい言葉を残してあっという間に消え去った。間もなく、小さくくぐもった悲鳴が数回聞こえた。
やがて、右手から一人分の足音が。左手からは何かを引き摺るような音と、一人分の足音が。
「手応えのない連中だ」
そう言いながら両肩に担いでいた四人をドサドサと落とすアーテル。君、両肩で四人運ぶとか凄いね。
「全く……この程度でご主人様を狙うなど……」
もう一方からはブツブツと小言を言いながら四人を引き摺ってくるノワールがいた。闇の魔力を極度の濃縮させて物質化したものでそれぞれの足首を絡めとって運んできたみたいだ。あそこまで濃縮させるのは、僕にはまだまだ無理だなぁ。
「二人とも随分早かったけど、どうやって倒したの?」
「ん? 殴り倒したんだが?」
「蹴り倒しました!」
「あ、うん、そうだよね」
二人とも、予想通りの答えを返してくるあたり、流石だね。思わず苦笑してしまった。
さて、次は裏庭の十二人だね。行こうか、二人共。




